イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ノラガミ ARAGOTO:第7話『神様の祀り方』感想

神と死霊と人間が織りなす人情喜劇、大きなエピソードが終わっての七回目はお社と愛情。
毘沙門一家の騒動で辛気臭かったところをスーッと払うような、爽やかなお話でした。
祝の器として成長している雪音くんやゴッデスエンジェル過ぎるひよりだけではなく、捻くれいじけたオッサン神のヤトが、ずっと抱え込んでいた小さな、しかし大きな願いが叶う終わり方が凄く良い。
こういうコンパクトな話に切れ味と暖かさがあるの、ノラガミって感じがする。

神と神器の関係がねじ曲がるとどうなるかってのは、毘沙門とクソメガネと陸巴でよーく分かりました。
散々腐敗して胸クソ悪い『間違い』を見せてきたわけで、ここらで一発健全で望ましい『正解』ってのを確認するのは、お話として正しいし有り難い。
欲望剥き出し、本音丸出しながら気持ちのこもった、小さくて暖かい間柄。
カルマに塗れたノラガミの世界の中で、おそらくそういう小さい『正しさ』しかすがるものはないってのが、今回のお話なんだと思います。

ヤトは完璧でもなければ、偉大でもない主人公です。
セコいし、すぐ拗ねるし、素直じゃないし、そのくせ寂しがりだし、神殺しだし。
そして、一つの現象として自動的に『正しく』為ってしまうノラガミ世界では非常に珍しく、独善に陥らないために不遇を選んだ男でもある。
見せかけの『正しさ』が持ってるイヤな感じというのは今回の高天原会議からも漂っていて、上から目線の『正しさ』から距離をおいた結果、ああも所帯じみた神様が主役を張っている。
一見ダサく見えるデリバリーゴッド稼業も、五円でも良いから縁をつないで、信仰されることで生き延びる神の在り方を間違えないよう、ヒネたヤトなりに考えた結果なわけで。

そんな彼が一人の少年の亡霊を拾って、一緒に生きたり切ったり刺されたりしつつ、少しずつ関係を作っていった。
その結果が、今回ゼニへの執着を切った元窃盗犯・雪音くんの勇姿だと思います。
それは雪音くんが自分で辿り着いたものだし、情けなくてカッコ悪いヤトが、不器用に導いたものでもある。
作中では『元人間が神を導く』ことが強調されているけど、実はそれは相補的で、『神が元人間を導く』ことも可能だということ、不格好なヤトが雪音くんと辿り着いた場所は、そうそう悪く無いってことを、今回見ながら感じました。
フラフラしつつその都度正していく二人の関係は、野良の話をしているカットの明暗ハッキリしたレイアウトに、よく出ていましたね。


そういうコンパクトな暖かさをひっそり支えているのが小福で、大黒と合わせて小さい『正しさ』の手触りみたいのを伝える上で、結構大事なキャラだと思う。
フツーにヤトたちが死地から戻ってきたことを喜び、雪音くんが祝の器になったことを喜ぶ、神様らしからぬ常識的な反応。
しかしそれは二人がなんとか頑張って維持しているものであり、少し動けば大きな災いを呼び込む小福の力を考えると、結構フツーではないわけです。
その特別さを誇らないところもひっくるめて、あの偽恵比寿と神器はいい脇役だなぁと思います。

本物の恵比須さんも出て来ましたが、ヤトと雪音の絆を確かめるダシにされたといいますか、当て馬といいますか、ご愁傷様でした。
ほんとにゼニで転ぶと思っていたのか、失敗前提で探りを入れたのか、いまいちまだ見えないな……。
面を弄んでるラストカットからして、今後は恵比寿で話が回る感じなのかなぁ。

そしてスーパーエンジェリックガッデスとして、お話しの『正しさ』全てを背負うひより。
あまりに人間出来すぎていて忘れてましたが、あの子まだ高校一年生なのね……出来てるわぁ。
殺しの神として蔑まれ、世の中拗ねて転がり続けたヤトにとって、あのお社がどれだけ待ち望んだ真心だったのか。
コメディ調で進んできた話からのガチ泣きは、そこら辺を伝えてくるいい演出でした。
五円玉でふざけていても、心の奥底では暖かい家が欲しかったというヤトの気持ちは、めんどくさくて愛おしい。
それを真っ直ぐに受け入れてくれるひよりもまた、暖かくて有り難い。

雪音くんにしてもそうなんですが、巧く行かなくてネジ曲がった男たちを時に支え、時に背中を叩いてくれるひよりは、理想の母親にして信者過ぎると思う。
彼女という圧倒的に『正しい』存在がいればこそ、間違いやすいノラガミの世界で主人公たちは間違えずに済んでいるわけで、真実道標なのは雪音くんではなく、ちょと脱魂体質なだけの高校一年女子なのかもしれません。
ほんとなー、ひよりは間違えない、信頼できる。
……だからこそ、この性格の悪い話ですんごい酷い目にあいそうで怖いんだよなぁ……お話しの要の中の要だから、ひより崩せばガラガラッっと暗い方向に落とせるもんなぁ……。

というわけで、毘沙門事件というとばっちりを乗り越え、より強く結びついたヤト一家が見える回でした。
ワハハと笑ってジンワリいい気持ちになれる短編の空気が好きなんですが、あっという間に恵比寿の話が始まってしまうようで少し残念。
しかし大きな波が来た時にも、今回見せたような小さな『正しさ』こそがヤトたちを繋ぎ止めるはずであり、本質としてはそんなに変わらない気もします。
短いのも長いのも、やっぱおもしれぇなノラガミ