イマワノキワ

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中華中毒

村松伸作品社碩学による中国空間にかんする本。サブタイトルは「中国的空間の解剖学」となっており、清代建築をベースとし、さまざまな地理的方向に筆を伸ばしながらも、その豊かな学識と軽妙な筆致、豊富な図版によってとにかく読ませる。
さまざまな雑誌にかかれたものを集めたものらしく、この本は三つに分かれる。最初に上海の歴史的推移とその風景の変化を考察し、次が清代における空間の儒教道教風水性に関する精緻な分析(おまけで共産主義中国における建築の共産主義性)、最後に清が大きな影響を及ぼした周辺国家、フエ、ソウル、江戸、琉球、熱河の分析へと繋がる。
上海の歴史的推移と風景の変化を扱った第一章では非常に才気溢れる筆者の洒脱な筆が、ぐいぐいとページをめくらせる。そう、この本はまず、文章が巧い。響きのいい言葉を峻別し、的確に使用している。読みやすいのだ。それに支えられて、とにかく大量の資料と図版、大胆な思索が展開されていく。
清代の建築に見る思想性を扱った第二章はこの本のまさに白眉であり、込み入った暗号を目の前でと枯れるような明晰な論理展開と、それを支える強烈な資料読解は見事の一言である。流麗な文体は上滑りせず、がっしりと地面に食い込んだ学術の根っこで支えられ、可読性という美徳の花を咲かせる。いかに清代の皇帝建築には儒学道教風水の思想性が現臨していたのか。この一点をテーマに、徹頭徹尾軽やかな文体と、それと(ある意味)裏腹な重厚な知識を駆使し、文章は進む。
豊富な図版が目を楽しませ、豊かな学識と語り口が心を躍らせる。さまざまな中国古典に関する博識、分析への視座、論説の大胆さ。どれをとっても相当の知恵である。第三章でもそれは遺憾なく発揮され、清代の影響を受けながら各々の場所でさまざまに発展していった空間性を丁寧に分析してのける。
とにかく図版が豊富で、ぱらぱらとめくるだけで楽しい。その上で筆の流麗さによって可読性は高く、論旨は明確で資料への読み込みは深い。視点を支える読解力の高さと、それに飲み込まれない明快さ。なかなか出来るものではなく、とても楽しい読書であった。傑作。