イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

すべてがFになる -THE PERFECT INSIDER-:第4話『虹色の過去』感想

不思議の国のマーダー・ケイス、四話目はヒント集めと夢遊病
謎のロボット・ミチル、多重人格、切り取られた手足、そして"すべてがFになる"。
問題解決のためのヒントをばら撒きつつ、メインは白い彼岸に惹きつけられる萌絵の描写だった気がします。

過去の体験から異常事態と死に強く惹きつけられている萌絵の姿は、『まるでミステリのように』所長の死体を読み解くことからも判る。
目の前に死体があるのに、普通で当たり前の反応を返すことはなく、エキセントリックでロジカルな謎解きにのめり込んでいく。
足を止めて考えればこれはミステリ小説のアニメ化なので、そういう絵空事的な反応はむしろ当然なんだけど、作中のリアリティから言えば異常で夢遊病的な反応。
でもそれは、真賀田四季が用意した殺人劇場に引きずられる形で顕在化した、西之園萌絵の本性でもある。

キャンプ場、もしくは研究所内部にいる普通で凡俗とすら言える人々に比べ、萌絵は浮き上がっている。
空気は読めないし、人情には疎いし、行動も普通じゃない。
異常な研究所においてすら異常だった真賀田四季と、似た岸にいる存在だからこそ、まるで姉妹のようにモニタを通じて語り合うシーンは幾度も繰り返される。(いやまぁ、あそこにヒントがあるから何度も見せてるって側面もあるけどさ)

早々に彼岸に辿り着いてしまった天才にして変人、殺人者の真賀田四季の人格が拡大した、窓のない研究所。(Windows系のPCを使っていないというネタでもあるんだろうか)
そこをフラフラと彷徨いながら、萌絵はどんどん四季の亡霊と出会い、引き寄せられていく。
これまで見せていたようにこのお話は、『真賀田四季に引き寄せられる犀川創平を、西之園萌絵が止める』物語であると同時に、『真賀田四季に引き寄せられる西之園萌絵を、犀川創平が引き止める』話でもあるのだ。

真賀田四季13歳のシーンがカットバックされるのは、それが現在の殺人に深く関わるトリックのヒントであると同時に、そここそが彼女が決定的に彼岸に泳ぎ着いた瞬間、西之園萌絵が今フラフラしているクリティカル・ポイントに他ならないからだ。
セックスと殺人という、対極にあるように見える行動はしかし、常識的な世界では禁じられたタブーであるという結節点で同質化し、結果、真賀田四季をあの白い研究所に追いやっている。
既に決断し行動し漂流した四季はオカルティックな、もしくは電子的な亡霊として研究所に張り付いて、萌絵を誘惑し続ける。
そのエコーが男である犀川創平を誘わないのは、彼がもう大人であるからか、それとも萌絵という恋人を尊重してのことなのだろうか。
真賀田四季は彼女の白い研究所、もしくはそこに撒き散らされた死体がそうであるように、清潔なのだ。

前回は弱点に見えた研究所の足場のなさは、萌絵が彼岸と現世の間でふらつく今回は、長所に変わっていたように見える。
白い世界が持っている危うい誘惑に説得力があるので、どんどん危険な方向にドライブしていく萌絵、分かりにくい形で危機感をいだき止めようとする犀川先生の姿にも、無言の圧がちゃんと生まれているのだ。
このように、劇的空間と登場人物のドラマが共犯を始めると、やはり物語は面白くなるな。


更に言うと、問題なのは殺人自体ではなく、おそらく真賀田四季だ。
謎めいた天才、もしくは狂人の過去、行動理念、内面に踏み込み解体していく過程の中で、彼女の亡霊に引き寄せられる危うさこそ、殺人よりもスリリングなものとしてこのアニメの中で提示されている物語のエンジンだ。
そういう意味で、真賀田四季の多面性を(多重人格芝居も含めて)見事に演じている木戸衣吹さんは、立派な役者だと思う。

提出されたヒントも、殺人事件に関係する要素であると同時に、もしくはそれ以上に、真賀田四季のヴェールをはぐための道具としての側面が強い。
いくども乱入する、無視するにはスキャンダルに過ぎる13歳の真賀田四季と合わせて、真賀田四季という謎を読み解き、彼女に誘引される運動。
それは犀川と萌絵を引き寄せるドラマの引力でもあって、視聴者がそこに同調するように組み上げられている。
真賀田四季が好きになれるかどうかこそが、この話を好きになれるかどうかのキモなのであり、現状それには成功しているように、もともと彼女のファンだった僕は感じる。


やはりミステリというものは終わりから読むものではなくて、既読者としてトリックや結末を知ってしまっていると、アニメーションの中でのヒント出しや誘導がフェアーであるか否か、判別しきれない。
結構的確におかれているように見えるパーツをつなぎあわせて、全体像を推理したところで、ヒントについている紐がどういう結末に結びついているかを知ってしまっている以上、それは真剣さに欠ける遊びでしかないだろう。
既読者の立場からすると、要素は巧く再構築されているし、結末に至るヒントは適切に演出されているように思う。
四季の要素を混ぜ込んだのは、三人の変人が行う心理的綱引きを強化するだけではなく、視聴者を納得に導くガイドラインとしても、良く機能しているように思う。
ここら辺の感想は、結局エミュレーションでしかないのだけれども。

ミステリとしてやっておかないといけないヒント出しとしては
・ミチルの存在
・彼女の工学的仕様
・"すべてがFになる"というキーワードの提出
・失われた手足の謎の強調
あたりが今回行われたのか。
あと、真賀田四季13歳の行動も。

ニンフェットによるスキャンダルは、真っ白い空間をふらふら彷徨いつつIQ高そうな会話をする平板な現在に、巧く起伏を作っている。
13歳の四季はエロいし、所長がズルズル滑り落ちてダメダメになってしまう姿には、破滅のカタルシスがある。
淡々と狂い、淡々と殺されていく無機質な『現在』と、音も色も強調されている『過去』の肉体性はテーマ的・作劇的な対比というだけではなく、単純に視聴意欲を掻き立てるためのギャップとしても機能している。
一要素を複数の目的を持って運用し、それが機能している(と僕個人は判断する)ということは、このアニメは結構豊かで成功したアニメなんじゃないか、ということでもある。


面白いアニメになってきたぞ、これ。