イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ビギニングアイドル/チャレンジガールズ レビュー

システムに関してだが、アイドルスポ根という昨今需要が高まるメディアに特化対応し、戦闘で問題を解決しないシステムを立ち上げたのは良い。文芸に関わるキャラがメインになる話は、戦闘以外の方法で問題を解決したくなるので、そこに取り組んだことは評価に値するだろう。

また、キャラ紹介と同時に一芸突破判定をさせて成功すればファンが獲得できるのは、データ処理とキャラクターの紹介・共有、報酬の入手を一連の流れとして処理できて、出だしの盛り上げとしてスムーズかつ有効だった。

 

それを踏まえた上で、何個か問題点がある。

一つはミドルフェイズのイメージソースが乏しいため、シーンセッティングがスムーズに行えない。

ワルドセッティングを4つ用意したため、一個あたりの紙幅が薄くなり、シーンを立ち上げるのに必要なイメージの共有がなかなかうまく行かなかった。シーン表で言えば、ただ場所を書くのではなくその場所の喚起するイメージや印象、予感、シーン例などを(それこそシノビガミのように)添えてくれれば、かなり楽なのだがが、表記が淡白に過ぎてしんどい。艦これRPGにおけるキーワードやインセインにおける狂気など、ミドルのイメージ共有を助けるサブルールもない。

ダイス目で中盤を構成していくシステムは常にネタ切れとの戦いであり、基本システムの中にイメージ惹起を支援するソースが用意されていないと、ミドルをどのように組み上げていけば良いのか、戸惑う状況が増える。シーン示唆が仕事表の中にある仕事はともかく、特訓や遊びはシーンを膨らませ共有する足がかりに薄く、素手で物語生成と取っ組み合うことになって大変だった。汎用特訓表・汎用遊び表(1D6ではなく2D6で)があっても良かっただろう。

サタスペのように『1シナリオ1ルール』くらいの意識で補助すれば機能するとは思うが、基本ルールの段階でPLサイドの努力を強く必要とするのは、かなり構成が弱く感じる。必要最低限の用意を超えた、実際のプレイを加速させるシステム的努力がミドルシーンの運営には必要と感じる。

 

二つ目はルール用語のイメージ喚起力が弱く、自分たちが処理しているデータが何を意味しているのか見失う状況が多かったこと。

『重さ』『理解度』『協調値』あたりの用語が直感的にわかりづらく、ミドルのデータ処理手順がかなり行ったり来たりするのもあって、あまりスムーズにプレイできなかった。

 

三つ目・四つ目は数字関係の煮詰めが大雑把で、データの増減処理に結構ストレスが付きまとうこと。そしてそれを操作するPLサイドの対応手段に乏しく、無力感が生まれがちなこと。

オフィシャルシナリオで推奨される負荷である前半PP:2D、後半PP:4Dが削るメンタルはそれぞれ期待値7/14であり、初期メンタルが15しかないマジメは無理してステージに上って気絶してファン人数を減らしてPTに無理をかけるか、見せ場であるはずのステージに出ない、という選択を強いられる。これはGMとして見ていて、ストレスが強そうだった。

これを軽減できる幕間の処理も特技がランダムである関係上、『捲土重来を期待する』シーンというよりも『プラスを拾えたらラッキー』というシーンになってしまっており、重い負荷を跳ね返し空気を入れ替える役割を果たせてはいなかった。

無論負荷なくしてゲームにはならないのだが、4D6というメンタル消費はあまりにもランダム性が強く、伸るか反るかの博打を複数回強いられる状況もあって、なかなか難しい。少しでも確実性を上げるべく固定値にするか、半固定値(1D+3/1D+6あたりか?)で運用したほうが、ライブシーンはPL負荷が減る印象を受けた。

 

 

ランダム性の強さはミドルの設計にもあって、仕事表でランダムにシーンが生成されることそれ自体は良いのだが、シーンを成功させる判定もランダムで決まり、難易度の高い特技が指定された場合、失敗を見越して振るシーンが散見された。

また、シナリオ的な目的を達成するために有効な手段(キーパーソンイベント攻略のため能力値を上げたい、ライブを有利にするために思い出がほしい)をPLが任意に選択できないことは、システムに振り回されている感じを過度に与えている気がした。メンタル消費で任意選択可能にしても良いのではないか。

その上で振り直し・達成値操作・新特技の取得による対応(艦これRPGにおける発見ルールのような)などでの操作が難しいため、『失敗する』のではなく『失敗させられる』状況が過度に生成され、PLのストレスを高めていた。

有限リソースを支払うことで状況を改善できるのならば、PLの無力感も少しは軽減する気がするが、ダイスの振り直しはアイテム『ドリーミングシューズ』のみであり、達成値操作はクラス単位で受けられる/受けられないが事前に決定してしまう。(他のリソースのコスト高を考えると、初期取得アイテムはドリーミングシューズでほぼ一択になる)

理解度によるサポートはパフォーマンスにのみ有効なので、ミドル判定に失敗する事態を打破するブレークスルーとしては使えない。

特殊なルールを発生させるアイドルスキルを習得して打破しようにも、アイドルスキルを取得するためには特訓を成功させなければいけない。特訓を楽にするためにアイドルスキルを取るために特訓をするというトートロジーが発生しているのは、あまり楽しい状況とはいえないだろう。取得もランダムなので、状況を有利に進める『アタリ』が引けず『ハズレ』を引いて行動を無駄にした感触を強める要素がある。初期作成段階で、任意のアイドルスキル一つを取得可能で良い気がする。

クライマックスに適応されるブレークスルー『衣装』は無償かつ強力だが、あくまでライブを助けるものでありミドルには適応できない。これもランダムなので、PLの望むブレイクスルー足りえず無視される状況が生まれかねないのが、なかなか難しい。

全体的にブレークスルーが多い割に効果がとっ散らかっており、シンプルなゲームイメージが抱けないのも混乱の元凶だろう。メンタル消費によるブレークスルーに一本化して、PLサイドからの状況介入力を上げて良いと思うが、それだと艦これRPGの後追い感が出てしまうのか? 個人的には、スマートなシステム的解決は共有して良いと感じるが。

まとめると、ランダムすぎる状況を軽減し、PLの介入力を上げたほうが、全体的にストレスなく楽しめる気がした。

 

第5の問題として、クライマックスに当たるライブフェイズのルーリングが直感的ではないことが挙げられる。

普段オンラインでプレイをしている我々が今回オフラインで集合したのは、パフォーマンスルールで行われるダイス操作がデジタルではわかりづらく、興奮を共有できないだろうという事前判断によるものである。

実際にダイスに触り、ゾロ目の消去などの処理を共有してなお、ある種の作業感というか『この操作がライブの成功/失敗に関係し、ファンが増減する』ことを納得出来ない感覚がパフォーマンス判定にはあった。

これを6回(キーパーソンシーンも含めれば7回)続けると、クライマックスへの緊張感を持続出来ず、場がダレる傾向が生まれた。

参加コストであるPPの初期設定が過大であること、他PLへの協力要素であるシンフォニーが必ずしも状況を有利にせず、ダイス目次第(ここでも過度のランダム要素が顔を出している)で足を引っ張る要因になってしまうこともあって、ライブという晴れ舞台を巧く演出できていないように感じた。

シンフォニーを行う/行わないの決断を当事者性に繋げたいデザインなのだと思うが、ミドルの使用上思い出が獲得できない状況が多々あることも踏まえ、本来良いことのはずな『理解』『協力』がネガティブな意味合いを含んでしまうことは、(おそらく)意図しないノイズをデータ処理に持ち込んでしまっている。

バクチ要素はプレイ時間のあらゆる場所にあるので、物語的な盛り上がりが結実するシンフォニーくらいは、ただポジティブな結果が出るもので良かったのではないか。

 

第6の問題として、リザルトフェイズでチェックする項目が多々あるのに、それを記録するプレイエイドが一切ない。

リザルトフェイズを円滑に行うためには獲得ファン数・メンタル・スペシャル/ファンブル/ミラクル/パーフェクトミラクルの回数をメモしておく必要があるが、PLの手元にあるシートで管理できるのはファン数とメンタルのみである。

現状キャラシートにメモ欄がないので、余白ないし自前のメモに記入するしかないが、必要事項を記入する誘導要素がないので非常に忘れやすい。実プレイでも記入が必要な事態が起こるたびGMが何度も強調したうえで書き忘れ、状況を思い出して処理する場面が発生した。

ファン獲得数はゲーム全体の成否を図るバロメータであり、別ゲームの経験点的な報酬要素を持つのに、その獲得に支障をきたすプレイエイドのデザインは、かなり問題だと思う。

 

サイコロ・フィクション(というか冒険企画局、もしくは河嶋陶一郎の影響下にあるゲーム)自体が『失敗を楽しむ』『ランダム性を楽しむ』側面があることを否定はしない。

が、それはあくまでPLの自由意志とゲームにそれを反映する手段があってこその楽しみであり、ダイスによって強制的に起こる事態に対しPLサイドが対応する手段が『弱すぎることを楽しめ』という強要ではないはずだ。(『ビギニングアイドルはそもそも失敗するゲームであり、それを楽しめ』と言われると、マインドセットを怠ったプレイヤーサイドの不徳を詫びることしかできないが)

過度のランダム性がそこかしこに放置され、かつそれに対するPLの介入力が弱すぎる結果、このシステムは『ゲームを遊ぶ』のではなく『ゲームに振り回されている』感じを(おそらく期せずして)引き起こしてしまっていた。

冒頭にも述べたように『アイドルTRPGというニーズの掘り起こし』『戦闘を回避した基本設計』には魅力を感じるが、細かいデータ処理のブラッシュアップが不完全で、ランダム性が過度に強く、ブレイクスルーが弱すぎる現在のルールは、骨子の良さだけでは補えない不満点を生んでいる。

『プレイヤーたちが頑張って、自前で手を入れれば楽しい』システムで良いのなら現状でも十分だが、商業TRPGとして世に出た以上、『手を入れなくてもスムーズに楽しく遊べ、手を入れれば最高に楽しく遊べる』というシステムが理想的、かつ基本的な供給姿勢であるべきだ。

現状『頑張れば楽しい』システムであるビギニングアイドルが、『頑張らなくても楽しいし、頑張れば最高に楽しい』システムに変化するよう、1ユーザーとしては強く願うところである。