読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

昭和元禄落語心中:第4話感想

アニメ 昭和元禄落語心中

男が男に岡惚れて、落語に恋して地獄絵図、迷う心に絡むのは、妖しく香る徒女。
昭和元禄落語心中、抑圧の戦争期をくぐり抜けて4話目でございます。
生来のフラの無さに悩む菊比古が、破天荒ながら勢いを活かした話で飛翔する兄弟子・初太郎改め助六にコンプレックスを感じつつ、運命のファムファタールみよ吉に絡みつかれるお話でした。
愛と憎悪、危険と魅力が隣り合わせに魂をよじ登ってきて、真面目な菊比古の人生がおかしな方向にねじ曲がっていく様子が、丁寧に描かれる『造り』の回だと言えるでしょう。

戦争が終わっても未だ自分の落語を見つけられないでいる菊比古に対し、二代目助六は様々な意味で先に行ってしまっています。
とっとと新しい名前を襲名し、座敷にも呼ばれまくり、自分のやりたい噺をやりたいようにやる。
まだ親代わりの師匠の元に熱心に通う菊比古と、その思惑をスパーンと飛び出し若手による芝居など企画する助六の間には、殻の中にいる子供と世界に飛び出した大人の差異があります。
そこは前々から菊比古が気にしているところでして、大人のふりをしようと女と付き合ってみたり、色々藻掻いてはいるものの殻を破れない。

どうにもじれったい視線は助六の背中に刺さって、"夢金"を堂々と演じる高座に妬みと羨望の入り混じった複雑な眼差しを投げることになります。
前座時代の勢いがありつつも前のめりな噺から、ド直球の下ネタでオチるのに下品さがなく、熱のこもった笑いを生み出す喋りに演技が変わっている所は、山寺宏一流石の名優加減というところでしょう。
枕どころか板に上がった瞬間に客を引き込むカリスマ、楽屋で菊比古にハタカれて上げた悲鳴すら笑いを産んでしまう天性は、菊比古にはないものです。
歌舞伎座に野心を燃やす助六と、せせこましく銭を節約することばかり考えている菊比古の対比は、残忍かつ的確に彼らの間にある『差』を表現しています。

そんな助六の性を妬みつつ愛しているのが菊比古という青年でして、喫茶店での金のやり取りに込められた親愛や、歌舞伎座に行くときの掛け合いなんかは、それ自体がまるで落語の一節であるような軽妙さに満ちて、目で見て耳で聞いてとても気持ちの良いものでした。
愛していればこそ追いつかなければいけないと焦り、妬めば妬むほど助六の才能を思い知らされる。
菊比古が助六に抱く捻れた愛憎が、非常にじっくりと描かれたエピソードだったといえます。


こういうコンプレックスを頭で考えて抜けだそうとしてしまうのが菊比古という青年なんですが、余裕なく稽古ずくめで抜け出せるものでもない。
そんな八方塞がりの状況にドカンと投入されたのがみよ吉という異物です。
落語家でもない、男でもない。
七代目八雲と助六の間で、ホモソーシャルな檻の中にいた菊比古は最初、その危うさに怯えるようにみよ吉を遠ざけます。
まぁ師匠の愛人ですから、こじれたらややこしいことになるのは間違いないんで、警戒レベル上げるのも当然っちゃあ当然なんですが。

頭ではヤバいとわかっているし、生真面目に一線を引こうとする菊比古をヒョイと乗り越えて、心と体にするっと滑りこむみよ吉の仕草は、閉塞した菊比古の人生を良くも悪くもゴロリと転がしそうな予感に満ちている。
逆に言えば、菊比古という屈折しているくせに殻を破れない面倒くさい男が転がり出すためには、ある程度以上の説得力がある、人間として大きな女が必要なんでしょう。
林原さんの徒な演技も相まって、みよ吉には何かが起こりそうな可能性(もしくは愛嬌)がしっかり生まれていて、良いキャラだと思います。

菊彦はいつでも生真面目、礼儀作法が仕上がった対応をしており、それが唯一崩れて素を見せるのが助六の前なのですが(貧乏長屋で煙草一緒に吸っているシーンでよく分かる)、今回見よ吉をグイと抱き寄せるシーンで、一気に菊比古が人を入れない懐に入り込んだのがわかります。
みよ吉と助六がおんなじくらいの重さで宿っているのも長屋のシーンで分かって、合い挽きの誘いをわざわざ助六に炊きつけて、反応がないと「なんも無しかい」と毒づく辺りは、菊比古のコンプレックスがみよ吉というテコを足場に、ゴロンと転がった印象を受けました。
助六のことが好きで好きでしょうがないのに、好きだからこそただ後ろには付きたくない面倒くささが全て詰まっていて、煙草のシーンはとても良かったですね……口唇期とキスのメタファーに溢れまくってて、咽そうになったのは秘密だ。

これがどう転がってどこに収まるのかってのは先の話になりますが、今回描かれた助六へのこじらせた感情に変化が生まれることも、菊比古の落語家としての質が大きく変わりそうなことは、予感としてしっかり演出されています。
師匠が言っていた『隙=余裕の無さ』ってのは、爆弾みたいにヤバい女を抱き寄せてしまう隙だらけの行動で既に破綻しているし、それに危うさがあるというのも、寄りかかってきたみよ吉を支えきれない菊比古の腰の弱さが巧く表現しています。
助六がみよ吉に抱える感情もじわりと仄めかされているので、男二人のこじれた関係に師匠と師匠の愛人、助六の二つ目に収まりきらない野心と才能が絡み、これまた面倒くさい事になりそうですな。
凄く楽しみです。