イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Dance with Devils:第12話『終わりと始まりのオーパンバル』 感想

悪魔と人間と吸血鬼のゴシック恋愛ストーリーもついに大詰め、ラスボスぶっ殺して決断だっ!! っていう最終回だよ。
『俺たちをぶっ殺せば取り敢えず恋愛以外の話は終わるぜぇええ!!』とテンション上げてたパンツマンと吸血王は無残に飛び散り、恋愛レースは大方の予想通りレムが勝利、しかし自立した女としての人生を取って離れ離れというエンドでした。
最後の最後までゴシック力高めーの胸キュンキュンさせーの笑いを混ぜーの、サービス精神旺盛に楽しませてくれるアニメでした。

『恋と人生に答えを出す前に、取り敢えず殴ってくる奴いるし殴り返そうぜ!!』というのが前半の流れ。
キャンプファイアーの薪みたいにボーボー燃えるヴァンパイア共に、生来の被差別種族としての哀しみを感じる。
まぁジェキとネスタ第一形態はニーサンが、第二形態はリツカがそれぞれキルしたので、雑魚ヴァンパイアくらいしか殴る相手がいないのよね、特に三馬鹿。
ポメがシャドウドッグをけしかけていたシーンには、影鰐との強いリンクを感じました。

んでまぁゴシック力高めにチャンチャンバラバラして、ジェキが灰になって死んだ。
そもだにゴシック・ロマンスというのは抑圧された性意識が日向に影に発露するジャンルだと思うのだが、『高いところから落ちて』『ネスタの槍に貫かれて忘我』というジェキの死に方はダンデビの中でも濃厚なセクシャルモチーフだった。
見てみるとこのアニメの死人は大概『棒状のものに貫かれて、大量に出血して』死ぬわけで、これは俗流フロイト主義というよりは、やっぱり古典的なゴシックジャンルが背景にしている性的モチーフを、ダンデビが良く理解している証明だと思う。

ネスタの心臓隠しにしても魔神譚などでよく見るモチーフであり、『柔らかく赤い肉』が『石になった女』の中に隠され、それを暴かれることで父王が死滅するという一連の流れは、乙女ゲーというポップな外見の中にある古典への理解が、強く感じられた。
父権的に振る舞い義理の娘の柔肌を犯そうとしたネスタは、他でもないリツカ自身によって己の隠していた女性性を暴かれ、貫かれることで死に至るのだ。
ポプリのおまじないにしてもサファイアの魔力にしても、ダンデビのオカルト描写は的確かつ文脈をしっかり抑えたもので、個人的評価が高くなるポイントである。


ネスタ戦はニーサンが親父超えをし、リツカが伝説のスーパーグリモワール人に目覚めて勝利した。
抑圧的な親の悪しき影響から逃れ、自立を暴力の形で発露させることでお話が終わるのは、恋愛の話であり超常の話であると同時に、成長の話でもあったこのアニメにはふさわしいと思う。
最後のイヤボーンで高まったリツカが見た世界は、女だけが特権的に知覚できる真実の世界であって、そこに魂の姉妹であったアズナの短剣があること、それが死をもたらす決定打になることには、やっぱりオカルト的必然性がある。
最後の最後で決め手になるのが男の手助けではなく、アズナとの女の絆というところが、このアニメを誰に喜んで欲しいのか、製作者がよく見据えている証明だと僕は思う。

男たちがボーッと見ているのもリツカが達成した女の自立に圧倒されている結果であり、男性性と女性性を両方手に入れ、世界を完成させた存在に対して俗人が出来ることはなにもないのである。
菩薩みてーな顔で『成仏してね……』とか言ってる裏で、現実のネスタが苦痛に絶叫しつつダックダック血を流しながら灰になるシーンは、リツカのお花畑力をよく表していて良い。
これまで守られる一方だったヒロインが自主性に豁然と目覚め、暴力に立ち向かう通り越して自分に都合のいい幻覚見ながら殺人まで果たしてしまうのは、お砂糖でコーティングされた負のカタルシスがあって、マジで最高だった。
主人公たるもの、最後の最後ではこのくらいのロックンロールをみせて欲しいものである。

そんな感じで解りやすい障害をぶっ飛ばし、クソみたいな男たちの玩具にされる人生に中指を突き上げたリツカ。
恋愛レースは最後の最後でニーサンがキルカウントを稼ぎ追い上げに来たが、自分の気持に素直になったレムがキッチリテープを切った。
まぁそのために色々お膳立てし、『You告白しちゃいなYOソング』まで歌ったわけだしな……。

しかしネスタをぶっ殺したことで己の持つパワーに気づいたリツカは、『魔界に嫁に来いよ、不自由はさせないぜ? 自由もないけど』という旧時代型魔界王子の誘いを屹然と断り、現世で人間として生きることを選ぶのであった。
ネスタをぶっ殺したのがレムならば男の優越を主張も出来たのだが、勝っちゃったのがトロフィーであるリツカ自身なので、そら自立ルートに行くしかないよねっていう。
もう少しお話しの圧力が高まっていれば『魔界? 人間界? 知った事か!! 恋も日常も両方手に入れてみせる、世界の壁をデストローイ!!!!』というロックンロールな全部取りルートもあり得たとは思うが……そこら辺は三馬鹿&ポメルートと合わせて、ゲームのトゥルーに任せる形かな。
この終わりも綺麗な収め方なので、とても好きです。


というわけで、ダンデビも無事に終わりました。
トンチキ美少年たちが頭のおかしい愛の告白をしすぎて困っちゃうアニメでしたが、ゴシックな雰囲気をしっかり出し、声高に主張しないながらオカルト要素をしっかり抑えた、土台のしっかりしたアニメだったと思います。
ネタとマジメのバランスが良かったという意味では、アリアAAに近い読了感でしょうか。

古典的ゴシック・ロマンスの基本構造をしっかり研究し、欲望充足装置としての創作に求められる役割を(ネジの外れたネタ要素を駄々漏れにしつつ)的確に果たすそつのなさには、とても感心させられました。
『チヤホヤされたい』『愛されたい』『いろんな人が私を取り合って欲しい』『恋がしたい』『恋より大事なものに気づきたい』『私は私でいたい』
身勝手で大切な観客の欲望を、様々な手練と手管で達成してあげること。
観客の欲望に寄り添う行為は時に軽んじられるけども、やっぱり創作のとても大事な要素であり、『こうやってで気持よくしてもらうから、明日を頑張る活力になるんだろーが!! お話しの仕事はそこだろーが!!』というエールを、画面からもらった気がします。

主体性をちらほら見せつつも基本、哀れなトロフィーとして運命にクルクル翻弄されるアズナを取り巻くボーイズは、美少年でトンチキで可愛げのある、面白い連中ばかりでした。
むっつり魔神レムも我慢に我慢を重ねてカタルシスをタメる仕事を頑張ったし、ニーサンは副主人公として血の宿命によく悩んだし、三馬鹿は重くなりがちな主人公の空気を抜く、良いトス上げをしていた。
ポメは狂言回しとして、必要な動きをしっかりしてたなぁ……PC1のエンディングが終わった後、『やりたいことあるんでイイすか?』と宣言し次のキャンペーンのトレーラーを読み上げるのはやり過ぎだがな!!
反応次第で二期あるってことかねぇ、あの布石は……それともゲームへの導線か。(お話素直に見れない考えすぎマン)

ヒロインヒロインしてたリツカが最後の最後でロックに目覚め、恋愛に背中を向けて自分の足で歩き始める終わり方も、古典から近代へと物語の時代を進めるいい終わり方だったと思います。
その足場になる、作中唯一リツカの変化を肯定してくれたアズナを途中退場させつつ、物語的には大きい役目をしっかりさせていたことも、彼女のファンとしては嬉しかった。
アズナはむっちゃ体張って友達守りつつ、何かとお人形扱いしてくる男ども(ナイトぶりたいニーサン含む)の抑圧を押しのけて『アズナ、お前はお前でいろ。Be Free,Rock&Rollだ!』と励ましてくれる良いキャラで、最終的な勝者は確実にアズナだよなぁこのアニメ。
無条件にアズナを肯定してくれるオカンは、第1話で早速失踪した上帰ってきた時にはヴァンパイアホストに骨抜きにされてるわけで、自立する足場が全然ねぇんだよなアズナ……。

欲望充足装置としての出来の良さを褒め続けたダンデビですが、終わり方は恋に背中を向けることで終わりました。
男に寄りかかり家(≒魔界)に閉じ込められる選択よりも、恋と離れたとしても自分自身を実現できる開いた世界を選ぶ終わり方が、ウーマン・リブの波から50年以上たった今のオタク・ジャパンの中でどう受け止められ消費されるのかは、女性ではない僕には当事者性のない問題かもしれません。
無責任に個人的な感想を言えば、自主性無くお話しの都合に流されてきたリツカが、主体としてのスタートラインにちゃんと立って終わることを(キャラクターも製作者も)選択したってことは、誠実で良いことだと思います。
ゴシック・ロマンスの空気が上手く醸造できていたから、少し退廃的で閉じた恋に溺れていく終わり方でも良かったとは思う。

ミュージカルシーンも感情の起伏に則ったオーソドックスな使用法を的確に使いこなし、ネタ力も十分な火力。
心情吐露で完結しがちなソロ歌唱よりも、デュエットや合唱で気持ちが行ったり来たりする運動を歌にのせる使い方が、より冴えていた印象があります。
茜屋さんはi☆Risで経験値を積んであるだけあって、唯一の女子ボーカルとして透明感と存在感があったと思います。
最終話の歌い上げが圧巻でした。

そんなわけで、ガハハとワクワクとハラハラと、色んな感情を楽しめる良いアニメでした。
自分は興味領域にフェミニズムと文学があるので、そういう視点から要らん考えを巡らせることも面白かったりしましたが、やっぱりエンターテイメントとしてしっかり作り上げ、楽しませてくれたことがとても素晴らしい。
Dance with Devils、良いアニメでした。
ありがとう。