イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

暗号解読

サイモン・シン、新潮社。「フェルマーの最終定理」で切れ味良いライト・サイエンスを展開した筆者の、暗号史に関するライト・サイエンス。といっても、暗号の歴史だけではなく、実際の暗号技術への深い突っ込みや、現代暗号史の生き証人たちへの積極的なインタビューなど、とにかくドキュメンタリーとしてのレベルが高い。
暗号解読の理論・歴史というベースの部分と、暗号が(やはり主に戦争において)使われた実際の事例の部分両方が非常に丁寧にくみ上げられており、過不足ない出来である。ドキュメンタリーの真髄である臨場感、この問題は私たちの問題だ、と思わせる筆致と構成は、なかなかに練達である。歴史の部分においては資料に、論理の部分においては明確な理論に則って文章をくみ上げており、サイエンス・ライティングとしての読みやすさ、レベルの高さも目を引く。
実際の暗号解読をテンポよく行うことで、上っ面をなぞるだけではない、腰のしっかりとした本になっている。その腰の深さを、歴史上の暗号闘争を活写することで、むしろ前のめりに読ませる力へと変化させているのが、この本の圧倒的なうまさであり、面白さである。名著。