イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

よつばと! 12

あずまきよひこアスキー・メディアワークス。ちょっと久しぶりの、五歳児風雲録十二巻目。気づけばすっかり作中の季節も秋になり、よつばも紫陽花市に馴染んでおります。今日も今日とてよつばちゃんは、理想的な子どもとして発見と慈愛の日々を過ごしておるわけです。こう書いてしまうと、いかにも落ち着いてマンネリ感漂ってる話しみてーですが、大概の漫画がそうなってしまいがちな場所によつばとは落ち込んでいない。これは、本当に凄い。
12巻も漫画が続くと、テーマへの切断面も瑞々しさを失って、いかにもお話のためのお話、台詞のための台詞、展開のための展開に満ちてくるものです。この漫画で言えば、よつばの台詞が「五歳児の台詞」ではなく「よつばの台詞」になる。自分が積んできた「漫画として濃縮された五歳児らしさ」というのに甘えて、個別のパーツを磨くのを止めたりするわけです。漫画の外部を参照するのではなく、自分自身を模倣し始めるというか。
しこうして今回、よつばの台詞は相変わらずキレてる。僕はこの漫画がとても好きだし、ずーっと読んできたのだけど、そうでない人にぽんとこの巻だけ渡して読んでもらっても、よつばとのいいところ、面白いところは多分伝わる。そういう瑞々しさが、まだある、というかむしろ洗練されている。それは多分、これが漫画だというのが大きい気がする。
よつばは、リアル五歳児そのままの発言はしない。その面白さとか、小賢しさとか、可愛さとかを、ギュッと濃縮して選び抜いた発言をする。今回で言うと「みうらいらない!ちがうから!」とか。「あるあるこういう子いる」と思わせるためには、「こんなガキいねーよ」と「フツー過ぎて面白くない」の間を丁寧に狙って、台詞を吟味する必要があるんだと思います。
(吟味され濃縮されているのは大人も同じで、基本登場人物は超がつくほどの善人で、独善を振りかざすこともなく、柔らかくよつばを見守り、一緒に遊び、導いていく。それは「よつばが再発見していく、僕らが日常を過ごしているこんなに美しい世界」というテーマを効果的にする目的と、こどもが置かれている状況へのある意味甘い祈りみたいなもの両方が含まれていると思います。こどもという存在には、ぜひこうあって欲しいという作者の願いに共鳴して、僕はジャンボが稚気たっぷりに子どもと遊びつつも、彼らを押しつぶさないよう、体を浮かせている無言の気遣いを157ページに見つけるわけです。)
なんでこんなに台詞を重視するかというと、この漫画はよつばの毎日の話だからです。友達とキャンプに行ったり、釣りに行ったり、ちょっと特別なこともあるけど、基本的には普通の毎日。とーちゃんとご飯食べて、添い寝してもらって(とーちゃんはよつばに添い寝しすぎ。羨ましい。俺もよつばになって、怖い夢見たらとーちゃん呼んでで添い寝して貰いたい)、友だちと遊ぶ。そこには倒すべき敵はいないし、能力が覚醒することも、陰謀に巻き込まれることもない。ストーリーの起伏に頼ることは出来ないわけです。それでも、一見起伏のない毎日の中にはいろいろピカピカしたものがあって、理想のこどもであるよつばは、それを再発見してくれる。
そこで読者を引き付けるのは、テーマへの丁寧なアプローチであり、それを実現しているのは、凝りに凝った世界の描画と台詞の面白さ、リアリティだと思います。そこに抽出され的確に戯画化された「それっぽさ」があるからこそ、よつばの毎日は魅力的に見えるし、羨ましく思うし、微笑みながら見守りたくなる。逆に言えば、そこを怠ければ、一気にこの漫画は色褪せる。嘘っぽくなって、ああいいなぁ、とは思わなくなる。
そして、12巻たってもそう思わせず、ずーっと「よつばとを最初に読んだ時のホッコリした感じ」を楽しむことが出来る。11巻から時間が開いた分、この「最初の味をいつでも感じる」ことの凄さを、改めて感じました。久しぶりに読んでみるとおっもしレェなこのマンガ、特に掛け合いが滅茶苦茶おもしれー、みたいな。「よつばとあおいろ」の、喋らないことで間合いを作る演出もおもしれーんだけどさ。
無論、台詞への吟味とセンスはよつばだけじゃく登場人物全部に及んでいるわけですが。大人は大人として、年上のこどもはそれぞれの年齢から、よつばの開かれた世界に参加するに相応しい、優しくて面白い言葉をチケットにしてよつばの物語に入り込んでくる。この話はよつばの話なので、五歳児相手の言葉が台詞のメインなんですが、そうではない言葉、自分の年齢から水平に伸びてる大人としての言葉にも切れ味と滑稽さがあることが、よつばを取り巻き見守る資格者としての彼らをしっかり際立たせているのが面白いところです。
そんなこんなで久方ぶりのよつばと、マジ面白かったです。自分は「相変わらず面白い」っつー言葉に結構抵抗があって、それって慣れただけというか、ずーっと付き合ってるファンだけが感じる面白さに流されてるだけなんじゃねーかな、という感じる時があります。そーいう「自分の舌が信じられない感じ」を綺麗にふっ飛ばしてくれる、やっぱり名作ですわ、この漫画。