イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Go! プリンセスプリキュア:第37話『はるかが主役!? ハチャメチャロマンな演劇会!』感想

はるはるチャレンジ、今回は演劇! ……ってだけでは終わらない、学生としての春野はるかにクローズアップした演劇祭エピソードでした。
選ばれたモノが物語を独占しがちなプリキュアを逆手に取り、凡人たちの維持と誇りを大事にする真っ直ぐなお話運び、細やかな表情変化に注意したはるかとカナタのロマンス、小気味良い場面転換とコミカルな演技が光るコメディ要素。
様々な部分に冴えが見られる、プリプリの強いところを煮詰めたような作りでした。

ただでさえ色々やっているプリプリですが、今回はとくに多層的な強みが生きた回となりました。
一番分かりやすく、そして機能的だった多層性は、カナタと平野くんどっちがロミオをやるのか、というミステリの扱い方です。
プリキュアは『変身』という特別性を手に入れた選ばれた女の子のお話であり、ドンガメはるかを主人公においたプリプリも例外ではありません。
通う学校はハイソでゴージャスでノーブルな寄宿学校だし、恋のお相手は異世界の王子だし、友達は世界的企業グループの後継者に新進気鋭のモデル。
スペシャルになりたい』という酷くありふれた、それ故強烈な欲求にしっかり答えているからこそ、プリプリはエンタテインメントとして面白いわけです。

その特別性はしかし、特別な存在を普通な存在から切り離し、特別視することで成り立っている。
ゆいちゃんがどれだけ自分を『プリキュアの語り部』として認めていても、彼女が変身できないことに変わりはないわけです。
スペシャルな物語としてのプリキュアは非凡を優遇し凡俗を差別することから始まっているわけで、プリプリが歴代シリーズの中でもかなり細やかに『特別ではない存在』を扱いつつも、そういう裂け目は常に存在しています。
そして、視聴者も意識的・無意識的にかかわらず、裂け目の前提を受け入れてこのアニメを見ている。

そういう前風景があればこそ、今回カナタがロミオの代役を提案し、(二重の意味で)恋人役であるはずのはるかがそれを拒絶して『特別ではない存在』を『特別な存在』に変えうる演劇の舞台を、自分たちの努力の結実として選び取る展開は、凄まじく効果的に機能する。
プリプリを見ていれば、そうそう簡単に『特別な存在』だけをピックアップし飾り立てる(そして『特別ではない存在』を踏み台にする)展開をやらないと分かっていても、物語的前提を受け入れていればこそ、視聴者は常に『やっすい女児アニの、安易な展開』に落ちていってしまう恐怖(もしかすると期待)を感じているはずです。
今回の展開で言えば、はるかとカナタの特別性を担保するために、平野くんの代役をカナタが完ぺきにこなし、『やっぱ王子様って素敵ね、それに選ばれたプリンセスも素敵ね』という流れを、女児アニにかぎらず幾度も体験してきたからこそ、そういう展開にしてほしくないはと思いつつも、そうなったら『まぁしょうがないな、プリキュアだもんな』と言い訳をする用意を、視聴者は常にしている。
カナタが立候補した瞬間、視聴者の殆どはその言い訳を取り出すべく懐に手を入れたわけで、その防御的な仕草があればこそ、はるかがあまりにも真っ当に『特別でない存在』がここまで頑張ってきた意味を称揚し、傷のない完璧な舞台ではなく、傷だらけでも自分たちで手に入れた舞台を選択するあの行動は、見ている人の横っ面を張り飛ばす威力に満ちていた。
視聴者がフィクションに慣れていればいるほど発生しがちな前提を、見事に逆手に取った展開だとえいます。

今回の展開が何より素晴らしいのは、視聴者の反応を逆手に取るため『だけ』にそれが選ばれたのではなく、まっすぐに正道を行く春野はるかという主人公の魅力、真っ当なことを真っ当に言い切るお話しの輝きをより強めるために、視聴者の余談を逆手に取る効果的な構造が選択されたということです。
プリプリは王道を衒いなく走り切るところに強さがあるアニメだと僕は思っていますが、今回の話しも主張それ自体はひどく古臭く、青臭い。
みんなで頑張って、一つの舞台を作り上げる体験の尊さ。
自分の弱さや痛みを噛み殺して、あえて舞台に上がる勇気の輝き。
そういうありふれたテーマを説教臭くなく視聴者に体験させるためには、『ハイハイ、ここでカナタがって、え~そっちぃ!!』という驚きを一発、ヒネた態度の視聴者にぶち込むのは凄まじく有効なわけです。
どんな素晴らしいテーマも届かなければただの題目なわけで、古くても綺麗なネタをまっすぐに届かせるために、丁寧な工夫と作りこみを積み重ねるというプリプリのスタイルが、最高に突き刺さる展開だったのではないでしょうか。


凝った構造はロミオの入れ替わりだけではなく、お話全体にも及んでいます。
作中で演じられる"ロミオとジュリエット"はラブ・ロマンス演劇なわけですが、これを上演するまでの奮闘記を通じて、記憶を失いはるかと距離ができたカナタが彼女に惚れなおすまでが、非常に劇的な手法で語られています。
幾度も強調される河原での語らいと、最期の瞬間まで超えられることのないセンターライン。
仲間と一緒に駆けまわるはるかの奮闘と、それを見つめるカナタの細やかな表情変化。
「みんな頑張っているから……」とつぶやくはるかの表情が綺麗に半分影に覆われていたりとか、象徴的な絵作りが今回はよく刺さっていたように思います。
はるかがカナタの提案を止めて自分の言葉を紡ぐ時の、中心にぐっと寄っていくクローズアップなど、切れ味の鋭い演出が幾つもありました。

カナタが記憶を取り戻し、はるかとのラブ・ロマンスを成就させてハッピーエンドがやってくるのは、物語的安定性から言っても、『お約束』の面から言っても確定された未来。
しかし、視聴者の心を動かすエピソード無しで結果だけを出されても、それはただ『お約束』とだけ感じられる、中身の無い空疎な結論になってしまいます。
今回、セリフで心中を語るのではなく、非常に細やかな表情付けを活用してカナタの変化を追いかけた演出は、『お約束』なはずのハッピーエンドがぐっと間合いを詰めてきて、『コイツらには是非幸せになってほしい』『ならないとおかしい』という気持ちが自然に湧き出てくるような、素晴らしい演出だったと思います。
ここら辺の切れ味は、流石大塚さんといったところでしょうか。

形式の上ではロミオを譲ったカナタだけれども、平野くんとの稽古ではどうしてもエンジンかからなかったはるかが現金に気合入れるシーン一つ見ても、はるかのロミオがカナタだってのは判る。
今回のお話が更に良いのは、記憶と一緒に生来の貴族らしさ(プリンセス性と言っても良いかもしれない)を失ってしまっているカナタに、真の貴族らしさを教えるのがはるかだ、ということです。
平野くんの代役を申し出るカナタは、台本一発で完璧なロミオが出来るスマートな存在だし、ただ舞台を完璧にやるだけなら、ベストの選択ではあるでしょう。
しかし今回(とプリプリというシリーズ全体、そしてそれが掴もうとしているより一般的な)重要な真理から言えば、足をくじいていても平野くんが舞台に立つべきだし、今の自分達のすべてを舞台で出すことが、完璧な舞台をやることよりも大事でしょう。

カナタにプリンセスの夢を拾われて始まったこの物語ですが、気付けばカナタは記憶を失い、はるかは小さな成長を確かに積み上げて、『導くもの』と『導かれるもの』の位置関係は気付けば逆転している。
今回のはるかの宣言は非常に鮮烈な形でそれを見せていたし、カナタ自身もそのことにしっかり気付き、真っ直ぐなジュリエットに強い好感を抱く描写が、しっかりと伝わってきました。
この流れは『失われた記憶と時間を。穏やかに取り戻そう』と第35話で宣言したはるかの言葉を、そのまま実証する穏やかで優しい帰結でもありまして、そういう意味でもプリンセス性に満ちた素晴らしい流れでした。


演劇という題材は今回、カナタとはるかのラブ・ロマンスを際立たせる舞台であると同時に、はるかのクラスが一丸となって飛び込んでいく青春のるつぼでもある。
熱の入った稽古風景や、役者以外も懸命に努力する準備風景、本番直前のバックステージの慌ただしい描写。
『選ばれた』カナタとはるかだけではなく、ともすれば名前すらないクラスの子供達全てに熱意が感じられる、『選ばれなかった』人達の物語としても、今回のお話は素晴らしかったです。
本番入ってからのアクシデントも、はるかの天性である現場度胸をフルに活かして魅力に変えていたり、演劇の魅力を120%引き出していたと思います。
……本来演劇を軸に持ってきているミュージカルアニメにこそ、こういう説得力って必須だと思うんだけどな。(今期深夜帯への目配せ)

ゲストキャラクターである平野くんと古屋さんは、Wメガネの冴えない風貌が逆に凡人の物語を引き立てる、素晴らしいキャラクターでした。
『やっぱりロミオをやりたい!』という平野くんの慟哭を受け、極度のあがり症という弱点を踏み越えて立ち上がる古屋さんの勇気は、ベタながらマジで熱かった。
地味に大道具担当のゆうき君が「ケンタの気持ち無駄に出来ねーよ!」とかアツいセリフをもりもり吐いていて、やっぱ王道はエエわ……素晴らしいわ……って気持ちになりました。
プリキュアの物語ははどうしてもプリキュアで固まりがちなので、今回のように『選ばれなかった人』のお話をちゃんとやって、彼女たちが秘密の戦士として閉じた存在ではなく、社会に対して開かれ、見守られている健全な子供であるという足場に説得力を持たすのは、やっぱ大事ですよね。

ノルマであるディスダークとの戦闘は、日常を舞台にしたベースストーリーが堅牢で魅力的な今回、かなり浮いてしまうシーン。
二体の敵、時限爆弾、分身殺法とギミックを凝らし、浮いてはいるけども個別のシーンとして楽しく見れるよう殺陣を組んだのは、とても良かったと思います。
普段のプリキュアが『選ばれた』人のお話なのは、あからさまな非日常である戦闘シーンを浮かさないための工夫でもあるんだろうなぁ。

『選ばれなかった』人達の物語として、『選ばれた』はるかとカナタの再会の物語として。
非常に高いクオリティで展開した、素晴らしいエピソードだったと思います。
こういう話が真正面から飛んで来るので、プリプリマジ侮れない。