イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

すべてがFになる THE PERFECT INSIDER:第1話『白い面会』感想

気付けばもう20年前の作品、メフィスト賞初代受賞作のアニメ化。
『これからお前らをオサレで殴る!!』と全力で宣言したOPから始まり、神戸監督&大野シリーズ構成のセンスが全開になった絵作りと、バリバリの会話劇で進んでいく展開でした。
こうしてアニメにされると、如何に西尾維新(とそれ以降)が森チルドレンなのかがよく分かる……森先生に影響受けてないあの頃の作家って、ほぼいないか。

全体的にクレバーでオシャレな感じに展開していましたけども、キャラクターが好きになれるよう、表情に拘った絵が多くて良かったです。
自分は"すべてがFになる"が強烈に刺さったのはやっぱり、キャラが立ってる登場人物群が一番のフックだったと思います。
クールで非人間的なんだけど妙に可愛げのある犀川先生。
頭いいはずなのに抜けていて、犀川先生LOVEな所が可愛い萌絵ちゃん。
超人然として清潔な真賀田博士。
透明で清潔な文体を支え、温度を生み出すキャラクターの魅力あってこそ、このお話は一時代を築く礎足り得たのだと。
そういう意味で、キャラの根っこをがっちり掴んで今風にアレンジしてくれた浅野いにお&奥田佳子コンビは良い仕事したマジ。

この『グッと立ったキャラで、がっつりフックする』というのはそれこそホームズの時からの探偵小説の基本、というか小説の基本ではある。
のですが、どうにも厭世的といいますか、体温低めな世界観の中で記号と人情のバランスが上手く取れたキャラクターが居ることで、お話に前のめりになれる足場があったというのは、否定出来ないところだと思います。
原作の文体に漂う透明感と遊離感は、光強めで白飛びしまくりの色彩で巧く表現されていたと思いますが、その真中にいる人間たちはなかなか可愛げがあって、面白い。
真賀田博士や儀同さんといった大人の女性に焦り、犀川先生に牽制球を投げまくる萌絵ちゃん。
そんなジャブに気づくこともなく、マイペースを貫いてブサイク点眼顔を晒す犀川先生。
研究室やファミレスでのやり取りを見ながら、クールさとウェットな温かみの絶妙なバランスという、原作の最もストロングな部分をしっかりと絵に落とし込んだ、良いアニメ化だなぁと僕は思ったわけです。
しいたけ食べるシーンはオリジナルだけど、萌絵ちゃん可愛くなっていい追加よね。

そんなキャラクターの人情に甘えず、どこか突き放した感じの怜悧で残忍な原理を背骨に据え、徹底していることもまた、この作品の魅力でしょう。
暖かさの極が萌絵に宿っているとしたら、冷たさの極は真賀田博士にあります。
真賀田博士という冷たい女と、萌絵ちゃんという温かい女の間を行ったり来たりする中途半端な男、犀川先生がこの話の主人公なのもむべなるかな。
面会室の奇っ怪なデザインや、モニタを通じた温度のない会話など、真賀田博士の超然とした感じもしっかり担保されていて、なかなか良かったです。


基本大きな事件が起こらず、いきなり世界に投げ込まれて小洒落た会話劇が連発する第一話は、かなり挑戦的だった気がします。
皮肉とジョークが入り混じり、頭の回転が速い感じバリバリの会話は、早めのカット切り替えも相まって楽しく聞けました。
ここら辺は、俺が原作ファンであり、犀川先生も萌絵ちゃんも桃子さんも好きだってのが大きいかも知れんが。
桃子さんのカリアゲが妥協してなくて、すっげー良いキャラデザだなとか思ったよ。

犀川先生のクールでヒネた態度って中二病ハートをガッツン射止めるカッコ良さなんだけど、それ一本で押し込まれると、主人公として読者の体を預けるのには冷たすぎる。
目薬のシーンであるとか、真賀田博士に少年のようにワクワクしてるところとか、笑顔の般若と化した萌絵ちゃんに押し切られちゃうところとか、冷たい態度の中にある熱気もちゃんと見せて、『コイツ、結構人間らしいところもあるぜ?』という目配せをちゃんと絵でやっていたのは、とっても良かったです。
スーパークールで一切破綻のないキャラって主人公というより敵だし、それは真賀田博士がやるしね。
犀川先生はクールさの破綻のさせ方によく考えられ捏造された自然さと可愛げがあって、良いキャラ造形だなぁと思います。

現状お話の方は非常にゆったりと進んでいて、ミステリなのに死人も出ていないし、というか現場になる島にもたどり着いていない。
贅沢に時間を使って『このお話はだいたいこんな感じです。オシャレだけど、キャラのことも好きになれる感じだろ?』というサインを出し続ける、面白い出だしでした。
ここら辺の時間配分は、"すべてがFになる"+四季シリーズ四作という、比較的抑えめな原作の量が影響してるんかな。
自分は原作のファンなので、冷たいんだか暖かいんだかよく判んない森ワールドを、丁寧にやってくれるのはとっても嬉しいです。

どっしりと腰を下ろし、世界とキャラクター相手に四ツ相撲を取るような第一話でした。
自分の脳内から原作を読み、ファンになった記憶は消せないわけで、あくまで既読者視線の感想ですけども、非常にグッドでナイスでスペシャルなアニメ化だなぁと感じました。
いやー、来週も楽しみ、楽しみ!