イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Go! プリンセスプリキュア:第45話『伝えたい想い!みなみの夢よ大海原へ!』感想

大団円が着実に近づいている乙女夢戦記、今週は海藤みなみのラストエピソード。
前回見つけた夢にたどり着く最初のハードル、家族への告白をどう乗り越えるかというお話でした。
持ち前の優しさと賢さが時には仇になるけれども、それでもやっぱり美しいみなみさんの良さをじっくり描写したお話でした。


最大の支援者が心を折りに来たはるかや、一度夢に背中を向けたきららに比べると、みなみさんはそこまでクリアするべき障害が大きくありません。
自覚した夢を家族に伝えさえすれば大体終わりですし、これまでのお話を見ている視聴者には、海藤家の器の大きさと優しさというのは既知ですので、大事なのはみなみさんが決意を固めるまでの過程になります。
プリプリらしい細やかな表情の描写を巧く使って、前回見つけた自分の夢が家族の期待を裏切る痛み、優しさと決意の間で揺れる15歳の心を非常に細かく描いていました。
ママンからの電話を受けているシーンは手と口元だけで見事に内面を写していて、そこでタメた情感がみんなが集まったあとのみなみ男泣きで爆発することも含めて、非常に見事だった。

やっぱりみなみさんは(ラストシーンでママンが指摘していたように)『優しさ』の人でして、彼女の物語は周囲を見すぎて自分を殺してしまうような過剰な優しさを、どう乗り越えていくかという物語だった気がします。
期待される『正しさ』を敏感に察しつつ、求められる自分を的確に演じつつ、本当の自分というものを感じ取ることすら出来なかった優等生の悩み。
フィクションでは結構スルーされがちなそれを、みなみさんのお話は丁寧に追いかけたと思うのです。

自分の内面に分け入っていくみなみの成長は精神的で、努力と挫折と根性の物語だったはるかや、自分を強く持って明朗だったきららの物語と比較した時、ともすれば『つまらない』問題だと片付けられてしまう類の話になりかねません。
しかし世界を狙う敵と戦ったり、誰しもがバカにする夢にすがりついたり、二つの衝突する夢を両立させたりといった物語と同じように、海藤みなみの自己探求の物語は貴重で、大事で、価値のある物語だと展開させ描写してきたことは、プリプリにたくさんある美点でも飛び抜けていると思います。
自分の夢が何なのか考えたことすら無い、外見に似合わず最も子供らしい部分を守ってきた海藤みなみが、様々な出会いの中で自分の本当にしたいことに立ち戻り、決断して告白する。
誰にでも起こりうる『つまらない』自己発見・自己実現の物語を、ともすれば完璧超人として『つまらない』キャラクターになってしまう海藤みなみに割り振ったのは、シリーズ構成の妙技だと言えるでしょう。
『海藤みなみらしさ』を『海』という一点に象徴させ、的確に海のイメージを差し込んで個別エピソードに繋がりをもたせたり、お話を集約するときに巧く使ったりしたのも、非常にまとまりを良くしていますね。

一見ただのファンサービスに見えるお歌のシーンも、高嶺の花として他人との間に距離を造っていた序盤を考えれば、みなみさんが歩み寄る勇気を手に入れ、『正しさ』で律するだけではなく『優しさ』を的確に伝えることで喜びを生み出す方法を学んだことを示すシーンでもあります。
そこでステージを同じくした仲間は、辛さを自分の中に抱え込むみなみの特質もよく解っているし、そこから一歩踏み出す勇気を支えてくれもする。
完璧な先輩として導いてきたはるかはいつの間にか大きくなり、揺れる自分の肩を抱きしめて背中を押してくれる、立派な存在に成長している。
みなみさんがこの一年間の物語で何を手に入れたのか、良く分かるお話だったと思います。
家族との対面にプリキュア(+ゆい)が同席しないことは、夢の前に結局人は一人なんだけど一人では夢に辿りつけないというこれまで見せてきたジレンマを再話していて、プライドがあって好きな描写です。


海藤家はみなみさんと同じように賢く優しい人ばかりで、一世一代のみなみの告白は柔らかく受け止められ、認められているように見えます。
しかし僕個人としてはみなみの告白はやっぱりご両親にショックを与えていて、クリスマスツリーのように点滅した心の揺れをあの一瞬の静寂の中で収めて、求められる立派な両親というロールモデルに立ち返ったのではないかと推測しています。
そういう微細な揺れをセリフの合間に埋め込む豊かさというのは、やっぱりプリプリの強みでしょう。

ラストシーンは絵で見せると同時に、みなみの夢が具体的にどういうものなのか、一切聞かずに受け止めているセリフの妙技も走っていたシーンです。
世間体がどうとか、利益がどうとか、そういう条件を一切つけずに無条件で娘を受け入れる態度があそこで『語られなかったもの』には詰まっていて、ほんとプリプリの親は人間出来てるな! と感心する。
親世代がプリキュアを見つめる視線を徹底的に暖かく、しかし目立たないようにひっそりと埋め込んでいるのは、やっぱ好きだなぁ。
まぁ面倒くさいことになる身内はカナタだけで十分だしな……カナタクラスに拗らせる身内がもう一人いたら、こんなに余裕のある終盤になってねぇぜマジ。

みなみさんの物語は比較的シンプルなので、お歌を入れたり戦闘に時間を使ったり、色々する余裕があります。
その利益を最大限に被ったのがシャットさんで、直接の関係はトワにあるのに一対一で対峙する役を割り振られていました。
アイメイクではしゃいでる一瞬で『あ、この人やっぱ悪の幹部としてはダメだわ』と思わせる説得力が好き。
ディスピアから直に『最後のチャンス』と言い含められているのに、クローズさんやロックのような怪物モードにもならず帰ってきたところを見ると、やっぱ生存ルートかなぁ……生き残ってほしい、ホント。
僕はミス・シャムールという『戦争が終わった後』を見据えたキャラクターがとても好きなので、彼女の薫陶で人間性を芽生えさせたシャットさんは、殺しあい潰し合う以外の道を見せて欲しいんだよなあ……憎悪と無理解の方は、クローズさんが凄い顔芸作画でまたやってくれるってマジ。

というわけで、海藤はるかの魂が収まるべきところにしっかり収まったエピソードでした。
正直『きららちゃんが二話使ったから、話数構成の収まりとして二話にしたんじゃないのー?』と思わなくもない穏やかな編成だったけども、なんでも出来るメンターが抱え込んだ子どもの部分をとても大事に展開してくれて、凄く嬉しかったです。
完璧超人でも安易なポンコツでもなく、色んな顔のある優秀な人間として海藤みなみを捌けたってのは、なかなか凄いことだと思う。

そして来週は、まさかの敵幹部回。
イヤミな強キャラから恋する乙女、そして情を知ったマスコット的存在へと、色々変化したシャットさんがどういう結末を向けるのか、非常にドキドキします。
マジ死なんでくれ、マジ。