イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ノラガミ ARAGOTO:第13話『福の神の言伝』感想

迷える神様が生き方を見つけ変えていくアニメもついに最終回、恵比寿編の結末と過去との決別であります。
ノラガミ世界は厳しいので代替わりはしょうがない結論と言えなくもないですが、先代恵比寿と魂をぶつけあう中で手に入れたものは、確実にヤトを前に進ませた。
それを支えていく氏子との絆も含めて、ノラガミらしい傷まみれの前向きさに満ちた、良い終わり方でした。

今回のお話はまず結果を見せて、細切れに過程を見せていく演出がよく冴えていました。
恵比寿は死ぬのか、死なないのか、どう死んだのか。
一番気になるサスペンスを引っ張ることで視聴者の興味を盛り上げつつ、ショタ恵比寿を早い段階で見せてお話を落ち着ける両天秤の巧さは、非常にノラガミらしい。
ショタ恵比寿が出てきた時の『あ……やっぱ死んだんだ……』という脱力感と奇妙な安心感は、なかなか得難い経験だった。

ヤトは恵比寿好きすぎてヤバイくらい入れ込んでいましたが、そういう思いも虚しく神は死んでしまうし、代替わりもしてしまう。
人間とは違うルールで生きている神様の無常さみたいなものが、恵比寿の死にはよく現れていたと思います。
代替わりを前提に思う存分狂った陸巴も合わせて考えると、二期は神様のルールがメインテーマだったのかなぁ、天のクソっぷりもよく演出されてたし。
一期が人間と亡霊のルールをテーマに据えて、あまりにも人間らしい亡霊雪音くんを主役に話を展開したことを考えると、作品の光を当てていない大事な部分をちゃんと探し、丁寧に掘り下げた結果だと思います。

恵比寿は死んでしまい記憶も漂白されたけど、代替わりを当然と受け止め自分を軽んじる生き方はヤトとの出会いで変化し、ヤトの生き方も恵比寿との邂逅によって大きく変わった。
死んでも後があることを前提に、変わらず機能を果たし続けることが基本の神の生き方の中で、それは結構珍しいことなのだと思います。(毘沙門一家のゴタゴタを思い出すと、なおのこと)
『死にたくない』という当然の結末にちゃんとたどり着き、ヤトの胸の中で死んでいった先代が幸せだったのか、否か。
それを決める権限は誰にもありませんが、ショタ恵比寿の面倒をよく見、生き方を変えたヤトの姿を見ていると、ヤトの今後がそれを決定づけるのではないかな、という気がします。

振り返ってみると、やはりヤトと恵比寿の奇妙な邂逅は凄く素敵で、お互いに欠けていることを見ず知らずの相手に求め合い、補いあう間柄が熱く、強く表現されていました。
いい年したオッサンゴッド二人が恋でも愛でもないけれども、奇妙な縁で繋がって大事なものをやり取りしあう関係は型にハマらない新鮮さがあって、見ていて楽しかったです。
殺しの神として、抑圧的な父によって青春期を奪われたアダルトチルドレン・ゴッドとして、綺麗なものを探し求めていたヤトがついに見つけた敬意が、凄く見ていて眩しいんですよね。
悲しい結末に終わってしまう事も含めて、厳しい世界に厳しい生い立ちで生まれついたヤトの人生と、しっかり向かい合ったエピソードだと思います。


そういう邂逅を経て、ヤトは母なる暗黒と決別する。
『妹にして妻でもある、暗黒の女王と袂を分かつ』というエピソードが最後に来るのは、イザナギの支配する冥府下りが前景として配置されていることを考えると、イザナミ神話に目配せの効いた面白い構成です。
一期が雪音くんのイニシエーションだったことを考えると、邪悪な家族と縁を切る今回の終わりは、ヤヨへのイニシエーションだったといえるのかなぁ。

自分を無条件に認めつつ檻の中に閉じ込める母と、オモチャ扱いして殺し以外の価値観を認めない父。
野良ではなく雪音を選び、これまでの人生と決別する終わり方は同時に、ヤトが家の呪縛から決別し対立する決意でもあります。
雪音とひより、小福と大黒という新しい家族を手に入れた彼の人生が、生易しくはないけど暖かなものに変わっていく予感は、これまでのお話しの中でちゃんと育まれていて、前向きな終わり方でした。

『禍ツ神ではなく福之神になりたい』というヤトの言葉に、雪音くんが『これまでどおりバケモノを狩っていればいい。切るという本質は変えなくていい』という導きを示すのは、二人の成長がすごく良く現れていて、気持ちのいい掛け合いでした。
二期でクローズアップされた祝の器というファクター、一期のくっそ面倒くさい反抗期を乗り越えて、雪音くんがすごく真っ直ぐに正道を示すことが出来るようになったのは、胸にこみ上げてくるものがある。
ヤトは雪音くんを使う『大人』の立場ではあるんですが、二期で強調されたように抑圧的な家族によって殺人を強要され、必要な情緒的体験を獲得できなかった、迷える『子供』でもあります。
くっそ面倒くさい『子供』の時期をヤトに受け止めてもらって乗り越えた雪音くんが、ヤトの本質と過去を否定せず、より豊かな方向に考え方を変える導きを示したってのは、神と神器という作品内部の設定を胸を打つドラマにしっかり仕上げている、見事な劇作でした。
2期26話しっかりやった蓄積が最高に発揮されている、良いまとめ方だなぁ。

そして最後の最後で圧倒的なヒロイン力を発揮したひよりが、気持ちよくまとめる。
生きている時間という意味では作中人物でも多くないひよりですが、その人間的完成度と包容力、視野の広さと直感的に人間的正解にたどり着く才能は、頭抜けたものがあります。
ひよりが受け止めてくれるからこそ男の子たちは思う存分傷つけるし、未知に迷うことが出来る。
これを『母性』と片付けてしまうとあまりにも類型的な理解だとは思いますが、野良がただただヤトを肯定しつつ自分の支配下に置く『暗い母』であることも引っくるめて、ひよりはヤトの『明るき母』なのだなぁと感じます。
ほんとなー、ひよりは好きだなぁ……。

振られた野良は傷心のまま『ととさま』のところに帰っていましたが、おめーかよ正体! なんとなく解ってたけど!!
アニメにおけるヤトの物語はここで一旦終わるけど、彼を抑圧する『ととさま』に顔と名前がついて、今後更に加速していきそうな予感があります。
今回たどり着いた決意を挫くような酷い事件がまた沢山起きるんだろうけど、それを乗り越えていくヤト達がアニメで見たいなぁ……三期やんないかなぁほんと。
でも今崩すとしたら確実にひよりなので、不安でもあるな……あの蛇、一回噛んでるしなひよりのこと。

 

というわけで、ノラガミ二期も終わりました。
いやー、良いアニメだった本当に。
スタイリッシュでシャープなビジュアルの強さはそのままに、比較的人間側の事情に寄りがちだった一期とはまた違う、神様の事情にクローズアップした話運びがとても面白かったです。
二期やるならやるで、一期と同じだけど違うことをちゃんと見つけ、表現してくれないと意味が無い。
ノラガミ二期は本当に丁寧に、自分たちがどういうお話を届けたいのか考えてくれた気がします。

前半を飾った毘沙門一課の活躍()はどえらく酷いもんでしたが、神が持つエゴイズムとその軋みを丁寧にえぐり出していたと思います。
善意すらも腐敗して毒を生み出し、それを利用することでとんでもない破壊が起きる。
幸せな出会いすらもゆがみ、哀しみの源泉になる。
そういうノラガミ世界の厳しさが、情け容赦のないシビアさでしっかり描き出されていた。
せっかく出来た友達が一話持たずに犬に食われた雪音くんとか、マジとばっちりだったなぁ……。

後半の恵比寿編は悲しい出会いと別れの先にある決意、代替わりシステムの矛盾、二人の男の変化などを丁寧に描き、非常に楽しめました。
やっぱなー、ヤト恵比寿がお互いの瞳を見つめる視線の熱さは、ホント最高に良い。
冴えないオッサン達が夢を見て、一人は死んで一人は生き残る展開含めて素晴らしいですよ。

イザナギとの攻防戦、天の軍勢との対決が連続したクライマックスの組み立て方も、登場キャラクターが本当に死力を尽くし、全員の力(一見役立たずに見えるひよりの人間的な強さ含めて)を結集して立ち向かう見せ方が素晴らしかったです。
キャラに愛着があるので、全員に出番と見せ場とピンチがちゃんとあって、アクションであると同時にこれまでやって来た総決算のドラマにしっかりなっているってのは、クライマックスとして最高の仕上がりよな。
最終話で時間を飛ばし、クライマックスの熱を一旦冷ましてじわりとした詩情のお話にする流れも、そこから過去と決別し前を向く終わり方も、とても良かった。

総じて自分たちの強み、見ていて楽しいと思える部分をしっかり維持強化しつつ、世界観が持っている豊かな新規性をしっかり発掘した、良い二期でした。
ほんといいアニメだったなあノラガミ ARAGOTO……。
作画もストーリーもキャラクターの扱いもテーマ性も全てハイクオリティで、大満足の視聴体験でしたよ。
三期に続く要素も沢山演出されましたので、ついつい先の話がしたくなりますが、今はまず感謝を。
ありがとうノラガミ、良いアニメでした。