イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第9話『盃』感想

ガンダムヤクザは宇宙のYAKUZAである(ナレーション:矢島正明)、そんな感じのオルフェンズ第9話。
今週もメレーアクションはありませんが、太歳ではしゃぐ鉄華団ボーイズの可愛らしい姿、一つの決断を果たしたクーデリア、オルガ以外を視野に入れだした三日月、頼れる兄貴分を手に入れたオルガと、見所満載。
脇キャラまで気合を入れて描写を積んでくれるので、アクションシーンがなくても起伏があり、アクションもドラマに組み込めているってのは本当に素晴らしい。

『Gの如く』『どう見ても極妻』『沖縄の成人式』などなど言われたい放題のスペースヤクザですが、見た目の面白さやフックの強さに加え、シンプルな軸の強さがある気がします。
大人に搾取され続ける最下層民として生き続けたガキが、宇宙ヤクザという組織に認められ、しかもその繋がりは利害ではなく信念と家族であるという、ガッチリとしたまとめ方。
ガキを踏みにじり植民地の生き血をすする、道理の通らない世の中でどう生きるかという話が、世の中のルールよりも仁義の徳目を重視する任侠という組織に落ち着いていくのは、ある意味納得できるというか。
オルガの理想主義が気持ちよく描かれ、鉄華団を見つめる社会の目がどれだけ冷たいものであるかを描写し続けてきたからこそ、『兄弟盃』という理屈なしの関係が今回結ばれたのは、なんか報われた感じがあって凄く良い。
35年以上続いてきたガンダムシリーズの中で、意外にもそんなに使われていないモチーフなのも新鮮だし。

今回盃事を済ますことで、オルガと名瀬だけではなく、鉄華団とタービンズも血の混じった家族になりました。
二週間前はバッチンバッチン殺し合いしてた輩が、ともに飯を食い服を着つけて貰う、気のおけない間柄になる。
もともと殺し合いを過剰にシリアスに受け止めない環境にいる集団なわけですが、それを考慮しても今回描写された家族的なつながりの描写は、寄る辺ないガキどもに家ができた感じが良く出ていて、とても嬉しかったです。
特にアルカの姉御の母力は尋常ではなく、アトラに女としてのアドバイスを送り、ビスケの帯を締める面倒見の良さは好感度急上昇でした。
圧倒的にオス臭い鉄華団と女の園であるタービンズが交じると、恋の花が咲きそうなところなんですが、そうすると家族描写より恋人描写のほうが前に出てくる。
なので、タービンズ全員を名瀬さんのお手つきにして、姉御分との恋愛を禁止する流れを自然に作っているのは、見えにくいけど巧い処理だなぁとか思いました。

もちろんネタ方面のサービスも全開で、ていうか絵面的に面白いシーンが多すぎて困っちゃうくらいなんですが。
どう考えても間違ってる漢字の伝来とか、パイロットスーツに羽織という嫌なフェティシズムが花開きそうな組み合わせとか、大真面目にバカをやると面白いぁなほんと。
あと二チゴでお出し出来るギリギリの童貞喪失描写な……あれすげー下世話なんだけど、オッパイも揉めずに死んでいったガキどもを悼む描写が過去にあるおかげで、『死人の仇討として童貞捨てた』という美談に取れるようになってて、下世話×下世話=純情という不思議なケミストリーになってたな。
そういう流れの中でも『我』の一字を取り上げることで、『自分』を他人に預けがちな主役二人に考える切っ掛けを与える名瀬さんのトス上げの上手さは凄いやね。


今回はオフ回でもあるので、いろんなキャラのいろんな側面がまた見れました。
砂糖や肉もまともに食えなかった火星のガキたちが、思う存分クリームまみれの菓子や酒、女に溺れる描写は、彼等が這い上がった階段の高さを肌で教えてくれて、良い描写だった。
『ガキどもをあやすために、自分も食べたい菓子をとっておく』というシーンはただのホッコリ描写ではなく、明日も知れない鉄砲玉が明日のこと、自分より弱い他人のことを考えられるようになったという意味合いを持っていて、やっぱりこのアニメは希望のアニメなんだなと思った。

ずっと気合を入れ続けてきたオルガは、名瀬という圧倒的に頼れる兄貴をようやく手に入れて、ゆるゆる萌えムーブを連発していた。
ハードな状況で生き延びるためには虚勢を張り続けなければいけなかったし、このアニメはオルガの震えもちゃんと描いてくれたわけで、今回ゲロゲロ吐きまくるオルガの姿を見て僕はすごく安心しました。
火星時代はまともな休暇も与えれなかったので、ハメの外し方すら分からないという描写が哀しすぎる……これから良いこと、沢山有ると良いな!(今回描写された幸せが足元から崩される予感に震えつつ)

クーデリアは三日月に後押しされて、誰の影に寄り添うのか決断していました。
第1回では三日月の汚れた手を取らなかったお嬢が、「自分の手は既に汚れています」とバリストン親分の話すシーンは、彼女の覚悟を感じられてよかった。
その癖、フミたんにアクセサリー買ってくる心配りは消えてないんだから、魅力的なキャラよねお嬢は。
フミたん、着実に離反フラグを積み上げているのが、お嬢や鉄華団にどんどん馴染んでいるだけに痛いね。

悩めるお嬢に的確なアシストを入れたミカは、どんどん『自分』を手に入れているように思う。
オルガが個人的なコネクションを持っていない親分に気に入られたり、結果的に組織のトップをすり抜ける形で話をまとめたり、オルガとミカの距離は最高に近いんだけど、ラストシーンの目線のように何処かすれ違っているわけだ。
これが話数を経るごとに第一印象の奥にある部分、キャラの地金が見えてきた結果なのか、変化する環境に影響されて変わった部分なのかは、判別しきれないけどね。
どちらにしても、『オルガの忠実な狂犬』という第一印象からどんどん変化しているミカは、見てて面白いキャラですねやっぱ。
言うたらこのアニメ、大体のキャラクターがどんどん変化するんで面白いですけどね。


そしてスペースヤクザとは無関係に、ギャラルホルン組は煮こまれていった。
櫻井声ブランドの分にもれずキモチワルーいチョコの人・ザ・ペドフィリア、復讐鬼フラグを立てまくるアインくん、気のおけないオーラを出しつつも親友とも部下ともすれ違ってる青い人。
鉄華団がどんどん温かみを高めていく一方、ギャラルホルン組はガンガン冷え込んでいっているのが、面白い対比だと思います。
これでマクギリス三佐がガチ善人で、九歳児にも含むところのない紳士で、青い人のことも親友だと思ってたら土下座するしか無いんだが、あの人の描写全般的に胡散臭いねん……。
太歳という止まり木を飛び立ったイザリビとはまた邂逅するでしょうから、今回貯めこんだ描写がどう生きるかは今後の楽しみですね。

というわけで、スペースヤクザの面白い生態を捉えつつ、色んな人々の肖像画を切り取っていくエピソードでした。
鉄華団に家族が出来、帰るべき家が出来たことは本当に喜ばしいのですが、このアニメシビアでハードなアニメなので、今回見せた暖かい側面がいつ壊れ奪われるのか、心配にもなります。
オルガがぶっ立てた『俺たち全員が鉄華団のことを考え、決めていく』という理想が、これから彼等を待つであろう人生の荒波にどう揉まれ、どう砕けていくのか。
それを見守らなければならない、見守りたいという気持ちにさせられる話だったと思います。
そういう気持ちになれるのは、戦闘の気持ち良さを大事にしつつも、『どん底少年団の人生リベンジ』という泥臭い軸を一本ぶっ立て、そこに巻き取られるようにキャラ描写を積み上げている構成のおかげだよなぁ。
やっぱ面白いし好きだわ、このアニメ。