イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

紅殻のパンドラ:第4話『料理の鉄人 -キッチン・ドラッジ-』感想

サイバーエイジ前夜の電脳黎明期を描くパンク・エピックSF、今週は福音くんの社会見学。
夕方に流してもいいくらいのゆるッとした良いお話だったのですが、ブエルの暴走による被害が復興チャリティという形で見えたり、拓美ちゃんの世界の支配者っぷりが企業訪問で見えたり、世界観の横幅方面の目配せも効いていました。
そうそうたる大企業の接待にはピンと来なくて、メシと暖かい寝床を貧者に提供する仕事にやりがいを感じる辺り、福音くんは根本的に善良なんだな。

世界をふくらませる細かい描写も良かったですが、今回は全体的に穏やかなトーンで進むストーリーと、等身大の16歳が自分の行く末に悩み学ぶ道筋がメインテーマ。
何かとソリッドな側面が強調されがちなシロマサワールドですし、今回出てきたおなじみの企業名を見ても、福音とクラリオンが生きてる世界と地続きだというのは判る。
しかしこのお話はあえてそっち方面には舵を切らず、かといって完全に無視するでもなく、とてもシビアで重たい方向に引き寄せられがちな世界の中で、善良な女の子が世の中を良くするために頑張る話として、自分を定義しています。
機械的魔法少女の超能力を『人を殴る』のではなく『メシを作る』ことに使う今回のお話は、このアニメの立ち位置を分かりやすく示すエピソードだったと思います。

薄暗いことがあるからといってそれが世界の全てではないし、この話は世界が秘めているうぐらい部分を無視しているわけでもない。
福音くんとクラリオンの人類離れした能力、ウザルや拓美ちゃんといった保護者の卓越した社会的影響力などもあって悪意に押し負けることはないですが、今回ブエルの被害者と遭遇したように、彼女たちも世界の不都合に出会うし、それを善意で克服していくことも出来る。
攻殻機動隊シリーズが電脳世界の闇の中から光を見つめる話だとすれば、このアニメは光の中を歩きながら闇を見落とさない話なのかなぁと、少し感じました。
主人公たる福音くんも不幸や悪意から特権的な位置にいるわけではなく、生来の病気で生身の肉体を失ったり、両親と死別したり、島に着くなり大事件に巻き込まれたり、色々影を背負った上で綺麗事に頭から突っ込んでいくところが、バランス良いところですね。

綺麗事を現実に変えるために、福音くんのチート性能が大事なのは間違いなく、大学には飛び級で入学し、おそらく『人間』の中でも有数の拓美ちゃんが肉体置いて行かないと処理できない電脳タスクを、息をするように突破していく。
この異常な性能が誰かを害したり、我欲を貫く方向に言ってしまうと色々ヤバいわけですが、福音くんは非常に健全かつ穏やかな性格をしていて、恋したガイノイドと一緒にいて、悲しい気持ちになる人の数を減らし、世界を平和にしていくことを望み続ける。
ウザルが義体改造を施し、パンドーラデバイスやクラリオンの使用許可を出したのも、その生来の聖人性を『面白く』思ったからなんだろうなぁ……あの人快楽主義者なんで『正しい』からって力は貸さないだろうし。

そういう性質に導かれて、福音くんは暴れてみんなを不幸にするブエルを止めるため武力を使ったり、空腹や不安という分かりやすい不幸をなくすために変身能力を使ったりする。
ある意味幼いとも言える純真な行動は、でもやっぱり見ていて気持ちがいいし、彼女たちを応援したい気持ちになる、ベーシックでオーソドックスなヒーロー・フィクションの強みです。
この『あえての真っ直ぐ』加減で士郎正宗ワールドを切り取ったことは、『欲しいところに欲しい球が来た』感じがあって、僕はとても好きです。
"RD -潜脳調査室-"も凄く『あえての真っ直ぐ』な話ですけどね、もう一回自分的なストライクゾーンに玉が来てくれてありがたい限り。


そんな電脳聖人見習い旅の相方を務めるのが、ジト目ガイノイドクラリオン
今週も福音くんの側にずーっといて、ずーっと仲良しな空気を出し続け控えめに言って最高でしたが、時々機械の純朴さでスゲー正しいことをいうのが良いトス上げだ。
基本的には福音くんがクラリオンの学習を助ける形なんだけど、クラリオンから学ぶことも沢山あるという相補的な友情関係がしっかり描かれているのは、ほんと良い。

作画面でいうとお料理アシスタントの時の猟奇的な格好が良かったですが、今回はとにかくかんたんクラリオンのオンパレードで、変なグルーブ感がありました。
作画体力の問題というよりは、原作再現なんだろうけど、スーパークールな性格で距離が離れがちなクラリオンに可愛げが生まれてて、良い演出だとも思います。
面倒くさそうなフリル服ちゃんと描いてるのに、顔だけがかんたんなシーンが面白かった。

クラリオンがプログラムされたマスター/スレイブ関係に支配されているのか、そこを飛び越えた自我をもっているかってのは、個人的には気になる所です。
ゴーストの有無が恋の値段を決めるわけではないけれども、二人の繋がりが世界のありようを根本的に変えてしまうような、ニューロマンティックな間柄だと僕が嬉しい。
これに関しては『福音くんは人類最強の電脳干渉能力を持っているので、ゴーストの存在を直感的に把握できているため、クラリオンが人間か機械か一切悩まず恋に落ちている』説を採用したいところです。
『人間とは、機械とは』という旧世代の問題意識をそもそも持っておらず、息をするように人と機械の境界線がない場所にたどり着いている所は、福音くんが人類種として別格なポイントよな。

そんなわけで、不思議な島に迷い込んだ女の子が、自分の道を少し見つける話でした。
社会見学という形で世界を見て回る回でもあったので、キャラクターも世界観も横に広がっていく、良いエピソードでした。
大きい事件が起きないと、福音くんとクラリオンのジワッとした仲良しが沢山見れるしな!(結局関係性萌えでダイナシマン)