イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Go! プリンセスプリキュア:第44回『湧き上がる想い! みなみの本当のキモチ』感想

美しく残忍な季節の残照を追いかけてきたこのアニメも終盤、スーパー生徒会長みなみパイセンのラスト個別回前編であります。
既に夢を持っている女の子は、新しい夢とどう向かい合えば良いのか。
ただ夢を持つだけではない、踏み込んだ展開が魅力のプリプリらしく、きららやはるかとはまた違った側面から切り込んでいく回でした。
前回大きな成長を果たしたきららを壁役に使いつつ、座間先生というまさかのメンターを掘り下げたり、細かい話運びも技ありでしたね。

主人公はるかは何も出来ないところから話を始めるので、彼女の手を引き導く指導者が必要になります。
海藤みなみ先輩は時に厳しく時に優しくはるかを導く、とても立派なメンターでした。
知性と判断力に優れ、自分の理想を押し付けるのではなくまず実践し、周囲を思いやる視野の広さも兼ね備えた完璧さは、登場話である第2話で足をくじいたはるかを手当した時、既に見えていました。

ともすれば完璧になりすぎてしまうくらい優秀な彼女ですが、お化けが怖いというちょっとした可愛げ以外にも、しっかりとした欠点を描写されてきました。
それは『正しさ』を押し付ける独善……ではなく、むしろ過剰に『優しい』が故に周囲の期待を全て飲み込んでしまい、自分の気持を抑えがちになってしまう部分です。
後輩を導く先輩、生徒の規範になる生徒会長、海藤グループとして家に奉仕する出来た娘。
『自分がなにをするべきか』判断できる知性と、『自分がなにをしたほうが良いのか』考えられる共感性は(中学二年生とはとても思えないほど)良く出来たみなみさんの長所なのですが、『自分がなにをしたいのか』と考えたこともないほどに自分を抑えてしまうのは、短所といえば短所です。

無論『みんなの幸せが私の幸せ』という博愛は非常に立派ですが、みなみさん自身の願いが周囲の期待とは少し違ったところにあるというのは、これまでの個別回で丁寧に積み上げてきたところです。
第16話で見せたティナとの触れ合い、第36話での北風さんとの邂逅と、海藤グループとは関係のない出会いがあればこそ、今回言葉になった『獣医』という夢は育まれてきた。
幼い夢をカナタによって補強されたはるかや、母への憧れをまっすぐに形にしてきたきららの物語に比べると、みなみの物語は作中で夢に出会い、言葉にするまでの過程だといえます。
外部からの期待を卓越した知性と共感性で読み取ってしまったが故に、他の人が望む(とみなみが受け取った)事が即ち自分の望みなのだと考えていた少女が、あえて他者への『優しさ』よりも自分の中の『正しさ』を優先するまで、必要な出会いの物語。
今回のエピソードは、そんなお話の鎖の最終端に位置する話です。


今回みなみを一番に支え道を見せているのが、主役のはるかではなくきららなのはとても面白いとこです。
一つには前回・前々回で大きな試練を乗り越え、より優れた人格へと成長したきららの器を見せる意味が、今回自発的に相談役を勝って出た姿勢にはあるでしょう。
あまり他人に興味を持たない傾向にあったきららが、自分の問題を一段落させて出来た余裕を、みなみの悩みに振り分け一緒に背負おうという姿勢は、きららちゃんらしくないが故に、前回のお話を乗り越えたきららちゃんの大きさを説得力たっぷりに見せてくれました。
慣れない行動なのであまりスマートには出来ないところが、キャラをしっかりと把握していて素晴らしいと思います。

もう一つは、自分の中の衝動に突き動かされ突き進むことに関して、きららほどのエキスパートは他にいないからです。
みなみさんが特質として知性と共感性、自分の薄さを持っているように、きららちゃんは溢れる情熱と強い自分、周囲への配慮の弱さが特質だということは、これまでのエピソードでも、そして前回の個別回でもクリアに見えたところです。
自分に足りない徳性を他の人に補ってもらうことの大事さ、別々の個性を持った仲間たちが支え合う意味に関しても、このアニメはずっと描いてきたわけで、今回きららが『何をするべきかではなく、何がしたいかが大事』というアドバイスを送るのは、物語的な理にかなっていると言えます。
自分を貫くことの輝きも陰りも両方知っているきららだからこそ、みなみにかけている自分への素直さを後押しし、不当に抑えられたエゴイズムを解放する立場に説得力が出るわけです。

みなみは持ち前の生真面目さ故に『夢を乗り換える』ことに罪悪感を覚えているわけですが、夢に一途な女の子が多いメインメンバーでは、そこを掬い切ることができません。
なので今回、座間先生をフューチャーして『夢を乗り換える』ことは悪いことではなく、とことん悩んで自分の納得の行く道を歩む大切さを語らせたのは、非常に的確な対応だったと思います。
ミス・シャムールにしてもそうなんですが、夢を導く側の夢を大事に描写し、子どもの手を引く大人の喜びを蔑ろにしていないことは、バランスも良いし魅力的な描き方だと思っています。
座間先生が見守りたい夢が全部、過去のエピソードで公開された生徒の夢だというのも、彼女が生徒個人を的確に見守っている描写に繋がっていて良かったですね。
ザマス口調のいかにもコミカルなカキワリキャラに、三分で血肉を与える辺り、本当演出って大事よね。


こうして『春野はるかの導き手』という初期の役割を飛び出し、周囲の期待を過剰に守ろうとする『優しさ』から一歩踏み出して、海藤みなみは『獣医』という自分の夢を言葉にしました。
それは『出来る子は出来ない子の面倒を見る。では、出来る子は誰が面倒を見るの?』という良い子のパラドックスにしっかり踏み込んだ、海藤みなみという個人を尊重した展開だったと思います。
お話の基本構造に必要な役割を割り振りつつ、人間なら必ず持っている柔らかな部分を丁寧に描いていわゆる『完璧超人』にしない話運びは、本当にプリプリの良いところだなぁ……。

そして同時に彼女の最初からの『夢』である『海藤グループを補佐する立場』もまた、彼女にとってとても大事なものなのだということも、しっかり積み上げられてきた描写です。
彼女が家族や家を大事に思ってきたこともまた嘘ではなく、その価値は自分を貫くことと同じくらい高いとも描写されてきた以上、今回目覚めた家から離れた夢とこれまでの夢を巧く折衝し、建設的な方向に導く必要が、この倫理的なお話にはあります。
それはおそらく最初から対立していないのでしょうけども、過剰な知性と共感性を持ったみなみ先輩には対立しているように見えてしまう。
自分の内側から溢れ出る、捨てたくても捨てられない本物の夢を手に入れたみなみ先輩が、外部から受け取ってきた夢に、これまでの海藤みなみの生き方にどういう決着を着けるのか。
非常に楽しみです。

まー海藤家話のわかる連中ばっかなんで、綺麗に収まりそうではあるけどね。
回想シーンに隙あらば入り込んでくる北風さんのおかげで、夢のカムアウトというよりは性傾向のカムアウトに見えてしまうのは狙ってるのか、天然なのか。
きららちゃんに手番を譲ったせいでやや薄めだったはるかとの絡みも含めて、そういう部分も来週楽しみです。
でもなー、あれだけ色々指導されてたはるはるが正座説教する側になるんだもんなぁ……そういう成長の見せ方もやっぱ最高に上手いなプリプリ。