イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ!:第167話『夢のスケッチブック』感想

偶像の荒野を走り抜けていく少女たちの物語、今週は少女と少年の一つの結末でした。
あかりちゃん専属のデザイナーとしてこれまで物語を積み上げてきた瀬名翼を真ん中に据え、彼自身の成長を鏡にすることで、アイドルとしても少女としても大きく強くなった大空あかりを見せる、クライマックス直前に相応しいエピソードでした。
いちご世代では拾い損ねた恋の要素もしっかり盛り込み、甘くて酸っぱい季節の切なさまで感じ取れる、立派なお話だったと思います。

セナさんの初登場は第107話『2人のドリーマー』でして、ここから第123話、第126話、第139話、第145話に劇場版と、結構な話数をもらっています。
これは『芸能人はカードが命』なアイカツ世界において、デザイナーという存在が大事というだけではなく、駆け出しの時代を共有した戦友として、同年代の異性として、色んなモノを瀬名くんが背負ってきた、という証明でもあります。
今回二人の関係を捉えたカメラにはこれらの複雑な関係、様々な意味合いが全て込められており、じっくりと時間を使いロングスパンでシリーズを作れる、女児アニメらしいエピソードだったといえるでしょう。

スペシャルアピールもマトモに出せない凡人としてアイカツ世界に飛び込んできたあかりちゃんは、最初瀬名さんにとってそこまで大きな存在ではありませんでした。
最初の出会いにおいて、彼のミューズは星宮いちごであり、あかりちゃんは『よく判んない駆け出しアイドル』でしかなかったわけです。
しかし瀬名くんは、あかりちゃんがアイドルとして着実に実力を付け、星宮いちごのポーザーから一歩抜け出し、自分のアイドル活動を見つけていく過程を、常に間近で見ていました。
あくまで脇役である瀬名くんを、あかりちゃんと正面衝突させないよう気を配りつつ、あかりちゃん一番の理解者として衣装を作り、ステージを見守り、クールに去っていく瀬名さんの姿は、これまで丁寧に蓄積されてきたわけです。

おおぞらお天気やルミナスの仕事を経て、あかりちゃんのキャリアが蓄積されていく過程で、ドリーミークラウンの新米デザイナーも沢山の経験を積んでいきます。
真面目に、誠実に、情熱的に仕事をこなす彼の日常はちゃんと描写され、それこそ男やもめの鍋ラーメンをすする寂しい姿まで、視聴者である僕たちはしっかり見守ってきました。
一人の青年が一人のアイドルと出会い、衣装という形で彼女を支え、自分自身も成長し道を見つけていく物語。
あかりちゃんと瀬名くんの物語は、まずビジネスパートナーとしての強烈な絆がつなぐ物語なわけです。


SLQCという大一番を前に、新しいコーデが必要だというロジックは物語的にも、キャラクターの心情的にも納得の行くところです。
しかしあかりちゃんが今回求めているのはただの新しくて綺麗なドレスではなく、自分の求めるアイドル活動を実現可能なドレスです。
そこで必要なのはSLQCの勝利という『形式』ではなく、観客に喜んでもらえるステージという『内実』なわけです。
四年目のSLQCを巡る戦いが、戦いそれ自体ではなくその先にあるものを巡って展開するというのは、前回スミレちゃんの物語でも強調されたところであり、ルミナスの仲間であるあかりちゃんもまた、その領域に肩を並べるところまで自分自身を高めているわけです。

あかりちゃん最大の理解者である瀬名さんもまた、キャリアを積み上げビジョンを手に入れた彼女の求める『内実』を一緒に掘り下げ、より完成度の高いステージを目指す姿勢を見せます。
凡人と新米デザイナー、『2人のドリーマー』として物語をスタートしたからこそ、この真摯で峻厳な仕事への姿勢は、強く視聴者の胸を打つと思います。
『凡人故の成長物語』というのが、偉大なる星宮いちごの物語とは違う、新しいアイカツの主人公としてあかりちゃんが背負ったテーマです。
二人三脚で一歩ずつ、足りないところを補いながら歩いて行く『2人のドリーマー』は、ついにこんなに頼もしい存在に変わった。
今回のエピソードは、そういうことを実感できるお話なわけです。

瀬名さんの回想シーンで序盤のあかりちゃんが出てきますが、演技が今のあかりちゃんとは全く異なることに驚きました。
星宮いちごに憧れるだけのアイドル未満の演技と、自分なりのアイドル像をしっかり見据え、ステージの先にあるものを具体化出来るアイドルになった今の演技が異なるのは当然とはいえ、耳に届く形で対比されるとその変化に驚愕し、頼もしくも思う。
幾度目かになる"Blooming Blooming"のステージにしても、イントロ入って腕を上げた瞬間にオーラが周囲を取り巻く、その速さに驚かされます。
『アイドル・大空あかりはこんなにたくましくなりました』という強いメッセージが、SLQCを前にしたこの段階で出てくることは、決戦への説得力を積み重ねる上ですごく重要で、見事な話運びだと思います。


そして、ここまで来た歩みは瀬名くんと一緒の歩みだということも、今回忘れずに強調されていました。
風邪をひいた瀬名くんを見舞うあかりちゃんには当然の事ながら、ラブ・ロマンスの要素が無言で背負わされているのですが、恋だけがそこに詰まっているわけではない。
料理をともに作り、食事を一緒にする二人の姿はとてもフラットで、男だから・女だからというステロタイプを踏み越えた平等な間柄が、強くにじみ出ていました。
そこには(女らしいというよりは)あかりちゃんらしい優しい心遣いと、瀬名くんの魅力であるぶっきらぼうな気遣いがしっかり埋め込まれていて、彼らの青春を見守らせてもらった視聴者としては、思わず頬が緩むわけです。

今回の話で一番印象的だったのは、あかりちゃんが高いものを取ろうとしてバランスを崩すところです。
凡百なラブコメだったら落ちるあかりちゃんを瀬名くんが支えるシーンにすると思うのですが、アイカツは『弱い女の子』であるあかりちゃんを無様に落下させないし、『強い男の子』である瀬名くんに支えさせもしないのです。
アイドルとして荒野に誇り高く立ち続けるあかりちゃんは、女の子である以前にプライドと実績を持った一人の戦士であり、その戦友である瀬名くんもまた、大空あかりの誇りを大切に、しかし優しく歩調を合わせて一緒に戦ってくれる戦友である。
そういう二人の距離感への理解が、あのシーンには詰まっていたように思うわけです。
エンドカット、電話越しに背中を預け合う二人の姿もまた、まず戦友としての絆を大事にしたい製作者の意図が見て取れ、とても誇り高い絵だったと感じました。

そして、安易な『男/女』のステレオタイプを廃し、敬意と矜持の詰まった関係をしっかり描いているからこそ、二人の小さな恋の気配が、すさまじい鋭さで胸に突き刺さってくる。
アイカツ! はこれまで恋を最前線に描写はしてきませんでしたし、先代主人公である星宮いちごも、早川さんと接近しそうな気配はありつつ、『恋みたいな感情』を劇場版でぶつける相手は同性であり同業者である神崎美月だったわけです。
あかりちゃんと瀬名くんの関係が恋だと明言しないスタンスは、第123話『春のブーケ』でも職人芸的な演出に助けられ、功名に醸しだされていました。
しかし今回、瀬名くんが作業の腕を止めて思わずあかりちゃんを見つめてしまう時間の長さ、無防備な寝顔を晒す瀬名くんを見つめるあかりちゃんの視線には、言葉では示せない恋の情熱が、たしかに宿っていた。
恋愛の要素を明言しないのか、はたまた明言できない制約があるのかは位置視聴者である僕には判別できませんが、しかし言葉に一切しないからこそ、今回描写された小さな恋の気配はとても優しく、暖かく、強い。

これが恋なのだと明言しないのは、同年代の男性との接触が少ないアイドルという職業、スターライトという場所に身を置き、キャリアを積み重ねる職業人として邁進し続けているあかりちゃんの心を考えると、むしろ自然かもしれません。
ふつうの子供とは少し違った人生を歩んでいるあかりちゃんが、未だ恋という言葉を知らないからこそ、今回描写された戦友と言い切ってしまうには、あまりにも豊かな色がついた関係性は、作中では恋なのだと明言されないのではないでしょうか。
しかし視聴者には確実に、二人の関係が戦友であると同時に恋の芽生えを孕んでいるということが伝わるよう、今回の演出は磨き上げられ、適切で的確な表現を選択していました。
語ること/語らないこと、公的であること/私的であること、仕事/恋という風に、様々に矛盾して見える要素全てが実は調和可能であり、それを切り捨てず切り離さず歩いてきたからこそ、この二人はこんなに善く見えるのだという豊かさが、今回のエピソードには詰まっていました。


あまりにも偉大な星宮いちごの物語の後に、大空あかりの物語は始まりました。
いちご世代の持っていた万能性と派手さを意図的に配し、弱さと内面性に切り込んでいく物語は、意欲的であればこそ難しいお話だったと、僕は思います。
いちごちゃんが踏破しきった真っ直ぐなアイドルの道以外の、大空あかりだけの説得力をどう生み出し、SLQCというクライマックスにたどり着くかというのは、あかりジェネレーションのお話全体をまとめる上でも、凄く重要な問いかけです。

今回、瀬名さんとの間にある複雑で強靭な関係性を完璧に描写したことで、いちご世代とはまた違う達成の説得力が、あかりちゃんの背中に宿った印象があります。
デザイナーと二人三脚で、一歩ずつ進んできた凡人の道。
いちごちゃんが取り扱えなかった、小さな恋が静かに育まれる過程の物語。
今回のエピソードでこの二点をしっかり強調し、豊かな表現力で形にしきったことで、『あかりちゃんはいちごちゃんとは違う形で、立派なアイドルになった(なり得る)んだ』という説得力が、僕の中に生まれた感じがするのです。
これは四年目を迎え、あかりジェネレーションの一つの決算を控えたこのタイミングでは、凄く意味があることだと思うのです。

そういう物語の完成を助けたのが天羽まどかで、ちょっと大人びた性格を活かして最高級のアシストを飛ばし、あかりちゃんと瀬名くんがいい雰囲気になるよう、空気を読んだ立ち回りをしていました。
まどかは腹黒というかIQの高い子で、他の子がアイカツプロテクトで気づいていない世の中の黒い部分に、精神的に背伸びした目線で気づいちゃってる子だと思うわけです。
そこら辺の目の良さが、あのアシストに詰まっていた感じするなぁ。
SkipSのファンとしてはもうちょっと食い下がってくれたほうが嬉しかったんですが、まぁ今回のテーマは瀬名あかだからな、お前がギャーギャー言うと軸がブレるよな。
スミレちゃんもお茶出したり色々トスあげていましたけども、すっかり歪んでしまった僕の味方では、『(ああ、ハーブティーに……)』とか『(人を毒殺した後は、ランニングがしたくなるッ!)』とか、邪なネタがいくらでも湧いてきて困ったもんでした。

『2人のドリーマー』だからこそ、見える景色があるし、二人で歩いてきたから生まれる感情がある。
これまで積み上げてきた瀬名翼の人生、大空あかりの人生が見事に結実する、素晴らしいエピソードでした。
SLQCに向けてスミレちゃん、あかりちゃんと良い掘り下げが続いているので、『ルミナスの才能ない方』ひなきにも一発凄いのが欲しくなりますが、来週はののリサ。
シャム双生児のように癒着した二人の関係にメスが入る話のようで、非常に楽しみです。