イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Go! プリンセスプリキュア:第33話『教えてシャムール♪ 願い叶える幸せレッスン!』感想

優雅に華麗に世界を救う少女のお話、今回はサブキャラ祭り!
というわけで、ミス・シャムールとシャットさん、元ロック現クロロを軸に据えて、文化の持つ力を笑いに交えて伝えてくるお話でした。
シャムールが想像を遥かに超えた立派な猫で、武力を保たないものが暴力に対し何が出来るか、かなり真面目に考えたお話だったと思います。
そういう話をコメディの中でちゃんと出来るのは、いいことだなとも思う。

プリキュアシリーズはあくまで闘う女の子が主役であり、プリキュア以外はどうあがいてもメインステージには上がれません。
プリプリは脇役にもかなり目を配っていて、語り部としてのアイデンティティを確立したゆいちゃんとか、かなり体を張っている妖精とか、戦えない奴は戦えないなりの生き方を見せてくれる。
そんな中でクローズアップされたシャムールのエピソードは、メイクに代表される文化的なパワーが、国を焼かれ悪が支配する絶望的な状況でどういう可能性を持っているか、しっかり見せるお話となっていました。

シャムールは文化人として、教師として非常に広い視野を持っていて、戦争に勝った後の復興まで見据えて、今を楽しみ学びんでいる。
これはトワやクロロのサバイバーズ・ギルトとは対照的だし、『後悔は良いけどそれに支配されてはダメだ』というトワ編のメッセージを考えると、既に正解にたどり着いている大人だといえます。
教師として人を導く上でも、理想を毎日実践し続け規範を示しているのは、信頼できる態度。
クロロにしていたレッスンは同時に、シャムール自身の行動規範でもあるわけです。
大事大事と言っている夢もまた、生徒や子供だけが持つのではなく、大人であり先生でもあるシャムールもしっかり持っている。
『地球の文化を学んで、いつかかならず来る祖国復興と人材育成に役立てる』という、大した(本当に大した)夢が。
この『夢を見るのは子供の特権ではないし、夢を叶えたあとにもまた夢がある』という描き方は、本当に素晴らしい。

食やおしゃれ、社交に音楽といった『楽しいこと』を担当するシャムールですが、戦闘というシリアスな状況では『楽しいこと』はないがしろにされがちです。
しかしプリキュアは『楽しいこと』を取り戻すべく戦ってはいても、戦争をしているわけではない。
歯を食いしばって我慢しながら勝利(つまり敵の死)を求めるのではなく、戦いの中で『楽しいこと』を見失わず、希望を保ちながら戦い続けなればいけない。
希望と絶望の綱渡りを強いられる分、視野を狭くし暴力だけを見つめてしまうディスピア側よりも、、プリキュアの戦いは厳しい戦いになるわけです。

今回の話をアニメ成分抜いて解体すると、『テロ組織に国を焼かれ亡命してきた王族付き教師が、現地民と交流する現場にテロ組織に洗脳されていた元少年兵を連れて行き、文化交流の中で希望を取り戻させる』という話になると思います。
そして、『テロ組織の落ちぶれた幹部とも、文化交流を通じて希望に導き、対話の可能性を産んで暴力以外の解決法の糸口を見つける』という話でもある。
プリキュアがただ闘う話ではなく、戦いの中の希望にまつわるお話である以上、今回の切り口はとても豊かだと思います。
ただ『楽しいこと』を無批判に称揚するのではなく、クロロを通じて絶望をちゃんと見せた上で、それを乗り越える『楽しいこと』の力を描いていたのが、お伽噺から一歩出た説得力を生んでいました。

今回感じた『シャットさん、もしかしたら死なないですむんじゃね?』という感覚は、シャムールが教師であり、文化人であり、『楽しいこと』を人に伝える技術と意欲、才能を持っているからこそ生まれました。
シャットさんが絶望から抜けだして見方になり、戦って叩き潰す以上の答えをプリキュアが手に入られるなら、それはとても良いことだし、豊かなことでもあると思う。
そのための布石と説得力を、今回のお話はしっかり準備したといえます。
ミス・シャムールはほんと、プリキュア歴代の妖精(つうかサブキャラ)の中でも、一二を争う人格的成熟度だな。


そんなシャムールに癒やされていたのは完全に弱々しいショタケモと化したクロロと、悩める中間管理職シャットさん。
両方共『敵』だった、もしくは現在進行形で『敵』であるというのが、なかなか面白い。
殴るだけでは『敵』を味方には出来ないですが、『楽しいこと』を媒介に話しあえば敵を超越できるというね。
シャムールがちゃんと戦える描写を入れていた辺り、安易な戦闘否定になってないところも良いな。

身内であるクロロはともかく、どう見ても怪しい敵幹部なシャットさんすら、悩んでいるなら手助けしてしまう。
ミス・シャムール、生粋の教師というか聖人というか、ともかくよく出来た猫である。
この無防備な善意がちゃんと実を結んで、シャットさん生存に繋がって欲しいなぁ。

シャットさんはゲイ的な意匠(化粧、ナルシスト、ピッタリとしたパンツなどなど)に身を包んでいる、無言の性的越境者だと僕は思います。
今回も『化粧など女々しい』というクローズさんの圧力に傷つき、シャムールのカウンセリングと化粧の力で立ち直り、ルンルンになっていた。
『メイクは女の子だけのもの』という固定観念を名指しで避難するのではなく、手の込んだコメディに仕上げた上で話の核に隠す伝え方は、俺とっても好きです。
『敵も味方も、男も女もどーでもいいじゃない。大事なのはエレガンスと優しさ』というシャムールの哲学、むっちゃリベラルやな。

今回シャムールの南斗水鳥拳に見惚れていたことで、シャットさんがトワイライトに執着するのではなく、美全体に対して開かれた目を持っていることが分かりました。
これもまた、シャットさんの持っている対話可能性といいますか、人の良さの現れだと思います。
ほんとアンタ、悪の幹部向いてないな。
ぜひ生き残って欲しい。

卓越した文化的超猫、ミス・シャムールの日常を描くことで、作品の持つ様々な可能性に切り込んだ素晴らしいエピソードでした。
サブキャラ回でこういう話ができると、シリーズ全体の値段がグンと跳ね上がるわけで、すっげーいいと思います。
ラストでさらっとカナタ生存・地球に存在という可能性が示されてましたが、今後しばらくはこれを追いかけて話が進むのかな?
カナタは相当好きなキャラなので、美味しい使い方をして欲しいですね。