イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆるゆり さん☆ハイ:第9話『それは、小さな愛と、少しの勇気の物語。』感想

乙女街道まっしぐらな中学生日記、九話目は池田屋事変。
笑顔が下手くそな女の子に友達ができる話と、幼女はじめてのおつかいと、綾乃と千歳のお泊り会の三本立てでした。
15分という(このアニメにしては)長尺を割り振ったり、前回のエピソードを引き継いでいたり、あんま出番のなかった千鶴に専用シフトを引いたお話でした。

基本的にゆるゆり世界は善意で出来ていて、京子のウザい立ち回りは常に功を制し、友情は深まっていく。
そういうルールに染まらない唯一のキャラが千鶴だったわけですが、フォローがないと『ただのイヤなやつ』になってしまう立ち位置なのも事実。
今回時間を使い、普段は無視されているエピソード間の連続性を持ちだしてまで千鶴の話を太らせたのは、ゆりゆり世界のルールから外れた彼女を、特別に扱う必要があるからでしょう。

今回展開されたのは非常にストレートな友情の話で、『まるで百合姫に載ってるゆるい百合漫画みたいだぁ……』という感想を抱くくらい、綺麗でまとまったお話でした。(ゆるゆりは『百合姫に載ってるゆるい百合漫画』そのもののはずなんですが、ジャンルとか冊数とか色んな意味でオーソドックスを離れている気がする)
頑なだった女の子が意外な出会いをきっかけに、自分を少し変えてみて、結果世界は少し優しくなる。
中学生に相応しい成長の物語に、憧れと潔さと少しの恋慕を添えた味付けは、これまでのゆるゆり三期にはなかったテイストであり、見ていて面白かったです。

同時にこの話をやってしまうと、京子に『現実』を突きつける『イヤなやつ』という、千鶴の従来の仕事はできなくなる。
今回の話は成長の物語なので、他人の好意に笑顔を返さないままの千鶴を続けることは、二人の女の子の好意を踏みにじることだからです。
いかにゆるゆりの時間が停滞しループしているからとはいえ、そこを逆戻しにしてしまうと色々台無しになる。

だから今後の千鶴(の出番があるとして)は今回の成長を踏まえ、『ただのイヤなやつ』という装置から一歩踏み出した描き方をしなければいけないわけですが、三期の演出方針を見ているとそこまで踏まえて今回の話かな、という感じも受けます。
『これまで使ってこなかったリソースに注目し、掘り下げていく』というのは三期の基本戦術だと思いますが、それは同時に背景だったり装置だったりしたキャラクターに物語を与え、キャラクターとしての肉付けを増やしていく作業。
それは作品世界のスペースを消費する行動であると同時に、未発掘だった要素を掘り下げ、意外な喜びを与えてくれる活動でもあります。
今回千鶴が見せた意外な成長、それを実現するための変則的な語り口は、『二期までに燃料をかなり消費したゆるゆりという作品を、どうリブートするのか』という三期の主題(だと僕が勝手に思っているもの)に製作者たちが丁寧に立ち向かっている証明のように思ったわけです。


Bパートはコメディ色強めに、妖精たちのお使いを見守る不審者軍団のお話。
前回楓が出て来た時も思ったのですが、4年前は名前も知らなかった声優さんが、今は一線で大活躍されてる姿を見ると、時間の流れを感じます。
ごらく部メンバーにしてもサブキャラにしても、ゆるゆり参加声優は打率高いなぁ。

何の前触れもなくコケるとか、興味の繋がり方がワープとしか言いようのない動きするとか、かなり子供をよく見た動画でした。
千鶴のトイレシーンにしても本気度の高い描写が今回多く、『ペド野郎は犯罪者か芸術家になるしかない』という格言を思い出します。
さくひまの様子を見るだに、楓見守り隊の結成は姉ではなく他人の櫻子が言い出したっぽいところとか、アホの中に真心があって好き。

3つめは池田姉妹と綾乃軸のお話で、千歳が百合に目覚めたオリジン話でもあった。
親友の性傾向を親友であるがゆえに許容する千歳は相変わらず菩薩のようだが、それが博愛ゆえに生まれているのか、現在の関係を維持したまま変わってしまった綾野の側にいるためのズルなのか、答えは見えない。
その両方でもある不安定さと、生臭い狡さを孕みつつも根本的に善人であるところが、僕が千歳を一等好きな理由なのだろう。
ゆるゆりの時間が静止し続ける限り、千歳の知世ちゃんポジションは動かないわけだけども、親友の恋を尊重しようというその気持はやっぱり良いものだと思う。

というわけで、今週もオムニバス風味に色々あったゆるゆりでした。
ジャンルを越境するバラエティの豊かさってのは、ゆるゆりの大きな魅力の一つだと思うで、毎回(もしくは回の内部でも)別の側面をクローズアップし、色んなライティングで見せる三期の切り口は、見ていて面白いです。
一期二期でも色々やってたんですが、全体的な空気が落ち着いた分、お話ごとのジャンルが見えやすくなったというか。
千歳エピのどっしり腰を落とした語り口も、その一環だと思います。
『これまでと同じゆるゆりを、これまでと違う味付けで』という三期の劇作姿勢を、強く感じる話でした。