イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スタミュ -高校星歌劇-:第11話感想

天に輝く五つ星が本物のスターに成長していくお話、ラス前は主人公星谷の反抗期。
これまで物語進行に協力的だった星谷をちょっとワガママにさせることで、チーム鳳の成長物語に足らなかった最後のピースをハメるお話でした。
受けてもらう側だった四人が星谷を受け止める形を作ることで、お互いがお互いを支える理想的な関係に到達したと解らせる作りが良かったですね。

星谷くんは積極性とポジティブさを活かしてお話を常に明るく引っ張り、凸凹したメンバーも早々にまとめてしまうカリスマ性を持っていました。
一癖あるメンバーが出っ張りすぎた自分を抑え、チームの仲間の都合を考えるようになるのが序盤の物語的エンジンだったので、星谷くんの優等生ぶりはとてもありがたかった。
彼がいつも前向きに進み続けることで、くっそめんどくさい天花寺くんと月皇くんも早めにデレたし、消極的な那雪もチーム内での存在感を獲得できた。
この話の長所である『お話がテンポよく進む』『不要なストレスの少なさ』には、星谷くんが主人公だったことが大きく寄与しています。

しかしキャラクターというのはお話に都合が良すぎると本物らしさを失ってしまうわけで、どこかで譲れないエゴイズムをむき出しに、身勝手な動きをしたほうが良い。
先輩たちの物語もスムーズに展開させ、チーム柊との関係も良いところに落ち着いたこのタイミングを見計らって、星谷が抱え込んだ不安を表に出すストーリーを軸に据えたのは、シリーズ全体を見据えた動きだといえます。
これが早過ぎるとチーム鳳をまとめて話を落ち着かせる役がいなくなるし、遅すぎると星谷の描写は『ただの良い奴』で終わってしまって彫りが浅くなる。
今まさにやるべきエピソードを見つけて、ちゃんとやってくる卒のなさもまた、このアニメの強みだといえるでしょう。

前半、月皇兄の撮影現場を見学することで舞台への気持ちを新たにし、月皇兄弟の変化した関係を見せるシーンを入れたのは、欲張りでなかなか良かったです。
兄弟の軋轢は月皇弟の個別エピソードで掘り下げきれなかったところであり、チーム鳳の絆が深まり、友と影響し合い成長した月皇弟を兄に認めさせることで、チーム鳳全体の成長も分かりやすく提出できています。
月皇兄が立っている高みを見せ、ボーイズが憧れ追いつこうとする背中を説得的に見せるために、早い段階でミュージカル演出を使う見切りも良かった。

鳳さんの不在が星谷の不安定さの源泉なのですが、それを安定させるためには鳳さんというメンターが必要。
このパラドックスを、師の師であった月皇兄を相談役として配置することで解消しているのも、見学シーンの巧いところです。
過去編をやったおかげで月皇兄の懐の深さはしっかり視聴者に伝わっており、迷える星谷がヒントを見つける壁役として、納得できる配置になっていました。
スタミュは世代間の役割分担・役割交換を気持ちよく見せて、そこに流れる信頼と愛情を温度高く伝えるのに成功しているアニメですな。


見学シーンで状況を整地したうえで、星谷くんが鳳さんの真実を知り、自分の気持を整理する後半の流れも、これまでも蓄積が生きた良いシーンだと思います。
前半人間的成長を確認させた月皇弟が起因になっているところとか、思い込んだら一直線に話が転がっていく勢いの良さとか、色々と気の利いたドラマだった。
嫉妬心に駆られたクソホモを恨むことなく、まず自分が悪いという結論に落ち着く辺り、やぱ星谷くんはええ子やな。
華櫻会メンバーに『鳳の脱退はお前のクソホモ嫉妬のせいとちがうん? 私心やろ? ん?』とか詰め寄られている辺り、暁失脚フラグが着実に積み重なってるのも落とし所が予測できて素晴らしいですね。

何よりも鳳さんと星谷の間にある信頼関係を気持ちの良いデュエットで演出した、ミュージカルシーンの使い方が良かったです。
Q:何故男たちは分かり合ったのか。 A:一緒に歌ったからである。
理屈を飛び越えた理屈をここで切ってきたのは、わざわざ『歌』をテーマに据え演出にも使うミュージカルという表現方法を選んだこのアニメにしか使えない、いい無茶苦茶さだったと思います。
スタミュはホント、話数重ねるごとに演出が洗練されてるなぁ。

『鳳樹という個人ではなく、ステージというより広くて大きいものを求めろ』という二人の結論は、凄く健全で気持ちよくて感心してしまった。
男の子がキャイキャイするアニメなので、油断するとベッタリした閉鎖性が忍び込んでくるジャンルだと思いますが、成長のメインテーマを確認するこのシーンでこういう全うで風通しの良い方向性に引っ張っていくのは、製作者の決意と矜持を感じて良い。
それと知らず鳳さんに憧れてミュージカル学科に入った星谷が、鳳さんと決別することで前に進むという構図も、親離れの成長物語としてガッチリした足場を感じる、良い見せ方だ。
しかしこれでグッバイ鳳! となってしまうのはいかにも寂しいので、なんか都合よく鳳先輩が復帰する展開で終わってくれるとなおOKよ。
兄貴が好き過ぎて頭おかしい柊先輩の問題もあるし、ここら辺は全部収まるところに収まって終わりそうだから、あんま心配してないけど。

『いい子』だった星谷が『物分りの悪い子』になって暴走してしまうくらいに、鳳さんへの熱い気持ちがある。
キャラクターの感情の量を物語的な役割配置を崩すことで表現した今回は、ドラマとキャラが綺麗に噛み合った気持ち良さがあり、見ていて自然と心を動かされる勢いを感じました。
これまで星谷に受け止めてもらっていたメンバーたちが、今回は星谷を受け止める側に回るという逆転も、彼らの成長とチームとしての完成をしっかり伝えてきて、素晴らしかった。
あえて台詞を使わず、表情と仕草だけで感情を見せる演出が良かったなぁ。

その後個別回のなかった那雪にしっかり尺を回し、物語的功労者星谷をちゃんと褒め、認める場面をしっかりセリフ付きで回したのも、最終話一個前というお話のタイミングとよく噛み合った、良い見せ場でした。
『お話を支えてくれた星谷くんを褒めてやってほしい!』という視聴者の感情誘導をこれまでの流れの中で盛り上げたうえで、作中人物にしっかり言葉にさせてくれる気持ち良さは、スマートかつ熱くてグッドでした。
ただ星谷を褒めるのではなく、良い女房役である故にいまいち存在感が薄かった那雪が、どんなエゴイズムを持っていたのか吐露するシーンと重ね合わせで演出したのが、凄く巧い。
無論こう言う心情の吐露を視聴者が受け取るためには『前フリ』が存在していなければおらず、衝撃的ではあっても唐突ではない今回の告白は、他のキャラクターの物語の合間合間に、那雪が持っている闇の部分をしっかり埋め込めていた証明なんでしょうね。
お話がまとまりに係るこのタイミングで、しっかり仕事をした劇作術が効果を発揮しているってのは、スタミュが良いアニメだっていう何よりの証明だと思います。


というわけで、凸凹チームに足らなかった『リーダーのワガママ』をしっかり表現し、最終試練に向けて『勝つ理由』を積み上げる回でした。
やっぱ成長と勝利の物語には、解りやすい形で物語的説得力を積み上げること、それを形式ではなくキャラの血肉の通った物語として共有させることが、凄く大事なのだなぁ。
スタミュの持っている『ベタで泥臭い王道を、しっかり丁寧にやる』という強みが結実した、素晴らしいラス前でした。

ステージ倒壊というこれまたベタな、しかし最高のピンチが襲いかかってきたところで引きましたけども、少年たちはどんなステージを見せてくれるのか。
今回丁寧にこれまでの歩みを総括してくれたおかげで、彼らの飛翔がとても楽しみになりました。
うーむ、やっぱ良いアニメだなぁスタミュは。