イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

コンクリート・レボルティオ ~超人幻想~:第8話『天弓ナイトをだれもしらない』感想

正義は正義の味方に味方しないアニメ、八回目はどこの誰だか知らないけれど誰もがみんな知っている男のお話。
死せる英雄に憧れた男たちの空回りを描くことで、不在の天弓ナイトの謎を整理していくお話でした。
爾郎のアイデンティティを考えると、おそらく天弓ナイトの死の真相を知った時が超人課と袂を分かつ時なので、そのグラウンド・ゼロへの前振りといったところでしょうか。

今回のお話は幸せだった時代の微睡みといいますか、結構長閑に進みます。
後に鋼鉄のテロリストと化す柴刑事はミーハーなところを見せつつ、爾郎と楽しくいがみ合っている。
腹黒妖怪笑美も女の怖さをむき出しにすることなく、酢昆布舐めて顔を白黒させている。
尋常ではない天弓マニアっぷりを見せる爾郎といい、今回のみんなはどこか穏やかで、優しい顔をしています。

正義と悪、白と黒の矛盾もそこまで突き詰められるわけではなく、露骨なマッチポンプでとりあえずアクションして、灰色の結末を弓彦少年に与えて終わる。
『過去編』だけ見れば、今回のお話は死人が出ない(ビートルズドリフターズの話ですら死人出たのに!)優しいお話です。
これまで矛盾だらけで決別するべき失敗の時代として描かれていた『過去編』ですが、そこにもちゃんと温もりや思い出はある大事なものなのだということを、思い出させるような。

今回のゲスト超人である音無弓彦=大鉄くんも、子供らしい無垢さで超人課の支配から逃れ、白黒はっきりした世界観を信奉する、愚かで正しい少年として描かれています。
天弓ナイトに命を救われたこと、その死を間近で見ておきながら真相に迫れないこと、正義と悪について強い興味を持っていること。
爾郎と大鉄には共通する部分が多く、主人公とシャドウ、もしくは天弓ナイトを親に持つ兄弟といったような、親しい繋がりを持ったキャラクターといえます。

そんな二人がわざわざエクウスの車内という密室に入って、白と黒、正義と悪について語るシーン。
お話的にはここが核になる部分で、大鉄よりも少し先に行っている爾郎が、偽物の英雄の仮面をかぶりながら、善悪あきらかならざる世界の真相を優しく諭す。
かつて自分がそう信じたように、世界には正義と悪があって、何もかも真っ二つに割り切れるという幼い信頼をけして否定せず、自分の考えを穏やかに伝える爾郎の姿は、一話でみせた苛烈な正義とはかけ離れています。

頑なに『正義』それ自体であることを否定し、あくまで『正義の味方』であることに拘った天弓ナイトの、柔らかな姿勢。
超人課の『正義』に捕らわれているように見えて、歳相応に成長(もしくは挫折、妥協)している爾郎にとって、天弓ナイトはその名前にふさわしく、虹のようなあやふやな希望そのものであり、『正義の味方』として生きていくための指針そのものなのでしょう。
誘拐犯であり自分を守ってくれた『優しいおじさん』でもある天弓ナイトを、憎みつつ愛する大鉄にとっても、それは同じこと。
自分と同じ英雄への憧れを感じ取ったからこそ、爾郎は優しいお芝居で事件をまとめ上げるべく、子供時代のあこがれを身に包んだわけです。
しかしあのピッチリしたスーツ、数年前のものが入るとは思えないので、爾郎の天弓ナイト好き過ぎ病はバリッバリ現役であり、つい最近仕立て直したんじゃないか疑惑が消えないね。


とまぁ、ここまでは比較的『白』に近いお話です。
断片的に語られる『未来編』において、爾郎はクズに、大鉄は超人課の駒に、それぞれ落ちぶれています。
天弓ナイトの死の真相に踏み事無く、『優しいお芝居』といえば聞こえは良いですが、生ぬるい解決策でお茶を濁した結果、爾郎が大鉄に届けたかった『正義の味方』の矜持は霧散してしまった。
そんな中途半端で適当な感傷を、この作品世界は許してくれないということなのでしょう。

まるで髑髏の原のように、対峙する二人を埋め尽くす謎のヘルメット。
天弓ナイト(とルシファーの眼)のヘルメットを回収するべく、かなりの大芝居を打ったこと、作中最高に黒い人吉博士が『天弓ナイトの能力は、研究に値する』と言っていることを考えると、どうにもきな臭いアイテムです。
『過去編』に爾郎がしたように、かつての英雄の仮面を被った大鉄もまた、己の『正義』に凝り固まった頑なさが透けて見える。
英雄の到着を待ちわびる少年の顔を見せた柴警部が、鋼鉄探偵ライトになってしまったように。
天弓ナイトと人吉爾郎という二人の英雄に希望を繋がれた大鉄少年もまた、『正義の味方』からはかけ離れた『正義』になってしまう切断面が、『過去編』と『未来編』の間にはあるということです。

今回漂っていた優しく穏やかな空気が鮮烈であればあるほど、それが失われた『未来編』が苛烈であればあるほど、二つの時代を隔てる結節点がどんなものであったのかは、視聴者の興味を引く。
今回のお話は天弓ナイトの話のようでいて、実は彼に影響され『正義の味方』を目指した男たちの、幼く美しい夢のお話です。
爾郎が『正義の味方』であろうとする気持ちに、どれだけ強く天弓ナイトが関わっているのか。
今回説得力のある形で描かれていればこそ、その真相が伏せられたままだという事実は僕らの興味を引きます。
『過去編』と『未来編』を繋ぐ結節点と、天弓ナイトの死の真相。
この作品が常に仄めかしつつ突入することはない二枚の伏せ札が明らかになる時、お話は一気に決定的な地点に駆け出していくという予感(もしかすると核心)を、強く受けるエピソードでした。


今回の話はキャラの可愛げが良く出た話で、『やっぱ俺、こいつらの事好きだなぁ、いつも殺伐腹黒ばっかだけどさぁ』という気持ちになれる、良いエピソードでした。
『正義』と『悪』と『正義の味方』という重たくシリアスなテーマを背負うからこそ、その緊張から開放された普段着の彼らの姿は、ほっと息をつかせて僕を惹きつける。
天弓マニア同士心が通じあったんだから、爾郎と大鉄も仲良く過ごせれば良いなぁと思いつつ、アバンで予告されていた破綻に予定通り辿り着くエピローグは、納得しつつも寂しい結論でした。
このアニメのキャラみんな可愛いから、幸せに平和に、穏やかに過ごせれば何よりなんだけど……そういうアニメじゃねぇよなぁ。

あ、前回のエピローグでぶっ壊されてたアースちゃんが、元気な姿を見せてくれたのは良かったです。
真っ直ぐな人柄に竹達さんの演技も相まって、アースちゃんは一等好きなキャラクターであり、復活してくれてよかった。
柴警部にしてもそうなんですが、メインは一回しか張ってないキャラクターの去来がちゃんと気になる、どうでも良いキャラクターがあまりいないというのは、『時系列を切り貼りした短編連作』というこのアニメの形体からしても、強いところだと思います。
単純に、俺がこのアニメ前のめりに好きになってるってだけかもしれませんが。

というわけで、捏造された謎を解きつつも、本当に大事な真実には辿りつけないお話でした。
このアニメの『過去編』自体がそういう構造を持っているわけで、天弓ナイトがお話しの中心にいればこそ、彼(と彼に影響された少年たち)のエピソードも、同じ形になったんじゃないかなぁ。
この妄想が正しいか否かは今後を見なければいけませんが、伏せたカードの在処を示す出題編としても、少し肩の力が抜けたキャラクターの姿を見せる息抜きとしても、とても好きになれるお話でした。
来週は辻真先先生を脚本に迎えてのサザエ回らしいですが、さてはてどうなることやら。
非常に楽しみですね。