イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

KGB帝国

エレーヌ・ブラン、創元社。1984年から2004年までのKGBに関するルポタージュ。といいたいところなのだが、ルポタージュの名前を関するには主観的に過ぎ、イデオロギー色が濃すぎ、取材対象が不透明で、結論に妥当性がなさ過ぎる。
具体的にはニュースソースが「社会学者」「ジャーナリスト」ひどいときには「専門家」としか書いておらず、その人物がどこに属し、どのようなドキュメントを書き、どのような立場から発言した言葉なのか、が一切不明瞭なのである。ポイントポイントに光るものがあるので、この根本的な手抜き(と断言してしまっていいだろう)には膝が砕けた。
プーチン政権が専制的で、強烈なツァーリズムであるのは確かだし、それを裏付ける取材・考察には切れ味がある。しかし、プーチンサイドからの発言をダイレクトに切り取ってくるバランス感覚も、反対意見を公平な視点で取り上げてから批判するスタンスも、この本にはない。全般的に激情的で、短絡で、精密さにかけるように思える。
ルポタージュとして説得力がほしければ、己の立場ではなく、己が見た世界を切り取ってくるべきだ。だがこの本において切り取られ来るのは、筆者が見たい世界にしか思えない。構成や文の切れ味、一次資料の使い方などに的確なものを感じるがゆえに、いっそうそこのいびつさが浮かび上がってしまっているように思える。微妙な本であった。