イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ!:第148話『開幕、大スターライト学園祭☆』感想

遂に始まった大スターライト学園祭、トップバッターはSLQ二人を擁する実力派色物ユニット『ぽわぽわプリリン』……だけで終わらない、リッチなお話でした。
"CGの無いアイドル"神谷しおんの矜持、前SLQ有栖川おとめの実力、イベントとしてのスターライト学園祭のショウアップ、まさかのドリアカ出演。
これでもかとファンサービスを用意した上で、前回の流れを引き継いでひなきちゃんが『何か』を学ぶ要素もしっかり入れ、旧世代メインでありながらあかりジェネレーションの見せ場もあるという、とにかく贅沢な作り。
たっぷり持ってあるんだけど、各要素がしっかりと連動し物語的意味を持っているので、しっかりと整理されて食べやすいという、素晴らしいお話でした。


今回主役が沢山いるのですが、最も太い軸になっていたのが神谷しおんなのは、間違いないところです。
彼女が登場したのは第14話『イケナイ刑事♥』であり、ドラマオーディションに初めて挑むあおい姐さんに、生真面目で演技一本なライバルとして立ちふさがりました。
以来要所要所でのリリーフを続けつつ、おとめ&さくらとぽわプリを結成したり、スターアニスに選ばれつつ仕事が忙しくてステージに立たなかったり、いちごの抜けたスターライトをおとめと支えつつも仕事が忙しくてステージに立たなかったり、まさにスーパーサブというべきキャラクターです。

作中でも言っているように、ぽわプリは緩い空気の実力派であり、第124話で一気に存在感をましたSLQを二名も擁立するという、実は名門ユニット。
そんな中で、女優としての生真面目さ故にアイドルとして大きな看板を持っていないしおんは、イマイチ地味な存在です。
というか、露骨に一段落ちます、CGモデルもなかったし。

ユニットの仲間に水を開けられ、タイミングの噛合も悪い中、しおんちゃんは自分の得意な演技をとにかく生真面目に頑張り(すぎて忍術を極めたりしつつ)、やり過ぎなほどの一点突破で初ステージ(登場以来134回、約2年9ヶ月2週間かかったCGモデル)をもぎ取ります。
その原動力になったのは自分の夢への真摯な姿勢であり、これは初登場時、役作りのために長い黒髪を切った時と変わりのない、彼女の強みです。
あおい姐さんに負けて悔し涙を流しつつも、敵手を讃えた初エピソードから、神谷しおんは神谷しおんのまま、ここまでやって来た、ということです。

その上で、ぽわプリを始めとする様々な人とのふれあいは、彼女をより魅力的で柔軟、そして強靭な人間へと成長させています。
最初はずっと戸惑っていた、お尻を振って『ぽわ☆ぽわ☆プリリン』と叫ぶアピールも、今回は自分から水を向け、楽しそうにやっていました。
真面目一辺倒の堅物だった彼女に起きたこの変化は、弱くなったとか自分を曲げたということではなく、他人と交わることで未知の領域に目を向け、新しい自分を積極的に取り入れていった結果でしょう。
それは、10代の少女にとってとても喜ばしい成長であり、芸能の仕事に取り組む姿勢としても、強い意味を持っているはずです。

デ・ニーロもビックリな追い込みで役作りをするストイックな姿勢、無謀な賭けを勝ちに行く実力と努力、ステージで見せたアイドルとしての笑顔と輝き。
スーパーサブとしてアイカツ!世界を豊かにしてくれたしおんが、この三年間で何を掴み、どんな女の子になったのかとても良く見えてくる、素晴らしいお話だったと思います。
ステージの表現力が本当に良くて、仕事に真面目で格好良いだけではない、笑顔が素敵で可愛く歌えるアイドルとしてのしおんちゃんを、最高の思いやりで捕まえてくれていました。
彼女はアイドルなので、ステージングの説得力で『今、ここまで来ています』ということを見せてくれるのは凄くありがたいし、大事なことだと思います。


そんなしおんをどっしりと見守り、最高の舞台をプロデュースしたのが前SLQにしてぽわプリのセンター&リーダー、有栖川おとめです。
稀代のカリスマ・神崎観月の跡を取ったおとめは、一人で走りぬけ後続に追い抜かせる観月メソッドとはまた別種の、隣に立って一緒に歩いて行く凡人の理論で君臨する女王だということは、これまでも何度か書きました。
今回もその包容力と度量を思う存分発揮しつつ、そこから更に一歩先、しおんを信じつつも万一の事態に備え、観客に更なる喜びをプレゼントする下準備をしていました。

らぶゆーらぶゆー言いつつも、おとめの地頭は凄く良くて、ステージにかける思いも人一倍あるというのは、かなり序盤から描写されていました。
今回も積極的にブレインストーミングをして自分たちの強みを再確認したり、事態がどう転んでも観客が満足するセッティングを整えたり、貫禄すら感じる仕切りっぷり。
SLQを取ってからは自覚も芽生えたのか、積極的に物事を差配する立場を選び、プロデューサー的な仕事を積極的にやって来ました。
その献身的で熱心な姿が見えたのが、第73話だったと思います。

今回はしおんがステージに立てるか立てないかの瀬戸際という危機に際し、あくまでしおんを信じて三人のステージを主眼にしつつ、仮に穴が開いたとしても場を白けさせない準備を二重三重にしていました。
視聴者にとってもサプライズとなったドリアカ出演も、もししおんが到着できていなかったらその穴を埋めるのに十分な爆弾になっていたはずで、しおんが来ていればサプライズの上書きとして機能する、王手飛車取りの妙手。
しおんを待つときのステージの巻き込み方にしてもそうなんですが、何よりもまず観客目線で事態を作っていくところに、先輩世代としての余裕と、生来のサービス精神が感じられます。

おとめが様々なサプライズを仕込み、満足度の高い二連続ステージ(しかも最近スポットライトを浴びなかったメンバー中心!)を用意したことで、イベントとしてのスターライト学園祭は、説得力を増したと思います。
フィクションの中で何かを『凄い!』と思わせるには『凄い!!』とキャラクターに言わせるだけでは不十分で、視聴者に『凄い!』と思わせる具体的な描写・演出・台詞・映像……ともかくマテリアルな何かがいると思います。
今回おとめが仕掛けたステージングには、思わず引き込まれてしまうパワーが確かにあって、作中の人物がそうしているように視聴者もグイッと前のめりになってしまう感覚、フィクションと現実のシンクロ感がありました。
ステージングという身体的経験を主題にしているアイカツ! では特に、このシンクロ感というのは大事。
三年目を〆る上で大きなイベントになるスターライト学園祭が、こういう説得力と実感を持って始まったのは、凄く意味のあることだと思います。


そして今回の話が素晴らしかったのは、過去キャラクターの魅力に甘えたノスタルジーに逃げず、今まさにお話のど真ん中にいるひなきに、大きなものを手渡したことです。
しおんとぽわプリの生き様を見ることで、何かに気づいていく描写を今回ひなきはたっぷりされていました。
前回あれだけセンシティブで重たいエピソードを打ち込んだショックも覚めないうちに、今回先輩たちがステージに注ぎこむ熱意や想いを受け取る展開になったのは、ひなきにとって最高の流れだと思います。

こうして並べられると、ひなきとしおんはたしかによく似ている。
二人共クソ真面目だし、思いつめる質だし、ユニットの中の評価格差に悩んでいることも共通です。
ポップで風通しの良い感じを装いつつ、冷静に状況の変化を見ているところはおとめと似てるのかな。
今回華麗に困難を走り抜けた先輩二人は、いわば未来のひなきの姿であり、常に憧れを追い続けるアイカツ!というお話の中で、追いかけるべき背中を見つけられたのは、非常に重要かつ貴重なんじゃないでしょうか。

ひなきは少年期から芸能界を泳いできた結果、『観月にとってのマスカレード』『いちごにとっての観月』『あかりにとってのいちご』のような、アイドルになった明確な切っ掛けがありません。
それは誰かの背中を追いかける宿命から自由であると同時に、明確な目標と芯がなく、どこか宙ぶらりんになりがちであるということでもある。
そんなひなきに、ぽわぷりの先輩二人という明確なロールモデルが与えられたのは、凄く嬉しい事だと思うんですよね。


今回良いなぁと思ったのは、ひなきが手に入れたものを、ほとんど言葉にしなかったことです。
『有栖川先輩は神谷先輩を信じて、でも出来る限りの準備をしてたなぁ』とか、『神谷先輩だって仲間との差を意識しつつ、それを埋めるために頑張っているんだ』とか、そういう台詞は一切なかった。
ひなきはじっと先輩の背中を見つめて、衝撃を受け、それを飲み込んでい。

視聴者にとっても『語らない豊かさ』みたいなものを感じ取れて、作品のテーマがじわっと染みこむ有り難い展開なんですが、自分としてはむしろ、キャラクター視線で良かったと思いました。
ひなきは過剰に頭がよく全てを言語化してしまう子供であり、そうやって表面的な整理をしたところで、事態がほんとうの意味では解決していないというのが、前回のお話だったはずです。
今回ぽわプリから受け取ったものをひなきが整理する姿勢は、彼女が縛られてしまっている自分らしさ、譲ってはいけないものではなく変化させるべきそれから、一歩外に出たリアクションでした。
そして、守るべきものを守り、変えるべきものを変えた結果も、圧倒的な輝きではじけていたしおんちゃんの姿の中に、ちゃんと描写されている。
今後ひなきがアイカツしていく中で、非常に重要なターニングポイントになるエピソードだったと思います。


しおん、おとめ、ひなき、ドリアカ。
沢山のアクターを輝かせつつ、しっかりとテーマを立てることでお話の要素を整理し、混乱なく展開させる見事なエピソードでした。
おとめ主導のステージングを追体験させることで、学園祭全体の期待感を高めることにも成功していて、ロングエピソードの一番手としても最高の仕上がり。
いやー、いい話でした……。

来週は一年+珠璃のデコボコユニット『バニラチリペッパー』の結成話みたいですが、どういう化学反応が起こるんでしょうか。
出すぎず引っ込みすぎずで先輩勢の使い方が、今回最高に良かったので、学園祭ではそこら辺も期待したいところです。
しかしアレだな……おとめ・きぃ・ひなきと推しが並んで気付いたけど、僕アイカツの黄色好きやな。(今更マン)