イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

3月のライオン 8

羽海野チカ白泉社勝負師たちの挽歌も八巻目。今回は零くんが羽生……じゃなかった宗谷名人に挑む話と、柳原VS島田の棋匠戦がメイン。合間合間にニカくんの復帰とか夏祭りとかもあるけどね。ニカが復帰したのはとても嬉しいが、手筋に自分の名前付けたいのってって「虎は死して……」的なナニカではなかろうかと、オッサンはいらん気を揉んでしまう。扉絵でモモちゃんと遊んでるニカとか超好青年でさぁ……。
さておき、名人戦は流水の如き透明感のある戦いを上手く描写していて、宗谷名人の底知れぬ高みとか伝わって来て、とても良かった。雨中の静寂が上手く紙面に捉えられていて、宗谷名人の『音のない世界』が少し垣間見えるような、チカ先生の画力が演出力にコンバートされた回だったと思います。宗谷名人のお世話を零くんがするあたりの描写は、なんか脳内腐女子がギャンギャン喚いてくるくらい宗×零キテてビビった。キテるキテる。
一方棋匠戦は爺とオッサンが泥まみれで火花を散らす展開で、一転胃薬と湿布の匂いが漂ってくる生々しさ。「勝負師の老い」というテーマを一発で捕まえてきた80話冒頭の点眼シーンは、この漫画でも一二を争う「凄み」のシーンだと思う。今までの展開を踏まえると島田を応援したくなるのに、描写で一気に柳原さんに味方したくなってしまう辺り、やっぱ群像劇としての力量も高いなぁこの漫画。
涼やかに諦めのついた零くんの勝負と、身を焼かれても退けない棋匠戦を同じ巻に載せてしまう感覚の良さは、ちょっと普通の漫画家だと出来ない対比。零くんだって柳原さんの言う「焼け野原」に身を置く将棋指しであり、だからこそ名人戦の素直な敗北が特別になる。だけど、それだけが勝負の全てではない。奥歯を砕きながら、前のめりに縛り付けられながら戦う苦しさ。泥にも似てるそれを、清水のすぐ隣に置くのは、勝負論の深さを掘っていくセンスがやっぱ抜けていると思う。群像劇、勝負論、青春、そして日常描写。トップランクに詰めた要素を沢山積んでる、贅沢な漫画だなぁこれと再確認する八巻でしたとさ。