イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第8話『寄り添うかたち』感想

愛情と怨念が少年を現世に縛り付けるアニメ、テイワズ編真ん中はたのしいハンマーヘッド訪問回。
オルガ親分の気合はいったブッコミで男を認めさせ、ビスケたんとの名コンビで交渉を乗り切った結果、木星ヤクザという大きな後ろ盾獲得に大きく前進した鉄華団。
雪之丞さん以来の『頼れる大人』、ハーレム王名瀬さんが聞き役になることでオルガの腹の底が見えたり、思いの外自己評価が低い三日月が見えたり、やっぱりオルフェンズの非戦闘回は面白いなぁ。

前回前線組が気合を入れたので、今回は交渉組が頑張る回。
あくまでロジカルにリスク少ない選択肢を提案するビスケと、三日月の視線と死人の声に後押しされ、自分と仲間の命をでっかくベットするオルガの対比が面白かったです。
ビスケは切れるんだけど押し出しが足らないというか、遠い理想に向かって無茶苦茶でも飛び込む熱量が無いので、名瀬さんという歴戦の指揮官を動かすのには足らないってのは、良い描写だった。
無論オルガの無鉄砲で走り続けたら確実に事故るので、名参謀ビスケのブレーキは大事ってのもちゃんと描写されてて、各員の仕事がある組織ものは見ていて気持ちが良い。

アバン前の突入シーンも好きで、今まで目立たなかったダンテが電子戦で目立ったり、オルガの器を感じたのか何故があえて懐に入れている感じがあったり、面白いコンタクトだった。
あそこでテイワズの顔を直接見ることで、殺し合いではなく話し合いで相対するべき『人間』として見る準備が整っているのは、なかなか面白い。
前線組は殺し合いの中で相手の人格を認めてしまうぶっ壊れなので、そことの対比も含めてね。

今回かなりの時間を割いて交渉事を描いてきたわけだけど、自分の利益と相手の利益をすりあわせ、行動理念を納得させながら望むところにたどり着こうとするこの行動は、勢い任せで進んできた鉄華団とオルガが『大人』の仲間入りをする話だといえる。
大量の嫁さんと子供を抱え込み学校に通わせる甲斐性オバケ、『頼れる大人』たる名瀬さんが交渉相手なのも、オルガがリーダー足りえるか試す試金石としてはベストの人選だろう。
そういう意味では、子供に殺しを押し付けネズミ芸人扱いしてきた社長が描写されるのも、対比物としてよく計算されたシーンなのだな。

虐げられてきた時間が長い分、オルガは筋の通らない世の中への怒り、自分たちが認められる立場への欲求、生死を共にしてきた仲間への思いが強い。
テイワズの下につくという理にかなった選択を蹴ったのも、その強い思いがあるから。
それがとにかく綺麗な理想としてではなく、三日月へのコンプレックスだとか、自分をゴミ扱いした社会への怒りだとか、ドロドロしたもの込みで描写されているのは、お話が上滑りしなくて良い所だと思う。


そういうオルガの底を曝け出させ、問題点を指摘しつつ成長を促してた名瀬さんは、あまりにも良い大人過ぎて死にそうオーラがハンパなかった。
彼は文字通り一家を背負って宇宙を駆けまわり、鉄火場でドンパチやり続けるやり手なわけで、そうそう簡単に鉄華団を認めない手強い障害です。
強度のある壁だからこそオルガは自分をさらけ出し、剥き出しの全力を叩きつけて交渉を突破しなければいけない。
そうしてむき出しになった青臭さや危うさ引っくるめて、腹を割った話し合いの中で可能性を感じたからこそ、矛を引っ込めて親父に話しを通す無理筋を受ける流れはかなり自然で、感情の起伏に無理がなかった。
譲歩する足がかりとしてオルガとの共通点、『筋』と『家族』というキー・ポイントを外さず描写していたのも、感情の流れを把握しやすくなる大事な勘所ですね。

鉄華団を無条件に甘やかすのでもなく、不条理に立ちふさがるでもない交流可能な他者として、名瀬さんは非常に良いキャラです。
自分をしっかり持って、筋と世界と嫁さんとガキをしっかり抱え込みつつ、オルガの器をしっかり見極めて対話に応じてくる名瀬さんは、危ういリーダーを成長させるのに必要な栄養を全部与えてくれており、ほんと頼りになるね。
やっぱり師匠キャラとして『かつての主人公であり、これから通る道を過ぎた一つの可能性の結末』という立場は、最高に安定しているなぁ……。

一見荒唐無稽に思える『ハーレム宇宙軍』という設定も、託児所の風景を描写することでシリアスでヘヴィな人生の一部だとわかるし、『家族』という共通点で鉄華団と心を通わせる足場にもなる。
『オイオイ、ギャルゲーかよ』というツッコミを受けるほど軽い、つまり飲み込みやすくてウケが良い設定に生活感を出し、人生の舞台としての輝きを与えているからこそ、今回の話は成り立っています。
名瀬さんがハーレムラブコメの主人公のように誰彼ドギマギするのではなく、お嫁さんたち以外には性的アプローチを掛けない『わかってる大人』なのも、ライトな設定を軽薄さから遠ざけているポイントなんでしょうね。


お嫁さんたちはガチムチボーイズと仲良くなってましたが、執拗に自己評価低いところを魅せつけるミカが、怖いやら可哀想やら。
夢自体は農場という長閑なものなのに、能力を発揮し認められる舞台が殺し合いだけだったので、そういう回路が頭にできちゃってる感じがあります。
オルガが妄想の中のミカに追い立てられているように、ミカも殺しの道具としてしか自分を認めないオルガを頭のなかで造ってしまっていて、それは幸福な共依存なのかもしれないけど、絶対に破綻する。
俺のビスケたんが毎回胃を痛めているのも、身を寄せあっているように見えて離れている心の距離ゆえなのでしょう。
そこら辺、ラストカットの近いんだけど遠い間合いで巧く表現されてたな。

匂わされている男たちの危うさに、クーデリアとアトラがどう切り込んでいけるのかってのが、鉄血のヒロイン描写で一番気になっているところです。
お嬢はドブ板二人組が知らない理想の輝きを、アトラは戦場の血と埃を拭う日常の暖かさを、それぞれ与える立場なのかねぇ。
お嬢の革命運動は火星という大きな社会、鉄華団という小さな社会だけではなく、ミカとオルガという危うい魂をも救える、唯一の希望でもあるのだろうな。
あとほっとくと自動的にオス臭くなる鉄華団のサービス要員として毎回可愛いね、そこ大事ね。

オルガと彼を率いる鉄華団が、敵でも味方でもないシビアな社会、それを代表する名瀬さんと対峙するお話でした。
ガンダムやら少年兵やらスパイシーな題材を扱ってはいますが、オルフェンズの背骨はかなりしっかりしたジュブナイルであり、危うい少年たちが困難や優しさに出会いながら人生を進んでいくことが軸にあるのだと、今更ながら再確認。
ハーレム戦艦とかガチムチ少年団とかオッパイ革命家とか、殴りあいメカバトルとか発掘へ行きガンダムとか。
ウケの良い派手な要素を必ず入れて視聴者を楽しませつつ、ドッシリとした魂の比べ合いを経て変化していく個人と集団のドラマを、真正面からやる。
オルフェンズの強さがどどんと前に出たような、面白いエピソーだったと思います。