イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第10話『明日からの手紙』感想

寄る辺なき孤独な魂達が明日を求めて流離うアニメ、盃事の後は家族と過去のお話。
サブキャラクターたちの周囲がすごい勢いで掘削され、背負っているものが色々分かって嬉しいと同時に、濃厚に漂う死亡フラグに怯える展開。
『隠していた過去』+『打ち明け話』+『お荷物の新人』+『現在の希望』でデス役満にリーチを掛けた昭弘でしたが、我らがミカが新武装・スペースドスブレードを引っさげてフラグをへし折ってくれました。
いやー、心臓に悪い。

今回は寄る辺ない鉄華団たちの事情を説明する回でして、家族がいるものは火星においてきた希望を、いないものは鉄華団という家族を、それぞれ縁にしているのがよく分かりました。
回想される過去回想される過去、全てがマジで碌でもなくて、火星植民地の生活レベルが肌でわかる。
『妹を学校に行かす』という願いのために命を切った張ったしなきゃいけない辺り、僕らが生きている世界との断絶を思い知らされると同時に、そんな場所でも希望の小さな花はあるという共感も覚えます。
非常に厳しい世界が子どもたちを取り巻いているんだけど、絶望に安易に飲み込まれず、あくまで希望の物語としてお話を続けているのが、とても好きです。

昭弘やアトラのように死別にしても、クーデリアのように親に売られたにしても、『明日からの手紙』を受け取るべき相手のいない孤児たちにとって、鉄華団という家族は尊厳を持って生き延びるための縁です。
恋敵という関係を乗り越えてアトラがクーデリアに連帯を示すのも、孤児という立場への共感であり、文字通り運命共同体として戦場を伴にしている絆があってこそなのでしょう。
過去にミカヅキに生きる意味を与えられた象徴が『飯を食う』ことなのは、体温のある表現でとても好きです。
アトラが厨房を自分の戦場にしていることと合わせて考えると、食事が持っている意味合いが強く、効果的なアニメだなぁと思います。
それにしたってナチュラルに一夫多妻制に飛び越える辺り、タービンズのライフスタイルがよほど衝撃的だったのか、はたまた天性のスケベなのか。
アトラは面白いなぁ。

火星に残した家族を人生の糧として頑張る少年たちに比べ、クーデリアと両親の気持ちは生きているのに離れてしまいました。
飯を食い家族を養う以上のことを成し遂げようとしているお嬢にとって、ただ生きてさえいれば御の字というには、両親との間柄は複雑過ぎるこじれ方をしてしまっているのでしょうか。
だからこそずっと側にいてくれるフミタンへ家族に似た信頼を寄せていることがメールのシーンで判るわけですが、お嬢の「ありがとう」に複雑な表情をするフミたんを見ると、こっちも複雑な顔になる。
ここまで丁寧にフラグを積むのは、やっぱひっくり返しの準備だよなぁどう考えても。

家族なき家族のためにお頭気取らないといけないオルガは、群れに混じった新しい女に警戒心をバリバリ立ててました。
既にキンタマの裏っかわまで覗かれたような間柄ではあるんですが、まぁ立場的にも生き方的にも粋がってツンツンしないといけないよね、オルガとしては。
見た目の印象と正反対に二人の関係はステープルトンさんが余裕を持ってコントロールしている側で、名瀬の兄さんに続いてオルガが年相応な弱さを預けられる『大人』なのだと、握手のシーンだけで判るのが良い。
最近童貞力の高さをアピールしているオルガを見るだに初恋の相手という可能性もあるので、ステープルトンさんをどう扱いかは気になるところです。
露骨な身長差の強調が今後のデレを確信させ楽しみなんですが、今回見せた確執を乗り越えステープルトンさんを家族と認めた瞬間、それを奪いに来る展開が怖いぜ……。


死亡フラグといえば怒涛の勢いで多重掘削を成し遂げ、昭弘にまで感染させたタカキの掘り下げ方は面白かったです。
基本的には"ロミオの青い空"型のジュブナイルなんですが、何分舞台が戦場なので家族の話や将来の希望の話、前向きなハリキリなんかは死神の餌です。
あまりにも張り切りすぎた結果昭弘にまで過去話をさせた時には『あ、リーチ棒出たわ』という感じでした。

昭弘の過去も他の面々に劣らず悲惨なものでしたが、海賊の話をした瞬間海賊がやってくる回収の速さに、強いストーリー進行への寄与を感じる。
どう考えても海賊に弟がいるか、最悪敵のMSに乗っかってるまである積み上げ方ですけども、超かっちょいいバルバドスの新装備お披露目もあるし、そうそう悪いことにはならないんじゃないかなぁ……ならないで欲しい。
バルバドスという超兵器を引っさげキチガイ三連阿頼耶識ブイブイいわすミカに対し、昭弘は凡人故に色々足掻いて喰らいついていく地道な、それ故魅力的なキャラ。
泥臭い戦い故に死に近いキャラクターをちゃんと魅力的に見せて、ピンチごとに『死ぬな! 死ぬな昭弘!!』と緊張感を与えるよう運用しているのは、本当に上手いなぁ。

そしてアバントED入りという最低限の出番で、最大限の見せ場を作ったミカ。
今回の銘刀フラグ断ち一閃は、シチュエーションとしては第1話と同じなのですが、キャラへの愛着が深まったタイミングのピンチなのでまた別格の感慨があります。
これで少なくとも直近での死亡は回避されたと思うのですが、スタッフが安易な略奪を蹴ったということは最高のタイミングを見計らうプレデターの嗅覚を感じさせ、戦慄がさらに深まります。
『いつ死ぬかわからないサスペンスを機能させるためには、いつ死んでもいいとは視聴者に思わせないよう、キャラクターを好きにさせること』という鉄則を維持していて、憎たらしいくらいに上手いし良いね、このアニメ。

というわけで、少年たちの希望とそれを奪う残酷な世界を、同時に描写するお話でした。
『家族』という作品のキーワードをもう一度確認し、キャラクターたちがどういう繋がりを持っているのか、そしてどういう繋がりを育んでいくかを見せる、良い掘り下げだったと思います。
露骨に意味ありげに公開された昭弘の過去が、どう生きてくるのか。
バルバドス・高機動ヤクザモードは、どういう活躍をするのか。
誰か死ぬのか、死なないのか。
来週も非常に楽しみです。