イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ!:第160話『夢はパーフェクトアイドル!』感想

思えば遠くへ来たもんだ、160回目のアイドル活動は瀬名あか三角関係回……と思いきや、凡人アイドルの目覚めと凡人を飛び越えた主人公のお話。
ゲストアイドルである西園寺つばきちゃんを巧く使って、アイカツ世界に相応しいスーパーアイドルとして成長した大空あかりを見せる、ランドマーク的なお話になりました。
同時に、自尊心の高いポンコツアイドルが自分の身の丈に気づき、正しいスタートラインに付き直す爽やかなエピソードも展開し、お話としての食べごたえも十分。
『地味ながら夢に溢れ、涼しげで綺麗なお話』という、なんともアイカツらしいエピソードになりました。

今回のお話を支える軸は二つあって、一つはパーフェクト・レディ西園寺つばき。
高飛車でプライドが高く自分が見えていないという、あんまアイカツらしくないネガティブなキャラクター……と思わせておいて、トップアイドルとしてバリバリ仕事と鍛錬をこなすあかりを素直に認め、自分に足りないものを汗と涙の中で見つける自発的な姿は、非常にアイカツらしいキャラ。
瀬名さんを巡る恋の鞘当てが起こりそうで起きないところも含めて、フェイントが巧く働いた回だといえます。

パーフェクトパーフェクト言いつつも、セナさんとコンタクトするためにラッコのお面付けて三時間待ったり(しかも改札ではなくホーム)、あかりがサラッとこなす仕事量に息を切らせていたり、つばきちゃんは全く完璧ではない。
視聴者がツッコみつつ気付くその事実に、物語開始段階の彼女は気付いていないわけですが、持ち前の素直さとアイカツ特有の身体イジメ、そして気付けば大物アイドルになっていた大空あかりのオーラを通して、彼女は等身大の自分に帰ってくる。
駆けずり回って努力してきた彼女の象徴が手のひらの絆創膏であり、多忙(だけどあかりちゃんのステージは見に行く。見に行って声はかけない)な瀬名さんがしっかりそれに気付く賢さと優しさを持っていることで、西園寺つばきの物語は一つの終わり(そして始まり)にたどり着きます。
どんなお話にも起伏とテーマは必要だと思いますが、今回埋め込まれた『井の中の蛙大海を知る』というつばきの物語は、必要十分な盛り上がりと爽やかさ、鮮烈な演出を伴ってお話を支えていました。
凡夫の現状認識』という意味では第135話『世界の中心はここね!』、『プレミアムドレスを着こなす資格』という意味では各デザイナー回(特に第133話『ハローニューワールド』)に、それぞれ通じる物語だといえます。


凡人つばきが凡人であることを認め、そこから始めようとする物語。
それは今回スーパーアイドルとして彼女を引っ張った大空あかりが、これまで辿ってきた物語でもあります。
スペシャルアピールが出せなくて居残っていた夏から時は過ぎて、あかりちゃんは憧れの力を与えるようなアイドルになった。
かつて星宮いちごに憧れて長い坂を登ってきた少女が、自分が追いかけてきた星宮いちごと同じようなカリスマ、他人に影響を与え人生を変えてしまうようなアイドルに辿り着いたのだと思えば、感慨もひとしおです。

あかりジェネレーションの物語は、天才星宮いちごの世代とは明確に、お話のスケールとルールが変えられています。
明確な欠点と欠落を持つ凡人たちがどう自分らしさを見つけ出し、誠実であるということはどういうことなのかを問い直しながら、一歩ずつアイドルの階段を登っていく物語。
その地道な物語の結果『大空あかりはどこまで来たのか』を見せる上で、かつての大空あかりと同じように凡夫であるつばきを対比し、彼女の目から見たあかりがどれだけ輝いているのかを映像で見せた今回は、非常に素晴らしかった。
かつて第123.124話でSLQの実力と、それに追いつけないあかりを演出した"Blooming♡Blooming"がステージ曲として選ばれたのも、あかりが駆け上がった階段(その先には3月のSLQCがあるわけですが)の高さを際立たせる意図があったように思います。

高さだけが目立てばそこには断絶が生まれるわけですが、今回あかりは徹底的につばきに寄り添います。
『プレミアムドレスが欲しい!』という欲望だけを暴走させるつばきを否定することなく、努力と誠実さに立ち戻るよう自分の側に置いたり。
同年齢の女の子として、アイドルとしての格、仕事量の差を意識することなく自然と友人になったり。
目があった女の子全てを夢中にさせてきた人誑しの才能をいかんなく発揮し、つばきと同じ視線で歩くことで、つばき自身による気付きと変化を促していく。
それは星宮いちごとも、神崎美月とも、有栖川おとめとも違う『人を導くアイドル』の姿であり、アイドルの階段を駆け上がってもなお変わらない、というか経験と実績を積み上げてより鋭くなった『あかりちゃんらしさ』を視聴者にしっかり届ける演出になっていました。
時間が過ぎて変わったあかりちゃんと、じかんがすぎてもかわらないあかりちゃん。
愛すべき二人の大空あかりは、非常に良いバランスで彼女の中に同居しているのだという事実を、詩情と説得力たっぷりに見せてくれた今回のお話、素晴らしかったと思います。


三角関係の一点を担うと思いきや、その不在によってお話を回転させていた瀬名さん。
カプ厨としては『もっと瀬名あかしてくれても良いのよ……』って感じでしたが、あかりとつばきの『今』を活写するお話の軸を考えると、瀬名さんは出番が無いくらいでちょうど良かったのかもしれません。
思い切って女の子二人のガール・ミーツ・ガールに的を絞った結果話の切れ味が良くなったし、つばきちゃんが熱烈に瀬名さんを求める描写が濃かったので、不在ゆえの存在感があったしね。
最後ベストタイミングで出て来て、最高に周りを見たリアクションを返して、あかりちゃんと喋り始めると熱が入ってしまうのでドレス紹介に回す立ち回り。
女の子たちの物語で主役には成れなくても、名脇役としてお話をスマートに仕立てる彼は、やっぱり名デザイナーですね。
そういう意味では、ちょっとした出番で笑いと的確な助言をこなすジョニーも、今回良い動きだった。(教師・ジョニー別府大好きマン)

作画面で言うと、ツリ目とおデコ大好き高橋晃作監の好みが迸り、みんな可愛らしい回でした。
つばきちゃんが赤面しまくりマジ恋しまくりでしたが、『女が女に惚れ、少女はトップアイドルを目指す』というアイカツ共通モチーフの再演だからな、疚しくはない。
実際今回は湿度低めの爽やかな友情物語で、見ていて気持ちよかったですね……無自覚にコロコロ女の子を転がすあかりちゃんをみて、スミレちゃんがどう思ったかは別問題だけど。
ユウちゃん再登場以来、どんどん『美しき氷の花』から余裕が無くなっていく感じを勝手に受け取っていて、非常に面白いです……あの子自分が美少女であることに胡座かきすぎだからな、今ぐらいがええねん。
ストーキングするつばきの重圧を感じるシーンの妙にガンダムっぽい演出は、前回を引きづった形なのだろうか。

というわけで、凡人主人公・大空あかりが今どういうアイドルになっているのか、彼女に夢を与えられた少女を描くことで魅せるお話でした。
そろそろ落ち着きどころを見据えなければいけないあかりジェネレーションにとって、このように説得力がある形で現在位置を定位するエピソードがあるというのは、とてもありがたく、良いことだと思います。
そのようなシリーズ内部での機能的な評価だけではなく、つばきの成長物語として、アイカツ世界の夢と希望の在り方として、しっかりとした起伏とテーマ性、魅力を持ったお話だった。
俺、アイカツやっぱ好きだなぁ……。