イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ドリフェス!!!!!!:第3話『2032』感想

男子アイドルアニメ戦国時代に着弾したド直球青春ストーリー、今回は及川慎・回答編。
ミステリアスでクールな及川くんの『謎』の種を撒いた前回を見事に発展させ、熱血主人公・天宮奏が一つの曲を読み解き、思いを伝え、止まっていた時間を動かすまでの奇跡を熱く描くエピソードでした。
慎と奏の心の交流をぶっとく真ん中に据えつつ、"2032"にまつわるミステリー、アイドルとメディア、スキャンダルとの付き合い方、作品に掛ける思いと、様々なものを一筆で描ききるパワー満載。
序章が終わって『ドリフェス』というアニメが何を扱うのか見せるタイミングで、こういう骨太なエピソードが仕上がってきたのは、本当に素晴らしいと思います。


褒めるべき部分がたくさんあるエピソードなんですが、何よりもまず心を震わせてくれたのは、主人公・天宮奏の真っ直ぐな気持ちの表現力と、それが世界を変えていくパワーの描き方。
自分の気持ちを閉じ込めずに、かと言って独りよがりに振り回すのでもなく、的確に為すべきことを言葉と行動に変化させ迷わず動くことに出来る奏は、見ていて気持ちの良いキャラでした。
彼の行動力が停滞していた状況を動かし、様々な間違いをただし、止まっていた時間を動かして、在るべきものを在るべき場所にしっかり収めてくれる過程は凄くパワフルで、そういう気持ちのいいやつがお話しの真ん中に収まっているということが、非常に頼もしい。

奏での行動を見ていて気持ちいい理由は幾つかあるのですが、一番大きいのは『見ている僕らがやってほしいことを、しっかりやってくれる』からだと思います。
前回Bパートから今回Aパートにかけてのストレスのかけ方は非常に巧くて、慎が知性とハートを兼ね備えた好人物だということをちらりと見せつつ、同時に何かに拘り、何かを隠していることで状況が悪化していく過程を、丁寧に体験させています。
それは非常にもどかしい視聴経験であり、見ている側としては『誰かすげーヒーローが、このもどかしい状況をぶっ飛ばして、話がスムーズに流れるようにしてくれねぇかなぁ!!』という期待を自然と抱いてしまう。

そしてその計算されたフラストレーションを、真っ直ぐにぶち抜いてお話を結末に引っ張ってくれるパワーと真っ直ぐさが、奏にはあるわけです。
俺達がほしい時に、欲しい行動を取ってくれるキャラクターには当然『信頼』が生まれれるわけで、主人公に対しこれを抱けるか否かというのは、作品全体を『信頼』出来るかどうかの、大きな境になる。
周囲の一歩引いた態度を気にせず、人間として正しく、自分の気持ちに素直に慎に向かって走っていくがむしゃらな誠実さ。
過去の辛い別れから、周りと距離を取ろうとする慎の心に思いっきり踏み入って、慎が葬ろうとしていたあの日の真心をちゃんと引っ張り上げてあげる熱意と優しさ。
ただガムシャラなだけではなく、自分の心中も人間としての正道も的確に言葉にする知性を持っていること含め、とにかく奏が好きになれ、信頼できるエピソードだったと思います。

奏が熱意とクレバーさを併せ持っている、バランスの良いキャラクターなのは非常に面白いところで、"2032"の謎解きも純哉くんとぶつかりあう中で自発的に気付くし、慎のナイーブな気持ちもちゃんと慮り、言葉を選んで接触できている。
そういう繊細さや優しさと、己の心の中の真実(それは大概の場合、本当に正しいことと一致しているわけですが)に後押しされるまま走るパワーが同居していることで、ただ気持ちだけが先行して世界がより良くなっていく展開よりも、話しを受け入れやすくなっています。
ここら辺の人間力の高さが非常に心地よくて、キャラクターと物語を『信頼』し、体重を預ける気にさせてくれました。


ただ主人公が突っ走っているだけでは、今回感じた満足感は得られなかったと思います。
慎が何に悩み、何を隠してあまり正しくない行動を取ってしまっているのか。
そしてその奥に、どんな瑞々しい情熱を隠しているのかをしっかり示せたからこそ、奏の情熱と知性が状況を変化させる展開が心地よく感じられ、最後の『奏』呼びに大きく頷くことも出来るわけです。

これは前回からの構成が非常にうまく効いているところで、"2032"を恋愛の歌と一度誤読し、スキャンダルとバイラルメディアによる心無い攻撃とこの誤読が重なることで、奏と視聴者は"2032"の真実を読解する必要にかられます。
慎のことを何も知りはしない無責任な連中と、自分たちは違うんだと示すためには、積極的に曲に隠された真実に潜り、慎のクールな態度の奥に分け入らなければいけない。
奏が慎に接近していく運動が、"2032"の真実に切り込んでいくミステリと巧く連動していて、物語の展開と視聴者の感情を的確にシンクロさせているわけです。

重ね合わせは視聴者と奏だけではなく、現在の奏と過去の慎の間でも発生しています。
ロッカールームで奏は、純哉くんと熱く気持ちをぶつけ合った果てに、『尊敬する戦友を失いたくない』という自分の気持ちに気づき、それが"2032"に込められていることに思い至る。
クールを装っていた慎はその実非常に繊細で熱い存在、吠えたけり走り回る奏と似通った部分のあるアイドルだと気づいたからこそ、奏はもう一人の自分に追いつき、自分の気持ちを伝え、慎自身が気づいていない気持ちを蘇らせるために、転ぶことも厭わず走るわけです。

雨の中を必死に走り抜けて友の手をつかもうとする奏は、圭吾の手を取ることができなかったかつての慎と同じ存在であり、だからこそ"2032"の真実も、慎自身が気づいていないこの局面での正解も、奏は掴み取ることが出来る。
そして慎も、奏の美徳である素直さを共有しているからこそ、奏の提案を受け入れ、ファンと圭吾に己の心中を言葉で伝え、誤解を解くことが出来る。
"2032"で時間を止めてしまったクールガイが、過去の自分の写し絵のような熱い男と出会い、その姿を見ることであのときは見つけられなかった星を見つける展開は、人間の心と心が響き合うドラマ、『歌』を通じて心を通わせるアーティストの物語に満ちていて、強い説得力がありました。
慎のクールさを強調していたからこそ、奏の体当たりで心の扉がぶち空き、秘めていた情熱が溢れ出す瞬間のカタルシスが本当に凄いことになってた。

奏が追いつき変化させる前の慎を、完全に間違ったものとしては描いていないところも、非常に優れた描き方だと思います。
『歌は一度世に出たら、聞く人の所有物になる』という慎の言葉には、たしかな潔さと誠実さがあります。
しかしその物分りの良さの奥には、パパラッチに思わず反発してしまうような熱い気持ちがあり、止まっていた時間を動かしたいという切なる願いがある。
完全には間違っていない『スゴいヤツ』の凄さを尊重しつつも、そのために犠牲になっている思い出や気持ちに辿り着き、蘇らせる奇跡を主人公に果たさせ、ただ間違いを正すよりも遥かに高い場所に二人一緒に立つ。
そういう話運びはお話しの到達点も、そこにたどり着いたキャラクターも『尊敬』できるものとして感じさせ、爽やかな読後感を与えてくれました。


赤と青、二人の青年が出会い、触れ合い、凍りついていた時間が動き出す物語は非常に骨太ですが、そこで終わらずに様々な場所に目配せをし、小気味よく描写してくれた技量もまた素晴らしかったです。
『アイドル』をテーマにした深夜アニメという作品定義を活かし、スキャンダルやメディアとの距離感、ファンとの向き合い方、楽曲と取り組む姿勢を、青年たちのドラマに無理なく取り込む手腕とか、マジ圧倒的に巧すぎる。
非常に沢山のテーマが掘り下げられているんだけど、ドラマの中で自然に語ることが出来ていて、硬さがないのが本当に凄い。

キャラ描写に関しても目配せが効いていて、奏の壁役になることで気持ちを引き出した純哉くんの使い方とか、真実に迷わず飛び込んだ奏と足踏みしてしまった純哉くんとの距離とか、凄く良いなと思います。
奏が主人公特権で迷わず辿り着く『正解』に、斜に構えた純哉くんは今回たどり着けないんだけども、彼が慎と同じように熱い思いを隠した青年だというのは既によく見えているし、距離が空いているからこそ奏に追いつく物語が今後展開されるという期待感も、グンと高まっている。
ここら辺は前回から今回、慎を主役に展開した見事な物語と同じ構図であり、今回と同じように食いごたえと誠実さのあるを純哉くんでも展開してくれるという信頼感が感じ取れます。
純哉くん、マジ必要なタイミングで必要なトス上げてくれる良いキャラだからなぁ……メイン回った時に、良い料理のし方して欲しい。

奏と慎の関係が変化するってところで止まらずに、成長した圭吾と慎がすれ違う所までエピソードに入れ込むのは、貪欲かつ冷静で最高の展開でした。
慎は今回奏と出会うことで止まっていた時間を動かしたけども、もうひとりの当事者である圭吾はどうなっているのかという疑問は、視聴者に自然と湧いてくるものです。
そういう余韻を目ざとく利用し、おそらくはライバルとして主人公に立ちふさがるだろう圭吾の現在の姿をちゃんと捕まえて、今後の展開への予感と期待を高めていくのは、奥行きがあって良い収め方だなと思いました。

OPでの暗示の仕方も巧くて、"KUROFUNE"の相方黒石くんが圭吾にとっての奏となり、また別の形で止まっていた時間を動かすんだろうなという見立てが、しっかり出来るようになってんのよね。
来週純也くんを足して信号機、緑と紫を掘り下げて"DearDream"が結成したあたりで"KUROFUNE"と向かい合うと思うんだけども、今回慎との因縁を見事に掘り下げたことで、その展開がとにかく面白そうに思えるもの。
メインストーリーを見事な精度と密度で仕上げつつ、ロングレンジで期待を煽ることも忘れないのは、とにかく図抜けたバランス感覚だなと思います。


というわけで、前回タメた要素を一気に爆発させ、主人公の真心がクールガイの熱い真実を掘り当てるエピソードでした。
キャラクターの優れた部分、尊敬できる要素をつなぎ合わせて話を作ることで、くすみのない爽やかなお話が組み上がっていくのは、非常にこのアニメらしい、心地よい真っ直ぐさでした。
凄く『正しい』ことをしているんだけども、迷いや間違いを丁寧に掘り下げた結果体温が失われず、真実味を込めて物語を語れているのが、とにかく強い。

かくして名前で呼び合う絆を手に入れた青と赤ですが、来週は黄色も足してまた一悶着っぽく。
これまでの出番で既に、俺は純哉くんのこと相当好きになっちまっているので、来週が楽しみでなりません。
社長と三神さんのお菓子コントが三度あるのかとか、細かい部分も気になりつつ、この骨太青春アイドルストーリーを真正面から受け止めたい。
そんな気分が満杯です。

Lostrage incited WIXOSS:第3話『セレクター/蜜と毒』感想

顔のない悪意が失われた怒りを喚起するTCGバトル・サスペンス、今週はすず子第二章・末路。
再び始まったゲームの末に何が待っているのか、同時並列で展開するバトルで見せる回でした。
相変わらずの利益なし・出口なしの閉塞感満載バトルではありますが、お兄ちゃんの抱え込んだカルマが濃厚すぎて、なんかヘンテコな高揚感があったなぁ。

色々と情報が出て来る回でしたが、やはり一番インパクトが有ったのは今回の末路。
コイン全てを失えば記憶を無くし、人格も失って別人になってしまうという、クソみたいなゴールが示されました。
どうしても無限少女システムによる肉体乗っ取りを想起させるペナルティだけど、実は『セレクターの意識が消失する』『別の人格が宿る』という結果だけが今回描写されていて、そこにルリグが絡むか否かは分かんないんだよなぁ……。
ここら辺は『ブックメイカー』という言葉と同じように、今後掘り下げていく部分なんでしょう。

今回のシステムが悪意に満ちたデスゲーム詐欺だというのは早い段階から見えているので、サスペンスとして話を引っ張るためには、詐欺の細かい内実を露わにしていくことが大事になっています。
ここの見せ方次第で話も盛り上がるし、同時にミスリードを仕込んで『やられたッ』と思わせることも可能なので、情報の開示と隠蔽をどうやって行くかは大事。
一つの謎が明らかになり、もう一つの謎が生まれていくカードの見せ方は、現状なかなか面白いと思います。

話数を積み重ねるに従って、ルリグとセレクターの関係性も多様に描写されてきて、みんながみんな心の隙間に漬け込む悪魔というわけではなさそうです。
はんなの所のナナシは従順な戦士って感じだし、あーやは毒舌肝っ玉おかんだし……ルリグがセレクターの記憶を反射する鏡だとしたら、セレクターの多様性だけルリグにも色々あるってことかな。
そんな彼女たちが同一のシステム上で生産され、同一のルールに従ってバトルしているのは間違いないっぽいわけで、多様性をまとめ上げるためのカラクリが一体どういうものなのかってのが気になるわけだが……これはゲームの目的にも関わる大ネタだろうな。

謎だらけのシステムに理不尽に巻き込まれ、逃げ道のない袋小路であがくお話である以上、システムが解明されていくことがお話しの進行とイコールなのはよく分かる。
つまり『なぜこのシステムが生まれ、何が目的なのか』という一番のモヤモヤはクライマックス直前までわからない訳で、そこを疑問に思いつつ、ここのセレクターの生き様/死に様を味わうのが、この段階では良い受け止め方なのかもしれません。
各人の価値観や行動方針をしっかり見せることで、後々セレクターバトルというシステムに反発する/従う/傍観するっていう大きな話が回りはじめた時、スケールの大きなダイナミズムを感じるのだろうしね。
いろいろ考えて、自分なりに『こうじゃないかなぁ』って答えを思い浮かべるのも、なかなかに楽しいですが、この話が一種のミステリである以上、答えはどうやっても、先を見ないとわからないからなぁ。


個々のキャラ描写に目をやると、すず子の食事シーンは色々密度が濃くて、セレクターバトルを拒絶しつつ居場所がリルにしかなくなっていく様子とか、そうなるよう追い込むリルの悪魔っぷりとか、良い窒息感だった。
薄暗い家の中で一人食事を取りつつ、気づけばリルの気に入る話題を出して『家族』の温もりを演じるすず子の限界っぷりは、痛ましいやらヤバイやら。
リルが『がんば!』だの『二人なら大丈夫!』だの、記憶をスキャンして都合のいいパワーワードを引っ張り出してくる都合の良さは、ガッチャマンクラウズインサイトの『くぅさま』みたいですな。
そのくせ『聞かれなかったから、言わなかっただけ』だもんなぁ……他のルリグと比べてもリルは邪悪というか、セレクターバトルシステムを円滑に運営する≒女子高生を地獄に追い込むことに熱心で、なんか理由があるのかと考えたくもなるな。

今回お兄ちゃんとあーやにガッツリ切り込んだことで、ルリグアーキから記憶を転写し、後悔や自罰願望なんかも反映してルリグが生まれる過程は、結構分かってきたと思います。
お兄ちゃんはマジキモいけど誠実な人で、過去への後悔と妹の愛情故に歯車が狂っちゃって、そういう歪みを反映してあーやがああなっているかと思うと……思うと……やっぱキモい。
そのキモさを逆手に取り、『キャピった妹キャラを演じつつ、実は毒舌肝っ玉キャラ』というあーやのキャラを際立たせるのも、なかなか巧かったな。

あーやとリアル妹が全然似ていない所が、逆にお兄ちゃんの追い込まれっぷりを強調していて良かったですね。
歪んでしまったとはいえ、お兄ちゃんはセレクターバトルに本気で立ち向かう理由がしっかり見える初めてのキャラなので、なんとか報われて欲しいと思いました……年頃の少女なら誰でも妹認定する所とか、最高にキモいけど、いい人であるのは間違いないんだ、キモいけども!!

一方かがりとはんなの勝負はかなりアッサリと決着がつき、はんなのドライな部分が強調される展開でした。
はんなは非常に理性的というか冷徹というか、TCGライターという職能に促されるまま、セレクターバトルの真実に辿り着きたいっていうクールなキャラだからな……ドライで強いのも納得といえば納得。
ブックメイカー』『敗北のペナルティ』と、気になる部分の触りを見せた上で核心は隠す見せ方は、いい具合に興味を掻き立ててくれてます。

他にもタイムアップ狙いのイレギュラー・白井くんとか、『ブックメイカー』らしき謎の男とか、群像劇を掻き回すアクターがチラホラ顔見世。
セレクターが抱えているカルマが表に出てくると、俄然面白くなってくる』というのはお兄ちゃんが証明してくれたので、謎を紐解き謎を増やしながら、セレクターの人となりにはどんどん踏み込んでいって欲しい。
悪趣味な舞台設定にふさわしく、人間のドス黒い部分と一縷の光りは現状巧いことかけていると感じるので、ドンドンディープな部分に踏み込み、ドンドン温度を上げていってほしいですね。
タイトルに『incited lost rage』が含まれている以上、失われた怒りが吹き上がり抑圧を弾き飛ばす瞬間は、一つの見せ場として必ずあると思うんだよなー……その瞬間を燃え上がらせるために、今はガンガン上から押さえ込んでいるタイミングであり、秘めたる熱源を描写するタイミングでもあろうのだろう。


というわけで、末路が分かってもわからないことだらけ、謎が謎を呼ぶ第三話でした。
このゲームで失われる『記憶』は人格と強く結びついているので、『敗北→白紙化→上書き』というペナルティにも納得はいくんだけども、もう一枚何かを隠している感じもあるんだよなぁ……。
無限少女システムのインパクトを巧く活かした上で、一捻りしたギミックを仕込んでいるならとても面白いと思うので、今後の謎解きも楽しみです。

んで、セレクターの抱え込んだカルマはよりディープに、より逃げ場書のない袋小路で沸騰している感じ。
今回出番がなかったちーちゃんもガンッガンに追い込まえているので、おそらく意図的に分離されている二人の主人公が顔を合わせた時、どういう吹き上がり方をするのか。
楽しみでもあり恐くもあり、やはりこのアニメ、面白いですね。

 

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第30話『猫は吉良吉影が好き』感想

穏やかな日常の影で生と死が交錯するビザール・アドヴェンチュア、今週は楽しい川尻一家。
地下室に潜り込んだ猫に対応したり、庭の隅で雑草と戯れたり、勝手に部屋に入り込む息子に手を焼いたり、春が戻ってきた嫁にドギマギしたり、ごくごく普通のファミリーコメディでしたね。
まぁ嫁さんは愚かな一般人だとして、猫草はスタンド使いだし、息子は異常な分析能力を持つ度胸人間だし、夫は連続殺人鬼なんだけどね……。
川尻家を舞台に『日常』と『非日常』が衝突する瞬間を、生き生きと楽しくも恐ろしく描く、切れ味鋭いエピソードでした。

今回のお話は、これまではメインエピソードの合間に挿入されてきたサブエピソード、『吉良吉影、入れ替わりの苦闘』を表舞台に引っ張り上げた感じの話です。
おぞましくドス黒い殺人欲求の果てに川尻浩作と入れ替わった吉良ですが、滑り込んだ先には不気味な息子と欲求不満の嫁さん、そして色々面倒な入れ替わり生活が待っていました。
殺人衝動とスタンド能力という『非日常』を抱えた吉良が、あまりにも『日常』的な生活を矯正され生まれるズレ、おかしさ。
『正義』の主役たちの奮闘の合間に挟まれる『悪』主演のコメディーには、なんとも言えない人間味を感じました。

サブからメインに舞台を変えた今回も、そういう『ズレ』の面白さは全開であり、結構血なまぐさいのに笑えてしまう、不思議な空気がエピソード全体に漂っていました。
肩出しへそ出しであからさまに発情しているしのぶさんの猛アタックに当惑する吉良とか、可愛い猫草ちゃんとの一瞬の触れ合いとか、憎むべき『悪』のはずなのに思わず笑みがこぼれてしまう良いシーン満載。
『日常』の影に潜む恐怖という『ズレ』を強調するだけではなく、『悪』が『日常』を演じようとする『ズレ』に自然な笑いを添えて見せてくるコメディも、『日常』と『非日常』が入り混じりながら対決するこのお話を彩る上で、大事な要素だと思います。

色と動きと声がついたことで、しのぶさんの回春はなかなか切れ味鋭いネタに仕上がっており、セクシュアルな誘惑をそこかしこに投げかけるしのぶさんのラブリー加減と、それを叩きつけられる吉良の当惑が非常に面白い。
出会ったときはカップラーメン投げつけていたボサ髪主婦が、精一杯お洒落して手料理を振る舞うあたり、吉良から漏れ出る危険な香りは、しのぶさんにとって最高の媚薬なんだと分かります。
しかし『性=生』の方向に健全に発情しているしのぶさんは、『人が変わったような』夫の正体が『死=性的興奮』である連続殺人鬼だとは知らないし、知ろうともしない。
そういう鈍感さがギリギリ、この危うく愚かな恋を成り立たせているというのは、皮肉で面白いところです。

否応なしに『川尻浩作』になること、妻からのセックスアピールを浴びせられる状況に飛び込んだ吉良も、少なからず偽装生活から影響を受け、しのぶにある程度の情を移してもいる。
ここで『殺し』の過去を捨て、『吉良吉影』ではなく『川尻浩作』として生きつづけることを選択できたならまた話も変わったんでしょうが、しかし結局彼はファミリー・コメディの主役ではなくサイコ・サスペンスの敵役であり、しのぶさんの『生』に正しい形で呼応する展開はやって来ません。
まぁ改心されたからって今まで死んだ人はどーなんだって話だし、悪役がいなくなったら話の収まりどころもなくなっちゃうんで、なかなか難しい未来ですが。
川尻家のドタバタを楽しく描けていればこそ、あり得たかもしれない未来として色々想像を張り巡らせたくなって、作品に奥行きが生まれるってのは、確かにあるかもなぁ。


ともあれ、アンジェロのときは踏み込まなかった『殺人鬼の人間性』という問題が川尻家ではメインで描かれ、たとえ最悪の連続殺人鬼でも『家族の温かみ』という美徳に接近できるし、同時にそれは欺瞞でしか無いということが掘り下げられています。
前者を担当するのがしのぶさんなら、後者はただの小学生・川尻早人が担当するわけで、彼は『川尻浩作』がいつの間にか殺人鬼と入れ替わっているという、エイリアン退治物語の主人公だといえます。
猫草の血なまぐさいコメディでひとしきり笑った後、『ああ、そう言えばコイツ連続殺人鬼だった……』と水ぶっかける展開は、落差があって良い。

血のつながりはないはずなのに、異常な頭脳のキレと偏執狂的な性質が吉良そっくりなのは、結構面白いですね。
早人はしのぶさんから『本当は家族を愛したかった』という性質を継承していて、その思いとしのぶさんには無い知性故に、川尻家の『日常』が吉良吉影という『非日常』に侵入され、踏みにじられている事実に気づく。
吉良に於いては連続殺人という『悪』を覆い隠する武器になっている知恵が、早人はそれを暴く『善』に繋がっているという対比は、彼らが表向き『親子』という繋がりを背負っていることとあいまって、なかなか鮮烈です。

吉良がいらん独り言で自分の事情を全部公開し、早人が真実に辿り着いてしまう流れは、正直ちょっと強引にも感じます。
しかし彼が『静かに暮らしたい』とうそぶきつつ自己顕示欲の塊であり、殺人隠蔽よりも己の優越を証明するチャンスに飛びついてしまう迂闊さがあるというのは、これまでも示されたところです。
殺人衝動と同じように、魂に刻み込まれた根本的なあり方というのはなかなか変えることが出来ないというのは、そういう魂の有り様が『スタンド』に具現化するこのお話では、大切に守るべきテーマなんでしょう。
まぁ水も漏らさぬ完璧な殺人鬼が相手じゃ、話しは敵の完全勝利に終わっちゃうし、何より面白くないからな……吉良の隙が『可愛げ』『可笑しみ』だというのは、今回のコメディ力を見ればすぐに分かるわけで。

今回早人がおぞましい真実に気づいたことで、偽りのファミリー・コメディは維持できなくなり、一般人・川尻浩作は殺人鬼・吉良吉影の素顔を晒して行動することになります。
スタンド能力を持たない早人が、いかにして父に成り代わった連続殺人鬼と対峙していくかというのは、こっから先の話になるわけですが、スタンドを持たずとも『非日常』に対応できる彼の知性は、巧く強調できたと思います。
早人の孤独な戦いが仗助たちの物語と接触することで、第4部最終章の幕が上がるので、そのための土台をしっかり作れたのは、クライマックスを盛り上げるための大事な仕込みですね。


妻がいて、息子がいて、後ファミリーコメディに必要なのはペット。
というわけで、荒木先生の猫ヘイトを全身に受けて誕生した猫草ちゃんは、猫らしく自由な存在でした。
不気味なのに可愛い印象が猫っぽい動きで巧く強調されていて、良い存在感がありましたね。
"エコーズ"や"ハーベスト"もそうなんだけど、物言わぬ存在のあざとい仕草をアニメにするのが、四部は上手いですね。

猫草という共通の試練をくぐり抜けることで、早人が吉良に挑む資格のあるキレ者であると証明できているのは、なかなか興味深いところです。
これまで『気になるモブ』程度の存在だった隼人がお話しの真ん中に躍り出るには、その実力をバシッと証明することが大事で、吉良が苦戦した猫草を見事に攻略し、吉良の追撃もかわすことで証とする流れは、AパートとBパートがうまく繋がっていましたね。
同じ試練を共有することは、二人が『親子』であることも同時に示していて、色んな意味合いあるなと思いました。
実の親父が良かれと思ってぶっ刺した『矢』で猫草が生まれて、吉良が苦労する展開と合わせて考えると、偉い皮肉だな……オヤジの情は、この後も巡り巡って色々あるんだけどさ。


というわけで、川尻一家の現状にぐぐっとクローズアップし、家族喜劇とサイコ・サスペンスの入り混じった複雑な表情を掘り下げる回でした。
アニメになると、しのぶさんの誘惑コメディはエロくて面白いなぁ……あれでピクリともしないあたり、根本的に性欲が殺人欲求と直結されてんだなやっぱ。
今後作品の要になっていく早人のデビューとしても、なかなかに鮮烈で良い見せ方だったと思います。
来週はまた主人公たちにカメラが移るようですが、どんなお話が展開するのか。
非常に楽しみです。

フリップフラッパーズ:第3話『ピュアXLR』感想

極彩色の悪夢をあなたに!
見る幻覚剤、聞くアムリタ、今週は東映オマージュてんこ盛りでお送りします!!
『世界』そのものと戦っていた第1話・第2話に比べて、顔が見えて話が聞こえる相手と殴り合うお話でした。
オマージュ元が判りやすいのでパロディ色が濃いですが、思春期少女が手に手を取った、爆発力に満ちた深層心理の不安定さと殴り合う方向性自体は変化なし。
額に『負け犬』と烙印された"YAYAの系譜"ヤヤカちゃんも双子を引き連れて、魔法少女イリュージョン闘争に参戦し、酩酊はまだまだこれから盛り上がるという塩梅でした。

"北斗の拳""セーラームーン""ドラゴンボールZ""ふたりはプリキュア"……東映諸作品へのオマージュが山盛りだった今回ですが、万華鏡のように複雑な顔を持つ思春期の心理に、アプローチを変えながら潜っていくという方向性は、これまでのお話と変わりがありません。
むしろウィルウィッチアという、言葉が通じて触れることが出来る障害が出てきて、色々煽ってくれる分、ココナが何と向かい合っているかは見えやすかったかもしれません。
セックスとヴァイオレンスを支配する幼い女王・ウィルウィッチアは非常に判りやすい『心の闇』であり、彼女に煽られる形でココナはパピカへの暴力性を発露させ、それを経験することで更にお互いを愛するようになる。
このアニメで繰り広げられる極彩色の冒険がどのような性質を持ち、その核に何が配置されているかを確認する上で、『現実』を舞台にしたシーンがほぼ無い今回のお話は、より物理的で判りやすい話だった気もします。

やりたい放題画面上に立方体を飛ばし、いい感じの組手作画を暴れさせているだけのように見えて、細くて強い象徴のラインがエピソードを貫いてもいるのが、非常にこの作品らしい。
今回あらゆる場所で顔を出してくるのは『水』と『仮面』でして、これを強調するための砂漠の物語なのかなぁ、と疑うくらいです。
冒頭パピカが口にする『水』は優しさや潤いが凝縮したものであり、これを与えられることでパピカは力を取り戻すし、仮面ココナは井戸を蔑ろにし、ウィルウィッチアはカクテルグラスを投げ捨てます。
『水』はあの世界ではあるべき場所にはないので、本来海を泳ぐはずのガレー船も空を飛ぶ。
本来の姿(元ネタである奇想天外と、怪物化したウィルウィッチアはよく似てますね)を露わにした『敵』を倒すのも、『水』を弾丸に込めた合体バズーカなわけで、乾きから命を守ってくれる『水』を己のモノにする運動は、今回何度も繰り返されます。

もう一つは『仮面』でして、パピカを助けてくれたサンドピープルも、案外人間味があったモヒカン軍団・アイアンボーイズも、ウィルウィッチアが支配するエロティックな少女たちも、皆『仮面』の奥に表情を隠し、匿名の奥に隠れています。
メインキャラクターに姓がなく、役名も"先輩""おばあちゃん"だったりするこのアニメの匿名性はそもそも高いのですが、ピュアイリュージョンを舞台に初めて交流可能な人々が出てきた今回、個人を判別不能な『仮面』にエキストラ達が顔を隠しているのは、なかなか面白いところです。
ココナが暴力性に支配されるのも、『仮面』(ジャギなのか二代目麻宮サキなのか)を付けられるからだしね。
そういう意味では、ウィルウィッチアが『水』と『仮面』を付けた少女、両方を弄んで軽んじていたのは、『悪役という立ち位置』で何をするべきかよく把握した、的確な振る舞いでもあるのでしょう。

顔が見えないからと言って無名の人々は冷たいわけではなく、むしろ水をくれたり芋をくれたり、少女たちに優しくしてくれます。
むしろ顔が見えて『何者である』かがハッキリした後のほうが、ウィルウィッチアは悪役としての牙をむき出しに大暴れしてくる。
ウィルウィッチアが突っついていたように、ココナが『何者でもない』自分自身、『仮面』を付け特別ではない存在になり、冒険から遠ざかって目鼻がつく『成長』に怯えているとしても、『仮面』を付けた世界は早々悪いものでもないわけです。
冒険や夢を主題に選びつつも、『特別』な二人をもり立てるために顔のないエキストラを無能力に描くつもりがないことは、結構誠実で真面目な捉え方だなと思いました。
ピュアイリュージョンでの冒険を大事にしつつ、同時に思春期が生み出した一時の夢でしかないことに強く自覚的であり、『水』に溺れるのではなく飲み干し糧に変えることを大事にしている感じというか。


タイトルのとおり、美術設定やコンセプトを話数ごとに入れ替え(フリップ・フラップ)しながら進んでいるこの話、今回もアプローチを変えてお話を紡いできました。
暴力表現が人間サイズの殴り合いになったり、変身シーンが露骨に裸だったり、オマージュ元がサブカルチャー軸になってたり、全体的に判りやすく、荒々しい感じかなと。
いかにも女児アニって感じの変身バンクを仕上げつつ、謎の光や抽象化でフィルターかけず、ナマの肌色と股間を押し付けてくるのが、非常にフリフラらしい。
これまでだってオマージュと幻想の綴れ織りで話を作ってきたし、サンドピープルの村に見える幻想感は一話・二話と地続きなので、『別角度から光を当ててみた』といった方が良いのかもしれませんけどね。

第1話・第2話を思い返すと、ココナとパピカが超常的な力に目覚める理由『あの子を助けたい』という気持ちでした。
つまり友愛や助力というプラスの引力故に二人は惹かれ合い、冒険に立ち向かうパワーを引き出していたわけですが、ウィルウィッチアの誘導もあって、今回二人は殴り合います。
相手を突き放し、『大っ嫌いだ!』という気持ちを載せた拳を叩きつけ合うマイナスの引力も、二人の間にはちゃんと存在している。
ウィルウィッチアが乱雑にそれを切開し、顕在化させ、衝突させることで、二人はより親しく気の置けない関係を作りなおす。
『敵』すらもお互いの真実を見つける一種のセラピーとして用意されている所が、このアニメを貫く物語主義・精神主義を感じさせて、面白いところです。

『ワケの分からない闖入者』として出会い反発した二人が、危機を通じて混じり合い、お互いを惹きつけ合う過程を描いた第1話・第2話をしっかり引き受け、くっついた二人をバラバラにして反発を埋め込み、暴力と本音を叩きつけ合うことでより強く融和する物語を描く。
お話しの流れにアクセントを加え飽きさせないという意味でも、関係性を別角度から掘り下げるという意味でも、なかなか面白い舵の切り方をした第三話だと思います。
『現実』しかなかった世界ではココナを守る騎士役だったはずのヤヤカちゃんが、二人が幻想同盟を結んだ今となっては『ワケの分からない闖入者』でしかないというのも、なかなか皮肉だなぁ……。


方向性を変えてきたのは『現実』も同じで、今回はCパート以外殆どがピュアイリュージョンで進行する、テンション高めのアクション回でした。
そういう高熱があればこそ、夢から醒めて『塾をサボった』という非常に卑近で生々しい問題と向き合わなければいけないCパートの低温が、頭を殴られるようなコントラストを作っていました。
ココナが置かれている世界を説明する意味合いもあって、第1話・第2話は幻想的な『現実』を長く写し視聴者に食わせるシーンが長かったわけだけども、今回『現実』が顔を見せるのは、薄暗いココナの家とおばあちゃんの言葉だけ。
しかし時間的には短いからこそ、砂漠の熱狂がスッと覚めるような冷たさがあのシーンにはあって、いくら『幻想』の中で夢に浸っていても、『現実』では何者でもない自分に向き合わなければならないココナの目覚めのショックが、巧く追体験できる作りでした。

三話まで見てみて、僕はこの作品を非常にオーソドックスなビルディング・ロマンスだと捉えています。
とてもつまらない、何者でもない自分が運命と出会い、冒険に飛び込み、危機の中で己の価値を把握し直して、少し大きくなってあるべき場所に帰ってくる、ありふれた青春の物語。
イマジネーションとオマージュの奔流それ自体を楽しみつつも、ココナという危うく優しい少女が青春を前にして震える姿、その背中を抱きしめてくれるパピカの優しさがちゃんと描かれているから、この話がとても楽しいんだと、僕は思っています。
むしろありふれた青春の物語を思いっきり掘り返し、そこに何が詰まっているのか再確認するためにも、自由で活力に満ちた奇想、それをヴィジュアライズするアニメーション力を使いこなしていると、現状感じています。

この物語が『幻想』と『現実』、物質と心理の間を行き来(フリップ・フラップ)しながら進む以上、ピュアイリュージョンがもたらす酩酊に深く入り込むと同時に、何者でもなく何者かにならなければならない年頃のココナの世界をちゃんと描くのは、すごく大事だと思います。
そういう意味で、テンション高く突っ走った『幻想』を一気に冷やし、学生としてひどくつまらない『現実』に帰還させたCパートの簡勁な使い方は、お話を引き締める上で相当大事なんじゃないかなぁと思います。
『現実』が冷えて面白くないから、『幻想』での冒険やパピカとの出会いに逃避し耽溺するのか、はたまた『幻想』のエネルギーを『現実』を切り開く糧にできるのか。
ココナはピュアイリュージョンとの界面だけではなく、そういう青春の分水嶺にも直面しているのであり、それこそがこの幻想譚に物語的な歯ごたえを与える重要な『水辺』なのではないか。
『幻想』の色合いを一気に収め、冷たさと味気なさを強調してきたCパートの『現実』描写を見ると、そういう気持ちが強くなりました。


このお話はパピカという運命と出会ってしまったココナの『内面』の変化を、ピュアイリュージョンという『外界』に拡大しながら追いかけていくのが主筋だと思います。
とは言うものの、ピュアイリュージョンはココナとパピカの共通幻想であると同時に、他者が侵入し介入可能な『世界』でもある。
純粋幻想の客観性に分け入ってくる『外部』を担当するのが、超カッコよく登場を果たしたヤヤカちゃんと双子なのかな、とか思ったりした。

ピュアイリュージョンという異界、そこに隠された"ミミの欠片(もしくはアモルファス)"というパワー、それを狙う謎の組織達。
核心は一切不明ですが、ココナたちの冒険を取り巻く『外部』もこのお話は結構描写していて、巧く視聴者の興味を誘うことに成功してもいると思います。
一切説明がないんだけども、それでいて動画とイマジネーションのパワーで強引に引っ張られているから、『外部』がどういう形しているかも知りたくなるんだよね。

ヤヤカちゃんがなぜピュアイリュージョンで暴れまわっているかも、双子が『現実』においてどういう存在であるかも、このアニメらしいほのめかしと腕力に満ちて、まだ謎のままです。
ここら辺を掘り下げていくと、ヤヤカちゃんがどんだけ面倒くさいデコ出しナイト気取り負け犬幼馴染レズなのかも分かってくると思うのですが、まぁじっくりやるよね、このアニメだと。
トンチキな映像表現で楽しませつつ、キャラクターの細かい感情描写が巧いアニメでもあるので、『外部』から侵入してきた三人が何を考えているのかは、しっかり見たい部分です。
それをちゃんと描くことで、それに応対するヤヤカの気持ち、そこから生まれる『幻想』と『現実』も説得力を増していくんだろうしね。


というわけで、暴力の支配する砂漠を舞台に、ハードコアな暴力衝動治療行為が執り行われるお話でした。
パピカとココナが三話にして、殴り合っても大好きで、傷つけあっても笑い合える強い関係を作ってしまっているのは、二人が好きな視聴者としては嬉しいことですね。
こんだけ太いラインが伸びちゃってると、ヤヤカちゃんはなかなか切り込めないとは思うけども……頑張れ負けるな、百合コンテンツにおいて"YAYA"の名前は呪いでしか無いがな!!(ストパニの夜々とか、ハナヤマタのややちゃんとか)

次回予告を見てもさっぱり何が起こるのかわからないアニメですが、ともあれ来週は南の島常夏の島。
このアニメがタダの水着で肌色パラダイスを流すわけがないので、どういう幻想爆弾を投げつけてきて、二人の青春にどういう変化をもたらすのか、非常に楽しみです。
四話でもまたアプローチ角度変えてくるんだろうなぁ……ストーリーラインが一応骨太にあるけど、エピソードごとに別ジャンルって意味では"カウボーイビバップ"の系譜なのか、フリフラ。

舟を編む:第2話『逢着』感想

圧倒的地味さと存在感で言葉と物語の海に漕ぎ出した辞書編纂お仕事青春ストーリー、今週は満月のボーイミーツガール。
一話から衰えない丁寧さで馬締が辞書編纂部に向かい合う期待と不安、帰るべき場所の暖かさ、辞書編纂という仕事の内実を追いかけ、じっくり進んでいるのに物足りなさのない、軽妙さと重厚感を併せ持った第2話となりました。
一青年が人生をかけるに値する仕事に出会う時間をゆっくり追いかけつつ、運命の女性と出遭う瞬間をラストに持ってくる展開も印象的で、派手さはないが噛み締めて歯ごたえと滋味のある、このアニメだけのテイストが随所に詰まっていました。

というわけで、地味だけど印象的なキャラクター/物語/テーマをどっしりと腰を落として運んだ第1話を引き継いで、ちょっと書き足りなかった部分を足していく第2話となりました。
前回が馬締というキャラクター、辞書編纂という仕事に視聴者が『出会う』エピソードだったのに対し、今回は出会ったものが一体どういうものなのかじっくり見せる『描写』のエピソードでして、その両方でゆったりと分厚い筆運びが生きているのは、非常に良いなぁと思います。
パッと見のインパクトでしっかり掴んでおいて、これから描くものが何なのか一手ずつ明らかにしていく語り方は、オーソドックスだけどやっぱよく効くね。

このお話は辞書編纂というテーマ選びの妙味を活かしつつも、やはり馬締という味わいのあるキャラクターがどのように自分と出会っていくのか、その青春の物語が面白さのコアになっている気がします。
名前のとおり真面目で誠実で、でも社会の『普通』とは巧く馴染めない変人が、辞書編纂部という場所にどういう期待を抱き、抱かれ、それにどう答えようとするのか。
人間の感情に誠実に応対しようという、非常に根本的な意味での『人間味』がずっしりと描かれてているからこそ、ビームも異世界も出てこないこの地味な話、非常に引き込まれるのだと思います。

中華料理屋での歓迎会は作画カロリーをぶっこんだ非常に自然なもので、部全体の気の置けない空気も、そこに関わる人々の暖かな人柄も、しっかり伝わるシーンでした。
あの食事シーンが非常に美味しそうで、『ああ、俺もここにいたいな』と思わせる暖かさに満ちていればこそ、馬締が新しい職場に期待と不安を感じ、己に何かを成し遂げる力があるか迷う展開にも強く共感できる。
細やかな芝居に込められた人間味を、地道な成長と不安のドラマの燃料として活かす作品の姿勢は、第2回を数えていや増している印象です。

舟を編む』というタイトルの意味は、松本先生が作中でしっかり解説してくれていますが、寄る辺ない人生の海に漕ぎ出し、不安の荒波にもまれながら航路を切り開いていくという意味では、馬締青年もまた、『舟を編む』物語のただ中にいるのでしょう。
中華料理屋と資料室という形で広がる、新しい出会いと不安と期待の海の表情をしっかり切り取りつつ、隣り合ってともに櫂を漕ぎ、灯火を探す仲間たちがどれだけ頼もしい存在なのかを、抑えめな調子で描く。
道に迷った時、自分よりも遥かに鋭く気持ちを見抜き、帰るべき港になってくれるタケおばあさんのありがたさも、しっかり描く。
辞書編纂の航海がどれだけ途方もないかを巧く説明しつつ、今馬締青年が人生の航路においてどこにいて、何を探しているか、どんな航海仲間がいるかをしっかり見せてくれたことは、お話に潜っていく上で非常に大事な魅力になったと感じました。
根本的に青春の物語なので、岡崎体育のポップで明るいOPはベストチョイスだよなぁ……作品にあっていないように思えて、根っこの部分でガッチリ噛み合ってる。

そんな馬締青年の人生に、魔法のように現れた美しい月が、タケおばあさんの孫娘である林香具矢さん。
かぐや姫』だから月夜に出会うというポエトリーがこそばゆくも心憎いですが、『これは運命の出会いなんだよ!』とドラマティックに演出できていて、ここからとんでもない恋の物語も始まっちまうという期待が、メラメラと燃え上がりました。
じっくり時間と芝居を乗せて、猫を探す足取りを静かに描いているからこそ、月を背負った美しい女と運命に衝突した瞬間の爆発が、グッと目立つ作りでしたね。
全体的に地道な音調で物語を仕上げつつ、ガッチリ勝負するところでは熱を込めて映像を作ってくれるメリハリも、作品に引き込まれる源泉かなぁ。


ゆっくりと人間と彼らが生きる世界、取り組みテーマを描くこのアニメは、馬締青年の複雑な資質もしっかり切り取ってくれます。
中華料理屋のなんとなく寄る辺がない感じ、ビールを注いでいることも忘れてしまうような身のこなしの悪さ、彷徨う目線。
彼はなんでもこなせる万能人ではなく、むしろさまざまな欠点があればこそ、それを利点に変えられる辞書編纂との出会いが天職足り得るわけです。
こういう細かいニンの表情を、手や目線の芝居で感じ取らせてくれる所が、作画が細やかである意味をドラマの力に変えられていて、凄く良いのね。

馬締青年の垢抜けない側面が自然と感じ取れればこそ、何事も如才なく、しかし辞書編纂への情熱はあまりない西岡青年との対比が、非常に際立ってきます。
彼は辞書編纂のことをあまり良く知らない、殆どの視聴者の代表でもあって、彼の持つ軽薄さや一種の侮りを切り捨てないことで、馴染みのないテーマに視聴者が食らいつく足場が作中生まれている。
それだけではなく、馬締がどうあがいても獲得できない幅広い視野、他人への気配りという美点もちゃんと描かれていて、馬締に足りないものを西岡が持っている事実を、説明されるでなし感じ取ることが出来ます。
それはつまり、馬締が西岡に引き寄せあれる感情のドラマを支える土台になるわけで、非常に大事なことです。

西岡もまた、辞書編纂者となるべく生まれてきたような馬締に触れ合うことで、少しずつ変化の兆しを見せているということが、資料室の外で会話に引き寄せられるカットから感じ取れる。
正反対のようでいてお互い無視できない、むしろ足りないからこそ補い合い、尊敬し合えるような関係を予感させる、素晴らしい二人の青年の描写でした。
こっから男二人がどういう引力を発生させ、お互い変化していくかも凄く楽しみです。

今後の展開の暗示という意味では、タケおばあさんが馬締の進むべき道を示してくれたり、西岡が10年後の自分に言及してたり、上手い感じに伏線を埋めていたと思います。
いかにも賢しらという感じではないのだけれども、豊かな人生経験を背景に馬締の迷いをちゃんと受け止め、これから物語が進んでいく道を示してくれるタケおばあさんには、濃厚なありがたみを感じる。
またババァと食う飯が美味そうでなぁ……このババァが馬締にとってどれだけ大切な存在なのか、感覚的に判るシーンが毎回入っているのは、怠けなくていい。
逆に『10年後もずっと辞書を作っている』という荒木の言葉は、おそらくひっくり返すためのネタフリなんだろうなぁ……馬締が職場に慣れて、期待に誠実さに応えてってだけじゃ、お話にスペクタクル足らないもんな……。
こういうちょっとした先読みをしてる時点で、俺このアニメ相当好きなんだな……。(今更ボーイ)


中華料理屋にしても会社にしても、全体的に美しくて爽やかな空気が作品に漂っているので、そこを泳いでいくキャラクターも、彼らが織りなすドラマも透明感があり、凄くきれいに感じますよね。
見慣れた『現実』の風景のはずなのに、ちょっとだけ特別でちょっとだけ綺麗な『あこがれの世界』として美術をまとめ上げているのは、全体的なトーンを調整する上で凄く大事な気がします。
同時に異質なものは異質なものとしてしっかり存在感を際だたせることに成功していて、圧倒的な物量がプレッシャーを掛けてくる資料室の姿は、辞書編纂という仕事の果てしなさを突きつけられる思いでした。

親しみとあこがれを感じさせるべき場面ではそのように世界を仕上げ、異質さを感じ取らせるシーンではそれを強調する。
リアリティのメリハリを巧く操っているのが楽しいこのアニメ、アニメならではの『変化』の快楽も随所に盛り込んでいて、文字がスッと立ち上り雲となって馬締を取り巻くシーンは、いい具合に幻想的でした。
常時生っぽい世界をじっくり描かれても息が詰まるし、ああいうファンタジアを映像として入れ込むことで、巧くアクセントがついている感じもあります。
Bパート頭で"辞書たんず"を入れているのも、本編で説明しきれないネタの補足ってだけではなく、カラーと味わいを変えて飽きさせない戦略の反映なのかも。

説明と描写の巧さという意味では、カードという見慣れぬフェティッシュを巧妙に使い、辞書編纂の仕事内容に一歩踏み込んだ説明がなされていたのも、非常に良かったです。
何しろ耳慣れない、その上身近にはあって知った気になっているジャンルなので、実際の所どういうものなのかを印象的に見せ、退屈させず引き込むのは大事です。
辞書編纂という仕事が持っている労苦とやり甲斐、異質さと輝きを閉じ込めたあのカードはそういう難しい仕事をしっかり果たしていて、良い見せ方、使い方だなぁと感じました。
足を止めて会話を続けるシーンが凄く多い話なんだけど、作画と芝居は止まることなくアクティブだし、解説も新鮮さを失わないよう言葉が選ばれているので、不思議と退屈には感じないんだよね。
地味な物語に視聴者の関心をひきつけ続けるために、高密度の作画を使いこなしているって側面のほうが強いかなぁ。


というわけで、第1話で出会った不可思議な作品世界とじっくり向き合い、その細やかな表情に分け入っていくお話でした。
丁寧にキャラクターの『今』を追いかけつつも、何者でもない青年の不安と期待を軸に据え、この先の物語への期待を強めたり、運命の恋と出会う瞬間をこれ以上無いほどドラマティックに切り取ったり、『先』を見据えたシーンもしっかりありました。
地味であること、淡麗であることに満足せず、貪欲に『楽しさ』を追いかけてくれる姿勢が感じ取れ、このアニメがもっと好きになれる第2話でした。

来週も急に東京が壊滅したりってことはなく、馬締青年は気になるかぐや姫と仲を深めたり、辞書編纂の仕事と向かい合っていくようです。
彼の実直でヘンテコな青春がどこに向かって漕ぎ出し、"大渡海"はいかなる航路を泳いでいくのか。
じんわりと楽しみで、激しく来週が見たい気持ちであります。