イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スタミュ -高校星歌劇-:第12話感想

ステージに夢を追い求めた少年たちの綺羅星歌劇、ひとまず幕の第12話。
前回までで『後は全力で踊るだけッ!!』というところまでお話しのテンションを積み上げてきたので、クライマックスまで気持ちよく駆け上がるお話となりました。
提示された問題も全て解決の糸口には付いていて、その先を想像できるような、実際描いて欲しいような。
食い足りなさは一切なく、期待感と満足感が同居する素晴らしい最終回となりました。

今回のお話は嵐でぶっ潰れたステージ、下された中止命令、憎しみに駆られた暁という各種の障害を決意で乗り越え、仲間を巻き込んで突き進んでいく、解りやすい障害突破型のお話です。
敵キャラがロボットや異能力で戦いを挑んでくるわけではないですが、やはり最後の最後には乗り越えるべき問題が立ちふさがったほうが、話は盛り上がる。
主人公たちが『勝つ』説得力をこれまでのお話で積み上げていなければ、こういう障害はただ用意されただけの置物ですが、そこを乗り越えた先にある可能性まで含めてちゃんと見せていればこそ、何かを乗り越える物語はクライマックスとして機能します。

というわけで、今回はこれまで積んできたものの再確認がたくさんありました。
チーム暁としての繋がり、お披露目公演で見せた破天荒な可能性への周囲の期待、チーム柊との高潔なライバル関係、ステージアクターとして積み上げてきた努力。
そういうものを色々確認しながら走り回る青年の姿は、『泥臭く真っ直ぐなことをちゃんとやる』というスタミュの強みを活かした描写であり、見ていて気持ちが良かった。
彼らの熱意が周囲を巻き込み、どんどん事態が良くなっていく過程には、お話が先に進む根源的な気持ち良さがちゃんとあり、ベーシックなことをしっかり踏襲する強みを教えられた気がします。

同時に、これまでの蓄積があればこそ見えてくる新しい要素もちゃんと描写しているのが、このアニメの巧い所。
イマイチ存在感の薄かった華櫻会のエセ外人とむっつりした人は暁先輩とちゃんと対話し、チーム鳳の可能性に賭けて全国放送のスイッチを押す。
これはこれまで出番のなかったキャラの美味しい見せ場であると同時に、鳳先輩と彼が信じる教え子の熱意と誠意が、二人の心を動かしたというアクティブな描写でもあります。
物語的な継続と変化をしっかり描写し、キャラクターたちが何をして、その結果どうなるのかと視聴者に伝わる形で表現しているのは、やはり大事でしょう。


何よりも大きな変化は、観客を視野に入れたことです。
これまで個人やチーム、先輩後輩、兄弟の繋がりでしかお話を展開させなかったスタミュですが、テーマにしているミュージカルは芸術表現であり、自分自身は演技しない、練習も青春のぶつかり合いも積み上げてこなかった観客という、赤の他人があって初めて成立するメディアです。
これまで積み上げてきた人生の物語とは関係のない観客と、パフォーマンスをする一瞬の間だけ繋がる奇跡があってこそ、星谷くん達が憧れ身を削って頑張ってきたミュージカルという表現は成立するし、その奇跡を実現するためには観客のいない後日審査ではどうしてもダメなのです。
最後の最後で乗り越えるべき障害にテーマに直結したモチベーションがあり、しかもそれが観客と他者に向かって開かれた方向性を持っていることは、単なる美少年物語として内輪に閉じた展開を拒絶する、強烈なメッセージになっていたと思います。

観客だけではなく、ミュージカル学科ですらない、名前もないような協力者達がチーム鳳の輝きに魅せられ、ステージを組み立てていく姿をちゃんと写したことも、気持ちのいい物語を支えています。
チーム鳳が選んだミュージカルという表現方法は、スポットライトを浴びる顔の良いイケメンだけではなく、名前も顔もないけど懸命に生きている人たちをしっかり巻き込んで初めて成立すると、障害を乗り越える物語の中でちゃんと示したこと。
これは物語の公平性とパンチ力に繋がる表現だし、チーム鳳が持っている可能性がどういう評価をされているのか、視聴者に見せる説得力になっていました。

新規なこの選択もまた、これまでの物語との継続が強く関係していてます。
前回鳳先輩を『切り捨てる』決断を星谷が果たすことで、メンターと教え子という関係を飛び出した、より広い視野を手に入れることが可能になり、そうすることで『観客に見せる舞台』というより広範な価値を真ん中に据えてお話を終えることが出来る。
これは非常に広がりのあるクライマックスですし、同時に狭く小さく仲間との絆、先輩との絆を積み上げていくことでしか辿り着けなかった、高い頂きだともいえます。
積み上げてきたものと、新しく見せるもの。
このバランスを上手く取った最終回でお話を終えることが出来るのは、凄く幸せなことなのだと思います。
伝統性と革新性のバランスというのはステージングとEDにも現れていて、聞き慣れたOP曲に合わせてやり切るステージの説得力、スペシャルな新曲に乗せてこれまでのPVを振り返るED、共に大満足の演出でした。


『伝統と革新』は鳳先輩と柊先輩の個人的なテーマでもありましたが、この二人の関係は劇的に終幕したわけでもなく、背中合わせのままでもなく、お互い一歩ずつ寄り添う小さな歩みでまとまりました。
まぁ主役はチーム鳳のボーイズなので、このくらいのまとまり方が良いとは思いますが、ラストでぐっと存在感を増してきた先輩二人と、なんかすげぇチョロく転んだ暁も引っくるめて、先輩世代の話ももっと見たいと思ってしまう。
ワシは見てみたい……鳳先輩と柊先輩が結構長尺で激しくぶつかり合い、感情を吐露し、お互いの気持が繋がる瞬間があって、自分の心に素直になれる場所でまとまる瞬間を……。(激情に取り憑かれた男と男の関係大好きジジイの眼)

もっと見たいという意味ではチーム柊もそうで、要所要所で美味しい見せ場と良いトス上げをしてくれたけど、十分主役張れるんじゃないのという期待感があるキャラでした。
嫌な奴らかと思わせておいて、相当爽やかな支援役をやってくれたのは意外だったし、気持ちのいい奴らだったなぁ……。
個人回やってない空閑くん以外のチーム暁の燃料って結構枯れてると思うんだけど、先輩世代とチーム柊と掛けあわせれば二期走りきれる気もするんだよなぁ……。

二期に関しては、あっても問題なく走れるし、終わってしまっても満足感のある終わり方だったと思います。
ここまで走ってきたチーム鳳の青年たちは何か一つデカいことを成し遂げたし、これから先も何かを達成していく。
そういう期待と確信を持ってお話を見送ることが出来たのは、やっぱり泥臭い青春物語をしっかり走り切ったスタミュの姿勢のおかげだと思います。
僕はこのアニメがとても好きになったので、二期が見たい気持ちはもちろんありますが、でも今回でも十分なくらい良い終わり方でもあった。
こういう気持ちになれるのは、とても豊かで希有なことだ。


というわけで、スタミュの幕は降りました。
凸凹メンバーの衝突フェイズは早めに終わらせ、先輩世代のネットリとした因縁話やら、チーム柊との楽しいライバル関係やら、的確に物語の足場を組み替えつつ12話まで走った印象です。
丁寧に丁寧にストレス要因を削りつつ、削り過ぎて成長物語として機能しない事態には陥らせないバランス感覚は、楽しいお話を成立させる重要な能力だったと思います。

ミュージカルというテーマも、正直最初はPVの使い方やらメタファーの見せ方がドタドタしてて心配でしたが、回数を重ねるごとに洗練されていき、感情を揺さぶられる使い方がされていきました。
仲間大事という気持ちの良い結論から一歩先に出て、観客のいる舞台に真正面から向かい合うところまでテーマを引っ張りあげたのは、本当に見事だった。
ミュージカルパートの使い方も、感情の盛り上がりやエピソードのテーマとシンクロした演出にどんどん仕上がっていって、見事な見せ方でした。

スタミュはキャラの魅せ方に巧さがあるアニメで、ストレスコントロールを的確に行いつつ、可愛げと成長の余地をしっかり見せて視聴者の気持ちを捕まえる切り取り方は、スマートかつパワフルでした。
特に星谷くんは素人という特性を上手く活かして、前向きに話を進め、キャラ同士の接着剤になる人の良さを有効活用してくれる、素晴らしい主人公でした。
彼がエンジンになって話が進んでいくスタイルは、この話に速さと強さを与えていたと思います。
頼れる指導者ながら複雑な内面を抱える鳳さん、そんな彼を愛憎矛盾する眼で見つめる柊さん、オマケの焼けぼっくい暁など、先輩世代も物語の役割をしっかり果たしつつ、キャラとしての魅力がある奴らだったなぁ。

非常に真っ直ぐで、泥臭くて、大真面目な青春音楽劇だったと思います。
閉ざされた幕がもう一度上がるかどうかは僕には分かりませんが、ぜひ上がって欲しい。
そう思いつつも、取り敢えずは走り切ったこのアニメーションにお礼を言いたい気持ちでいっぱいです。
ありがとう、スタミュ。