イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

エイト 2

楠みちはる講談社。青春とロックンロールのポエジー満載漫画、二巻目。序章がジワジワ進んでいるわけですが、今回はエイト初のライブ。驚き役として東京から現役ミュージシャン松永恭也と、新キャラの川奈おじさんも出して万全の体制。漫画という媒介で演奏の凄さを見せるのはなかなか難しいと思いますが、大人二人が驚くことで説得力を出してくる手腕は流石。川奈おじさんが落ち着いているくせに情熱のある良いオッサンなのに対し、松永恭也はギターはパクる曲は時代遅れと、ちょっとかっこ悪い第一印象。こういう人物が、低いところからどう転がるのかはとても気になる。
そんな『判ってる観客』はあくまでオマケ、本命は「ドラゴンという名前のギターを選ばれた奴が使うと、竜が吠える如く人を興奮させ鎮静させることが出来る」というクッソ廚房力溢れるエイトのプレイング描写。いやー凄い。何が凄いって、「だよねー」と思ってしまうのが凄い。エイトの演奏が周囲の人に与える影響や、尋常ではない練習量と集中力を描写してきた故に、「そうだよな、エイトならそのくらいやるよな」と思ってしまう。どう考えても寝言なのに、カッコいいのがずるい。
無論エイトだけではなくて、リズム隊とボーカルのミック先輩、そしてニーナというバンドメンバーもしっかり描写されている。たった二巻だったけど彼らはとてもイイ奴らで、いいバンドで、そのバンドが一回のライブで終わってしまうということに、寂しさがある。だから、彼らが活躍するととても嬉しいのだ。そういう風に感情移入させるテクニックが、この漫画はとても優れている。
老練というか巧さというか、そういうのを感じるシーンは他にもあって、例えば「ライブをお祭り騒ぎにするのは簡単だが、音楽を聴かせることで興奮させ、鎮静させるのはとても難しい」という状況のセッティング。これはつまり、エイト達は最初のライブで既に演奏技術だとか、客をつかむだとか、そういう段階をすっ飛ばしている、ということである。だから、東京から来た二人の大人がエイトに注目する理由になる。無論、ニーナの母親に絡めて過去の因縁も織り交ぜてくる手腕も巧い。
そうやって完璧なライブをやって、ともすれば「これから何すんの?」という疑問が出てきそうなタイミングで、「エイトの中の龍」という不安要素を出して次巻に引く。ニーナが泣きながら「ちがうエイト。人を殴る手じゃないんだ」と叫んだ時の哀しみは、あのライブを経験したがゆえに、読者である僕と完全にシンクロしている。イモっぽい外見はこのシーンのためかぁ〜、と思わせるような、快心の本性発露シーンだ。トミーさんが不安がるシーンが前にあるのが、とても良く効いている。
とまぁテクニックばかり語ってしまったが、音楽と血にまつわる温度の高さ、情熱の強さは、相変わらず分厚いパワーを維持したままだ。母親という軸でせめぎ合う、エイトとニーナの関係性。プログラムから脱線に脱線を重ね、それでも特例のアンコールを許可される最高のライブ。とにかく熱い。この熱気と、細やかなストーリーテリングの技術をコンパクトに使いこなす冷静さの同居。流石である。次回がひじょうに待ち遠しいですのう。