イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ノラガミ-ARAGOTO-:第5話『神祝き、呪きき』感想

善意が悪意を引き込んで地獄を呼び覚ますアニメ、第5話はバカ女大暴れ。
刺された補正でトチ狂ってるのを差っ引いても、やっぱり行動理念がおかしい毘沙門様が思う存分株を下げる話でした。
眼鏡も『気の強い女が折れて自分を頼ってくるの良いよね! 僕も大好きだ!!』という性癖を素直に吐露しただけで、株が上がる要素がねぇのがすげぇ。
モブ神器も大量虐殺されちゃって、こっからなんか挽回の手があるのかさっぱりわかりませんが、とにかくヤトVS毘沙門の構図には一応の決着。

陰謀とテロリズムで他人に迷惑かけまくりというか、大量殺人者である時点で陸巴に弁明の余地はないけれども、『うんざりだ』という彼の言葉にも頷ける大惨事でした。
何がひどいって、野良や陸巴が背中を押さなくても、遅かれ早かれこうなってたであろうという毘沙門ファミリーの地獄っぷりが。
笑顔の強要とか、器を遥かに超えた慈善行為とか、世知辛すぎる世の中でやることじゃなかったなぁ眼鏡よ……。
破滅に拍車をかけた陸巴が許されるわけではないですが、毘沙門が無条件に被害者ってわけでもねぇだろ、これ。

脳筋メサイアコンプレックスの逆恨みバカ女も悪ければ、それを操縦するべき立場なのに愛と欲に目がくらんで歯止めを効かせなかった兆麻も悪い。
もっと言えば、心の澱が物理的破滅に化けて襲いかかる世界律が悪い。
そうやって悪いところ探ししてればどこまででも遡れるので、結局のところは『業』ということなんだと思います。
この惨劇も、共感するポイントが針の頭くらいしかない被害者たちも、カルマを乗りこなせなければ何が起こるかというテストケースか。
ひよりが菩薩になるのも納得の、業の深いお話だ。

毘沙門は代替わりやむなしのバカ女で、ヤトの悪態もいちいちもっともなわけですが、そこで諦めてしまえばカルマは克服できない。
どうしようもない悪ガキだった雪音が変わったように、業に塗れた亡者を切って捨てるのではなく、拾って繋ぐことを選ぶことこそ、世知辛い世界に対する唯一の反逆なのでしょう。
雪音にしても毘沙門にしても、救済の道を選ばさせる決定的な起点になっているのが、只の人間のひよりだってのは、なかなか象徴的だと思います。
というか、あの子が聖女に過ぎるのか。

毘沙門は善意から死霊を救い上げ、兆麻は自分のエゴでそれを制御せず、笑顔の楽園は気付けば濁って歪んで地獄に成り果てた。
毘沙門も兆麻も情と業の深い存在だってのは、この世界の生物全部そうなんで構わんのですが、今回虐殺された名もない神器たちには関係のない話なわけで。
『神様も祝の器も、人間らしい感情のオモテウラがある存在だったね』ってだけじゃ、毘沙門の歪みは正されんでしょう。
そこら辺、雪音くんが真っ当になったように反省し、生き方を整えて欲しいところであります。
この二人の魂の形が今回の悲劇を導いてんだから、陸巴ぶっ殺せば解決って話じゃ、もうないでしょうよ。


毘沙門一家の構造的歪みに巻き込まれたヤト一家ですが、主役じゃないおかげか比較的不条理の嵐からは距離をおいて、真っ当な生き方が可能な立ち位置。
雪音を頼り鼓舞するヤトも、真打ちになって帰ってきた雪音くんも、見ていて頼もしい……っていうか、あの二人だけがこのドロドロの状況での清涼剤だよ……。
あ、ひよりもいたね、あの子はやっぱり素晴らしいね。

毘沙門が代表とするお綺麗な題目から外れ、神様専門の殺し屋として汚れ仕事をこなしてきたヤト。
蔑まれる立場の彼が、蔑む立場の毘沙門よりもまっすぐに家族を構築しているってのは、皮肉な構図だと思います。
力の大小も、神としての血統の良さも正義を保証してくれないのなら、もう身近な人と助け合いながら己の身を正していく地道な努力以外に、頼れるものはないわけで。
カッコつきの『愛』『平和』『正義』だけを見て、笑顔の地獄を腐敗させていった毘沙門と、神様の底辺として雪音に向かい合い、ひよりに助けられてここまで来たヤトとが正反対に見えるのは、むしろ当然か。

神だの死霊だの扱いつつ、結局このアニメは凄く生々しくて、都合の悪い話なんだと思います。
世界はどんどん悪くなっていくし、万能の解決策はないし、人間(神様と死霊と神器含む)そうそう変わらない。
毘沙門一家のあまりに愚かであまりに醜い結末も、ヤト一家の一期全部を使った迷い路も、そういう都合の悪さの上にある。
合間合間に挟まれる、デリバリーゴッドと少年幽霊と脱魂少女のゆるくて温かい日常も、そこにある。
最悪に滑り落ちていく世界の中での、ささやかで唯一の休憩所として。
スタイリッシュな作風の中で、そういう当たり前でオーソドックスで大事な対比をしっかりやってるのは、やっぱこのお話しのすごく良いところなんじゃないかなぁ。

それはそれとして、毘沙門一家の糞ダメっぷりは尋常では無いので、ゴミクズ人間から更生し頼れる神器に成長した雪音くんを見習って、心を入れ替えて欲しいもんです。
……やっぱ代替わりさせたほうが早いな、これ。
あんだけ胸糞悪かった陸巴に一種の共感を抱いてしまう辺り、ほんと毘沙門と眼鏡はダメダメだな!