イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ!:第146話『もういちど三人で』感想

真夏の名物アイカツ8回……と見せかけて、去年選ばれなかったソレイユにリベンジを果たさせ、彼女たちがどこまで行ったのか、そしてあかりジェネレーションとどこまで差があるのかを見せる回でした。
あまりにも偉大な第一世代を、凡人の物語を背負った第二世代はどう追いかけてきて、今どういう関係でどういう状態なのか。
アイカツ8という外在的な順位付けはアリバイ程度に済まし、内容としてはソレイユ代表星宮いちごと、後のルミナス代表大空あかりのアイドルカツドウがぶつかり合う、現状整理と予感に満ちたお話だったと思います。

今回のエピソード、物語的なコアはアイカツ8……ではなく、四年目を迎えるにあたって大きな節目になるスターライト学園祭を告知し、作品世界をシフトチェンジすることにあります。
星宮いちごではなくソレイユに脚光が当たったのも、トライユニット編に向けて空気を盛り上げる意味合いが強いのでしょう。
勿論、二人が選ばれなかった去年のソレイユと、二人が選ばれてしまった今年のルミナスを対比させる意味合いも強いのでしょうが、重要なのはいかに三年目を終わらせるか、その下準備にあります。
なので、スターライトの外側であるドリアカや留学生組は思いっきり切り離して、あくまでソレイユ+ルミナス-1が選抜のベースになる。

アイカツ8に選ばれることに現実味がなく、まるで夢の中のお話のように他人事なあかりちゃんに対し、いちごはソレイユ全員での選抜を強く目指し、勝ちに行く姿勢を見せています。
ここら辺は、職業アイドルとして劇場版で完成し、自身の成長物語を第125話で終わらせた現在の『アイドルの天井』星宮いちごと、まだまだひよっ子である大空あかりとの世界観の差なのでしょう。
選ばれる経験も選ばれない経験も沢山してきた上で、選ばれることの意味をしっかりわかっているソレイユは、アイカツ8の尻尾にくっついてきた中学二年生とは、全く別の世界を見ています。
かつてスターアニスを神崎観月一人がプロデュースしていた位置に、今のソレイユはいる、ということです。
その差、一期ではいちごと観月のあいだにあった埋めるべき距離の描写が再演されるということは、かつてのいちごと同じように、あかりちゃんも『アイドルの天井』に続く階段に足をかけた、ということなのでしょう。


かつての観月という意味では、夜の散歩でいちごと出会うシーンもまた、一期の再演だと言えます。
しかしそこで語る内容は大きく違っていて、いちごは『コマとコマの間で起こっていること』についてあかりに伝える。
これは『SUPER!』というヒーローを扱った映画に出てくる台詞で、ヒーローとして輝く一瞬の合間合間にも人生は詰まっていて、そこでの時間こそが貴いという意味合いで語られる言葉です。
『一瞬のきらめきを永遠にする』という無理難題を実現し続けた超人、神崎観月とはまた異なるアイドル感を、頂点に立ったいちごが持っていることがわかります。

『一瞬のきらめきを永遠にする』ために人間をやめ、アイドルの概念になった神崎観月が、どれだけの苦労と無茶を強いられ、その座から降りるために劇場版を一つ必要としたのは、アイカツファンならばよく知るところです。
その姿を間近で見ていたいちご(と製作者)としては、天才一人を人身御供に差し出し輝きを手に入れる物語を、もう一度演じるつもりはないのでしょう。
スポットライトとアイドルに関するいちごの言は、残酷な選抜装置であるアイカツ8に対する一種のエクスキューズです。
彼女の時代においてアイカツ8という順位付けがあまり価値の無いものだというのは、結果発表を済ましてすぐスターライト学園祭に足場を移したことからも見て取れます。

掘り下げるだけの価値があるなら、アイカツ8で1エピソード、最低でもステージくらいするでしょう。
しかし今回ステージに立ったのはソレイユであり、価値を認められたのはトライユニットとして支えあい、輝くことです。
アイカツ8は扱いづらいので飛ばして、本筋であるトライユニット優先で行こう』という製作者の声を幻聴してしまうくらい、シリーズ構成加藤さんが見せた取り回しは大胆なものです。
圧倒的な形見を維持し、そこに追いつき追い越す物語だったいちご時代と、凡人なりの輝き方を模索し、単純な勝ち負けを超えた価値を探し求めるあかりジェネレーションの差異が、今回はよく出ていたように思います。


その上で、アイカツ8が持っている残忍さはひなきのみが選ばれない結果により、嫌というほど強調されました。
この後ルミナスを結成する過程で、ひなきちゃんは嫌というほど他人の、そして自分の声を聞くでしょう。
『ルミナスのアイカツ8に入ってない奴』という声を。
これまでもあかりジェネレーションで一番『持ってない』存在として惨めに描かれ続けてきたひなきですが、今回どん底を打った感じもあります。
情ハラの相方、珠璃がいてくれるおかげで痛みは軽減されますが、彼女が作り笑顔の奥に隠している忸怩たる思いを想像すると、辛い気持ちになります。

無論、こうしてひなきを追い込んだということは、その窮地の中で何かを見つけ、一歩前進するための布石です。
自分が神様に選ばれていないということ、ポップに弾けようと足掻きつつ常識人の枠をでれない凡才であることを、否応なく自覚させられる今回の展開は、同時にひなきに自分の強みを教える試金石もであるはず(もしくは"べき")です。
選ばれなかったひなきの価値を高めることは、今回いちごが言っていたアイドルの理想、『コマとコマの間で起きていること』こそ大事という綺麗ごとを、下から支える意味も持っているはず。
次のお話がパンチの効いた、良く刺さるエピソードであることを強く期待します。

あかりジェネレーションはみな明確な欠点を持ち、それを克服することで前進してきました。
比較的なんでも出来て、スムーズに前に進んできたいちご世代に比べれば派手さはないかもしれませんが、僕は彼女たちの物語が好きです。
それは凡人の泥臭いお話で、生々しく、地味で、それ故嘘のない輝きを見つけてきた。
それを一番象徴しているのは、主人公であるあかりちゃんでも、華のあるスミレちゃんや珠璃ではなく、なんにも持っていないひなきでしょう。
先輩であり選ばれなかった過去を乗り越えた勝者もであるソレイユのお話は、一つの区切りがつきました。
続く敗者のお話からどういう輝きを見つけるかで、今回のお話の価値が決まると思います。