イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスターシンデレラガールズ 2nd Season:第15話『When the spell is broken...』感想

アメリカからやって来た美城の黒船により、平和で仲良しシンデレラプロジェクトに横槍が入った二期。
前回投げつけられた爆弾が炸裂した後の第二話は、変化に対応しようと藻掻く少女たちと、車輪をやめて足掻くプロデューサーと、完璧で優雅な踊り方を身につけたスーパースターのお話であり、アイドルのルールを知らない魔女のお話。
それぞれ見て行きましょう。

今回のお話は美城常務が投げかけた大胆な構造改革に対し、アイドルとプロデューサーがリアクションを取っていくことで彼女らの現在が見えてくる回でした。
『CP解体』というショッキングな出来事に対応する形で画面のトーンは全体的に暗いのですが、変化に食らいついていく要素、状況を好転できそうな足場が多数あるため、光と闇が半々で配置されたシーンが目立ちます。
このアニメはライティングに状況を語らせるため、何がポジティブで何がネガティブなのか、ビジュアルで把握しやすいですね。

CP代表として物語の渦中にいるNGについては後で触れるとして、NG以外の11人はほぼ束として、一つの意思を持って行動していました。
一期序盤では例えば幼稚な願いを紙に書き付けたり、カフェを占拠したり(第4話)、早とちりから状況を悪化させたり(第6~7話)していたCPのメンバーですが、あの時より具体的で切迫した変化に対し、より落ち着いた対応を見せます。
いつものように『CPの凡人代表』前川が吹き上がっていますが、貯めこんで暴走するのではなく、口に出して周りにたしなめられている辺り、自分の気持と向かい合う術を学習した様子が見て取れます。
『取り敢えず出来ることから』を合言葉に、大人のやり方である企画書を描いてみたり、根城となる地下室の掃除をしてみたり。
感情の起伏を巧く処理できず、気持ちの揺れ動くままに妄動していたデビュー前とは、大きく異る姿が見えます。

第12話でリーダーの地位を揺るぎないものにした新田さんが音頭を取り、未来が見えない中自分たちに言い聞かせるようにレッスンをし、掃除をし、報告書もどきを書く。
それが彼女たちの不安であると同時に、信頼と希望でもあるというのは、掃除前と後の地下室を見れば一目瞭然でしょう。
ダンボールが積み重なり見晴らしが悪かった部屋は、今自分たちに出来ることをこなしていくうちに明るく、整理された状況になっていく。
三角巾とエプロンで武装したCPメンバーはモティーフである『灰かぶり』を再演するだけではなく、自分たちの心境を整理し、心の曇りを出来る限り晴らしてもいるわけです。


遠景に下がったCPに関してはこのくらいでまとめられるとして、クローズアップされる距離にいるNGは、今回一体どういうキャラクターだったのか。
前回強調されたように、完全にひよっこでもなければ完成されたアイドルでもないNGにとって、会社の命令で組織が刷新されつつある現状は中途半端な状態です。
何をすれば再び楽しいCPが再獲得できるかは確信できないが、何かしなけばいけないのは今までの経験から判っている。
そして、何をすればいいか分からなくても、なにかした方がいい。
この認識は、彼女たちのホームであるCPと共通しています。

アンビバレントな状況に置かれたNG(つまり彼女たちが代表するCP)の手本になるのが、今回の主役と言って良いアイドル、高垣楓です。
今回NGの仕事の一つは、楓さんの姿を間近で見て、自分たちが進むべき道を示してもらうことになります。
人生経験的にも、アイドルとしての実力・経験的にもNGより上にいる彼女は、インストアイベントという『小さな仕事』をNGと共有する中で、変化に対し何を行えばいいのか、示していきます。
美城常務の持っている社会的圧力に屈することなく、自分の信じるアイドル像を貫くこと。
ファンにとっての『笑顔』、アイドルにとっての『笑顔』を大事にすること。
楓さんが教えているのは実はこれまでプロデューサーが不器用に伝えてきたことであり、これまで積み上げてきたエピソードが間違いではないということでもあります。

この時、彼女が示している答えに説得力を生んでいるのは、彼女がNGと同じ立場まで下がっていることです。
楓さんはNGが今いる場所、中途半端ながら栄光に繋がる道を先に走りぬけ、アイドル界のトップに経っている先達です。
しかしファーストステージの衝撃を忘れることなく、いつでも初心に帰ることの出来る、NGたちと同じ目線のアイドルでもある。
壁に貼り付けられた初舞台の写真は、NGが噴水前広場で踊った時と同じように、少ない観客の満足気な笑顔が写っています。
そこに縫い止められた二年前の楓さんは、たった9話前のNGの姿でもある。
自分たちが通った迷い道を抜けた先に、今の頼れるトップアイドル高垣楓がいるのなら、NGは迷うことなく今の道を歩いていけば良いと、信じられるわけです。


そして、小さなステージと手渡し会場で感じられるファンとの距離はあくまで現場に立つアイドルの視点であり、会議室から状況を変化させる権力者の視座ではない。
高垣楓がその視点に拘って行動し、常務の誘いを断ったということが、NGと視聴者一つの正解を指し示しているわけです。
『笑顔』を大事にし続けたプロデューサーの言葉、アイドルがいて、スタッフがいて、ファンがいる人間重視のアイドル活動は、けして間違いではないという正解を。

タイトルには『魔法が解ける時』と描いてありますが、楓さんの立ち居振る舞いはアイドルの魔法はそう簡単には壊れないということ、CPがつかみとってきた堅牢な真実を信頼してもよいことを、雄弁に語っています。


答えが示唆、もしくは明示されていればこそ、今回のお話は一切答えのない迷い道を彷徨う話ではなく、要所要所に光が配置されたライティングはそれを強めるためなのでしょう。
『ステージ』という答えが詰まっている場所が底抜けに輝かしく演出されているのは、この見方を後押ししてくれるように思います。

まだ経験も少なく視野も狭いNGにとって、おそらく美城常務の抱いているヴィジョンを共有したり、推測したりする余裕はないはずです。
それは未央の「あんな酷いこと」という言い回しからも推測できる。
この時未央は、美城常務の白紙宣言によって実際に事業が効率化し、何かより良い物が生まれる可能性に気づいていない。
テンパった島村さんを見て、第6話ラストのように感情に振り回されかけた我が身を省み、落ち着く余裕はあっても、『酷いことをする敵』として認識した常務の行動の裏にある理に思いはいかない。
ここら辺の過剰な思い入れは、プロデューサーとも共通するところでしょう。
なので、今回楓さんから示されるのはあくまで『CPの過去は間違っていない』という後ろを確認する答えであり、『CPの未来を間違えないためにはどうすればいいか』という問いは与えられません。
現在のNGに、その問は過大すぎるからでしょう。


集団としてのNGは答えを間近で体験する役目を持っていますが、個別に見ると一人ひとり別の描かれ方をされています。
特に目立つのは島村さんで、『何かしなけばいけない』という状況に『頑張る』という答えしか持っていなかったり、企画書も白紙だったり、具体的な方策や夢の希薄さが見て取れました。
思い返せば彼女の空虚さ、『アイドルになるためにアイドルになった』というトートロジーは第1話から示唆されていたわけで、丁寧に埋めた地雷が危機を前に頭を出したといえます。
たった一人でレッスンに耐え再チャレンジのチャンスを掴んだ島村さんは、とにかく『頑張ります!』しか言わない、言うことが出来ない女の子でした。
第7話でプロデューサーを再起させた前向きな夢も、良く聞けば「ステージに立つ」「CDデビューをする」「ラジオ出演をする」「TVに出る」という、外的な要素の羅列で成り立っていました。
そこに、ファンとしてアイドルを見ていた時の憧れ以上の切迫感、アイドルになって何をどう感じるかという『自分』はない。
彼女の空虚さは一期と同じように、未だ炸裂せざる爆弾なのですが、今回の描写で導火線に火がついた感じはします。
どのように使ってくるのか、楽しみでもあり恐くもありますね。

一方未央は持ち前の思い切りの良さを発揮し、あわや暴走というところで慌てる島村さんを見て、気持ちを落ち着けていました。
第6-7話、第12話と二回も思い込みの激しさで周囲が見えなくなる経験をしてきた本田さんですが、ここまで経験値を積むと流石に学習もします。
彼女の気持ちの強さは短所にも長所にも変わり得る特質だと思うので、今回のように巧く手綱を握ってくれると、安心感が増しますね。
過去の経験に学び、長所を長所として、短所を長所に変えて前進していく姿勢が見えるのは、常務が困難な道を用意している現在、頼もしいところです。

そして渋谷さんは二期になって用意された新要素、北条さんと神谷さんと関係を深めていました。
先輩風をビュービューふかし、不安げな彼女たちを導く様子は立場を変えた第3話の再演であり、こちらも経験の蓄積による成長を感じさせます。
美嘉からサポートを受ける側だったNGが、今度は後輩にサポートする側に回っている姿は、真心のキャッチボールが上手く行っていることを思わせ、凄く好きなシーンです。
渋谷さんのキャラクター性を、この二人がどう深めていくのかはまだまだ分かりませんが、CPの枠が一度壊れなければ出会い以上の関係にならないことも引っ括めて、様々な予感を与える組み合わせではあります。


アイドルの最前線に立つ戦士たちは迷い道で光を見つけていましたが、それを支える裏方はどうなのか。
プロデューサーはプロジェクト解体という逆境にもめげず、可能な範囲で(もしくは少しそれを超えて)喰らいつき、愛するアイドルたちを輝かせるため努力していました。
上司の決定に異を唱え、自分の考えを真っ直ぐ口にする姿は、物語の開始時には考えられない熱さがあります。
アイドルたちが過去に学んでいるように、プロデューサーも変化しているとよく分かります。

自分が身を置くシステムのルールに反せず、自分の意志を表現し実行するためにはどうしたらいいか模索する姿も、今回のアイドルと共通しています。
何かと感情を暴走させがちなアイドルとは反対に、プロデューサーは感情を押し殺しすぎて失敗してきました。
しかし今回は、誠実な杓子定規さはそのままに、取りうる手段すべてを使って美城常務に自分の気持を伝え、状況を変化する努力をしています。
意志と社会とのバランスを、より適切な形で取る方法を、今回プロデューサーとアイドルは模索しているわけです。
それは、そのバランスが破綻して様々な問題が生まれてきた一期に比べて、着実に成長した姿でしょう。

パフォーマンス担当であるアイドルの企画書が、チラシの裏に描かれていることからも判るように、彼女たちはシステムに意志をすり合わせるスペシャリストではありません。
彼女たちはあくまでアイドル、自身の『笑顔』によってファンを『笑顔』にする、感情表現のスペシャリストです。
対して今回、プロデューサーは美城常務のつっけんどんな態度にめげることもなく、会社組織の中で許されている手段を駆使して、状況を変える努力を適切に続ける。
意志と社会性のバランス取りを要求される状況の中、お互いがお互いを必要とし、相補的に支えあうCPのスタイルが見て取れます。
適材適所というか、プロデューサーはそういう存在というか、どちらにせよ裏方としてやれることをやり切っていて、やっぱ僕この人好きですね。(唐突な告白)


これまで見たアイドルとプロデューサーの苦闘は、美城常務の提案が引き起こしたものです。
僕らが好きなデレアニの物語は、作中の人物もまた愛着を持っているものであり、それを崩す美城常務は、未央の言葉を借りれば『酷いことをする』悪い人です。
本当にそうなのでしょうか?

彼女の視野が完璧ではなく、まるでかつてのプロデューサーのように感情の表出が適切ではないのは、楓さんとの対立を見ても分かります。
小さなステージからトップアイドルまで徒歩で這い上がってきた楓さんにとって、アイドルとは採算性だけで評価されるビジネスではなく、感情を持った人間を相手にする表現手段であり、コミュニケーションです。
『見ている未来が違う』という別離の言葉は、未来だけではなく過去と現在、楓さんと彼女の後ろに続く全てのアイドルが感じているステージの熱狂を、美城常務が判ってくれていないという抗議でもあるわけです。

対して異業種からアイドル事業に飛び込んできた常務にとって、ステージはとても遠い場所です。
現場の熱気や緊張感、ステージアクティングだけが生み出す濃厚なコミニケーションは無味乾燥な収支報告にまとめられ、切り捨て可能な数字に成り下がっている。
それが『間違い』であり(どのような形にせよ)改善しなければいけない状態なのは、楓さんがNGに見せた『答え』の陰画だと言えます。
アイドルの反対側に立つ(ように現状思える)常務にとって、アイドルに向けられた『答え』は自分にとっての『間違い』の指摘なのです。


しかし常務が目指しているもの、組織としてのアイドルを再編成し、可能な限りアイドルを高みに登らせるという目標自体が間違っているのでしょうか。
常務の決断は苛烈だし、有無をいわさぬ強引なものですが、システム内部の正当性に従って提出されたプロデューサーの対抗案を、圧力で叩き潰すようなアンフェアな人物ではありません。
そこら辺は、今回ラストのヒキ、『対案を速やかに出してこい』という条件に完璧に従って提出された企画書に、常務がどう対応するかでさらに見えてくるでしょう。

アイドルは経済活動であり、美城という企業体のバックアップ、そこで働く沢山の人々の有形無形の努力が結集して出来上がっているという事実は、これまでもたくさん描かれてきました。
アイドルがアイドルの力だけでステージに立つのが思い上がりだというのは、例えば第3話の、第6話の、第13話のステージ描写の中で、このアニメが真実味の篭った舞台裏を描いてきたことからも分かります。
それを可能にしているのは、美城常務が代表するような、怜悧な企業の論理だと思います。
そして、常務のいない一期の論理で進んできたCPが微妙な弛緩の中にいるということ、常務の振るった大鉈があながち間違いでもないということも、前回示唆されている。
つまり、今回楓さんがアイドルの『正解』を見せたように、常務側の行動にも『正解』が含まれているのではないかと、僕は感じたのです。


無論、常務の行動は視聴者にとって手放しで協調できるものでもなければ、作中の人物にとってもそうです。
CP内部のアイドルやプロデューサーだけではなく、その外側にいるアイドルや社員にとっても、感情を数字と切り捨てる常務の方針は戸惑い、受け入れがたい決定だというのは、今回執拗に描写されていました。
彼女のロジックは、登場した今の段階ですでに瑕疵があるものとして描かれている。

その上で、僕個人としては彼女が代表している社会性の正しさ、人間が生み出した共同体のルールの中で適切な行動を取る意味を、ないがしろにしてほしくはないです。
ただ感情を滾らせるだけでも、それを押し殺して過剰な正しさを押し付けるのでもなく、二つの立場のバランスを的確に取ることで素晴らしい結果が生まれるというのは、これまでこのアニメが描いてきた沢山のエピソードに共通する、一つの真理でしょう。
ならば、表面化した彼女の瑕疵を彼女自身が認識し、今回楓さんが出しNGが目撃した『答え』、『笑顔を大事にすることは間違いではない』という事実に、少しづつ歩み寄って欲しいなと、僕は思うわけです。


今後常務がどのようなキャラクターとして描写され、どのような物語的役割を担うかは、一視聴者である僕には分かりません。
僕達が強く感情移入するCPメンバーに困難を与え、それを克服した時のカタルシスを準備する舞台装置、最終的に赤熱した靴を履いて躍らされるような『ただの悪役』になるかもしれない。
強い感情と適切なシステムが合わさって生まれる奇跡に気づき、頑なな自分を変化させる(それこそ、僕の大好きなプロデューサーやアイドルたちのように)キャラクターになるかも知れない。
そのどちらになるかは、断言はできません。

ただ、これまでこのアニメがかなり効果的、かつ意図的に要素を配置し、適切な意思を込めて画面と物語をコントロールしてきた以上、今回散見された『答え』と『間違い』が今後の物語の中で意味を持ってくると、僕は期待します
だって、色んな女の子の複雑な魅力をしっかり伝えてくれてきたこのアニメがせっかく投入したキャラクターが、一面的なキャラだとは思えないし、思いたくもないじゃないですか。

 

アイドルにとっての『正解』、プロデューサーにとっての『正解』、常務にとっての『正解』。

色んなモノが感じ取れる、激動と対応の二期第二話となりました。
意地悪なように見える継母は、一体どんな人物で、どのくらい変わることが出来るのか。

お互いの『正解』をちゃんと見て、ちゃんと伝えて、より良い場所に進んでいくことは出来るのか。
次のお話がとても楽しみですね。