イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第19話『時逆の妖』感想

主人公の復帰という一大いイベントを経ても休まずガンガン進むアニメ、今回は獣の槍誕生秘話。
『ダラダラ喋って設定説明するのもうぜーし、時間遡行妖怪出して潮に直接体験させようぜ!!!』というアクティブな発想は、非常に"うしとら"らしいと思います。
前半作画力を溜めた文、ラスボスである白面の者と直接対峙する後半の演出は非常にキレており、恐怖と迫力に満ちた邂逅となりました。

今回のお話はチラホラ顔を見せていたギリョウ&ジエメイさんの謎を解明する回でもありまして、獣化潮と追いかけっこしつつも、細かく伏線を撒いておいた成果が出ている感じです。
これまで潮(と視聴者)が見ていたギリョウさんは修羅の顔をした火吹き男なわけで、宮野声のスマートなイケメンが出て来た時の『ん? コイツ誰?』感は、丁寧に計算された結果生まれる感覚なわけです。
『楽しい鍛冶屋一家が何故、妖怪火吹き男になってしまうのか』という疑問が、視聴者の中でスムーズに生まれるように話を組み立てた結果ここに辿り着いているわけで、うしとららしい伏線の妙技だと思います。

ギリョウさんはただのイケメンというわけではなく、後の妖怪火吹き男に相応しい闇も備えている。
巧く剣を作れない時の焦燥した顔だとか、追いつめられて闇の技法を漏らすところだとか、宮野真守の芸達者なところが巧く効いた、良い見せ方だと思います。
ニンゲンが当然持っている『欲』をしっかり描いた上で、それに流されたり乗り越えたりする人格のドラマをしっかり準備するところは、うしとらを見ていて一番面白いところです。

後の話の準備という意味では、ジエメイと真由子の繋がりもここで見せています。
不思議な事が起こってもそれには拘らず、助けてくれた恩義に報いようとする所とか、マジそっくり。
キャラの記号ではなく内面で連続性を作るの、キャラクター大事にしてる感じがあってすっげぇ好きだなぁ……。
潮担当レースは麻子が完膚なきまでに勝ったので、別の役割を持たせるべく準備を怠らない感じですね。
創作のキャラクターを血の通った人間として扱いつつも、視聴者を満足させるお話しの構造づくりに余念がないところ、情熱と技量の高度な融合もまた、うしとらの素晴らしいところですね。


設定をただ聞くのではなく、時間遡って実際に体験しちゃえ!! というある種乱暴な試みは、潮の当事者性を上げる妙手です。
意識と肉体を持って実際に接すればこそ、心優しい潮は鍛冶屋一家の暖かさに共感を覚え、失ったは母の面影をジエメイのお母さんにも見る。
そして白面の圧倒的な暴威によって、共感した暖かさが奪われ、守れるはず、守りたかったはずの母も目の前で焼き殺されてしまう。
ただ奪うのではなく、与えた上で奪うところが藤田流というか、喪失の重さをしっかり付けているポイントでしょう。

鍛冶屋一家に親しみを覚えることは、この後生まれる獣の槍にも強い感情を刻むということであり、槍の使い手蒼月潮に取ってはとても大事なことです。
時間を逆行したのは設定を語るためでもありますが、それよりも潮の中の感情をより熱く、強く獣の槍に結びつけることこそが狙い。
キャラクターと設定を近づけるためには行動と感情が絶対必要になるわけで、時間遡行は獣の槍誕生秘話という『既に決定された過去』を『潮の物語』に変えるための、見事な物語装置だといえます。
こうして獣の槍に物語を刻み、それを主人公と強く結びつけることで、キャラクターとしての獣の槍が立ち上がり、ただの武器や力を超えた魅力が生まれてくる。
助走をちゃんとやってるからこそ、お話が高く飛ぶのだなぁと実感させられます。

潮の当事者性は共感だけではなく敵意や絶望といった感情にも及んでいて、その対象はラスボス・白面の者です。
これまで母や偶然拾った槍、それを狙う人間や妖怪といった間接的なやりかたで白面とつながっていた潮ですが、今回目の前で家族を殺され、無力さを噛み締め、圧倒的な威圧感にブルっちまう経験を、己のものとして受け止めます。
この当事者性の高いラスボスとの直接対峙を実現させるのも、時間遡行という裏ワザの効果なわけです。

潮は完全無欠のヒーローではなく、助けられないものが沢山あります。(アニメ化に伴い、何個か喪失のエピソードが飛んでますが。徳野さんとか)
槍に刺された十郎だとか、今回で言えばジエメイの母とか、みんな助けたい潮の優しい手は時々誰かを取りこぼす。
その後悔が潮をより強いヒーローに変えていくわけで、必要な痛みといえばそうなのですが。
今回の喪失は白面の者と直接繋がっているわけで、お話としての必要度は更に高いなぁ。


ラスボスに必要な白面の者の『格』みたいなものも、気合の入った演出で強調されていました。
『人間クリスマスツリー、しかも七本』という残虐でド派手な登場、印象的な『眼』の迫力、なんの躊躇いもない圧倒的な虐殺。
暴虐の限りを尽くして鮮烈であるというのは、お話を支える最後の敵役には絶対必要な要素であり、今回の白面の見せ方は必要十分以上にヤツを魅力的に見せていたと思います。
やっぱ最後にぶっ倒す超悪い奴は、肯定しちゃいけないけど惹きつけられるアンビバレントな魅力を持っていて欲しいわけですよ。

効果的に演出された『格』に潮が心底ブルって、一度負けてしまうのも大事な要素。
成長を効果的に見せるためには傷や喪失が有効なわけで、『お話を完成させるためには絶対倒さないといけない白面相手に、何も出来ない。心理的にも敗北する』という体験は、潮の魂を奮い立たせるために重要な敗北だといえます。
時間遡行者として特権的な地位にいるので、負けても死なないという理屈が付くのもグッド。
こうしてアニメでまとめてみてみると、時逆というキャラクターを思いついたことが様々な物語的効果を生んでいて、目立たないが重要な位置にいるのが分かります。


そんなわけで、獣の槍の謎を開示しつつ、主人公がラスボスに因縁を取る回でした。
やっぱラスボスに直接的なモチベーションが有ると無いとじゃ話の盛り上がりが違うわけで、話が飛び上がる滑走路をしっかり引いてるのだと、再度思い知らされるエピソードになりました。
そこら辺を(お話しのルール内において)無理なく展開させる技巧もたくさんあるわけで、アニメになったことで原作の巧さと熱さに唸らされる、良いアニメ化だと思います。
こうして原作の良さを整理し、整備して映像に変える作業って、ホント大変なことだと思うわけよ。

手際よく進めた結果、与えて奪うところまで一話で終わったわけですが、こっから更に奪うのがうしとら。
今後の潮の生き様に強い影響を与えるあのシーンとかあのシーンとかが、どう演出されるのか。
今回の白面の見せ方が素晴らしかったので、期待が高まるところです。
うーむ、面白い。