イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

乱歩奇譚:第5話『芋虫』感想

かくして、カガミ刑事の過剰な正義は焦げ付いていったという回。
猟奇の持っている妖しげな匂いも、闇の中で光る一握の救いもなく、ひたすら現実の不具合がぎくしゃくと全てを狂わせていって、極端な結論に至る過程が描写されていた。
生々しい……というには悪意満載の戯画化が効いているし、お話の落とし所は見えないしで、ずっしりと腹に重たい展開でございました。
この重さがタメなのか基調となるムードなのか、正直分からんね。

ここ三話で最大の存在感を醸し出していたのは、主人公アケチ探偵でも魔性の女装少年コバヤシでもなく、出たり入ったり忙しい犯罪者ワタヌキだったと思います。
乱歩作品には『逸脱への憧れと不安』という矛盾した感情があると思うわけですが、そこを横からハンマーで殴りつけるような、身も蓋もない幼女連続強姦殺人犯。
怪しげな夢もロマンもない、いわば『反乱歩的』犯罪者である彼は、幼女を神格化する義賊という『乱歩的』犯罪者である影男に勝ち、法システムに勝ち、最終的に個人的な復讐殺人でしか決着を見なかったという意味で世界にも勝った。
最強です。

彼が象徴するのはロマンの対象にはならない犯罪でして、つまんなくてロクでもなくて身も蓋もない殺人を、システムが庇い立てしていくことでカガミ刑事は追い込まれていきます。
妹さんはワタヌキに殺されたわけじゃないですが、まぁ彼と同じような面白くもなんともない、そのくせシステムの恩恵は受けまくっている犯罪者に食い殺されたってのは、変わりがない。
法と正義の権化であるカガミ刑事が、ワタヌキのような面白みも何もない犯罪者に『勝てなかった』結果、抑止力としての殺人を執行する犯罪者になるという結末は、まー爽快感のないジクジクしたものでした。

この話、一応の主人公に充てがわれているのは、国家公認の探偵と異常犯罪に憧れる魔少年です。
猟奇へのアンビバレントな感情、世間のレールから外れてしまった犯罪者と似通ったものを持ちつつ、彼らと対決する側にいる危うい存在の彼らは、いわば『乱歩的』な存在だと言えます。
しかし今回彼らはワタリ刑事の過去を効いているだけですし、推理と真実の開示を通して殺人事件を別の角度から解釈するという、探偵的な仕事もしていない。
ワタリ刑事は自分が大事だと思ったものをみんな投げ捨てて、自分も納得しないまま殺人者になって、そのまま牢獄に繋がれてしまった。
その悲惨な人生の何処にも、探偵と助手は影響力を及ぼせていません。
『乱歩的』犯罪者も、『乱歩的』探偵も、『反乱歩的』犯罪者に勝てない。
勝ったのはワタヌキと同じ土俵に落ちてしまった被害者の包丁という、『反乱歩的』手段です。


法も探偵も、夢なき犯罪に出来ること無し。
三話から続いたワタヌキ三連作が突きつけたいのは、『大正ロマンの過去はさておき、今はこんなに夢がない』という製作者の現実認識なのか、そこから半歩だけ前に進んだ物語的成果なのか。
そこんところは、今後の物語を見てみないと分かりません。

現状僕が言えるのは、『反乱歩的』な存在に『乱歩的』な存在たちが無力である現状だけです。
アモラルなことそれ自体は問題では無いと思いますが(多少なり悪趣味じゃなきゃ、このアニメ見ないし)、アモラルであることで何を言うかという意思が無ければ、それはニヒリスティックな無限後退になってしまう気がします。
悪趣味であるが故の露悪的に悪を弄ぶトートロジーの外側に、このアニメが飛び出るのか否か。
まだまだ全然分かりません。

こんだけ出口のない話を描いちゃうと、今回無力だったアケチ探偵が何らかの結論を出すハードルも上がった気がします。
それを乗り越えて、別に前向きでなくてもいいけど、どこかに向かって一歩だけ踏み出せるような真実に、このお話がたどり着いてほしいなぁと思います。
どうにもならない世界の、どうにもならない犯罪のお話のまま、終わりまで突き進むのかもしれないけどさ。
そこも引っ括めて、まだまだ全然分からん。

あとまぁ、法制度の不備と無力さについては味付けが濃すぎかつ偏りすぎで、もうちょっと平らに扱うか、一切扱わないほうが好みだなぁと思った。
法制度における加害者の過度の利益について扱うなら、加害者の過度の不利益である冤罪や監獄内部での虐待とか、天秤の逆側に乗っている要素も取り上げないとバランス悪くないかなぁ。
そういうフェアネスをこのお話に期待するなと言われてしまえば、まぁそうですねとしか言いようがないが。
キッチュさというのは開けるのが難しい穴だなぁなどと思いつつ、僕は来週も見る。