イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第4話『灰の舞う空へ』感想

ゲーム感覚と世知辛さが入り交じる灰色のファンタジー、今回は白後真っ黒。
前回見せた着実な成長が油断を誘い、頑張って上手くなった『殺し』が味方側に牙を向いてくるお話でした。
人が死んだら銭がかかるし、焼かなきゃゾンビだし、同じスタートラインだったはずの連中はイカす鎧付けて超強そう。
冷水というにはあまりにも厳しい洗礼が、何処にもいけない僕達に降りかかって、一番大事な人間を奪い去っていく回でした。

マナトの死はパーティの油断が生み出したものなわけですが、それを表現するのに『新スキルを手に入れてウキウキ! ゴブ公で試し切りしちゃう!!』といういかにもゲーム的な感覚を入れ込んでシーンを作るのが、最高に性格悪くて良かったです。
このアニメの『殺し』は非常に生臭く泥っぽいんですが、それを忘れるような清潔で楽しい新スキルの試し切りを前半に置くことで、視聴者の油断を誘うというか、この話のリアリティラインを一瞬忘れさせるというか。
金やら生き死にやらのストレスが強いアニメなので、視聴者(ていうか僕)もどこかでスカッとする展開を待ち望んでいて、無双を予感させる展開にガードを下げた所にドーン! という狙いを感じる構成でした。

実際PTメンバーも初期に見せていた『殺し』への忌避が薄くなり、文字通り『ゲーム感覚』ヒューマノイドの命を刈り取っています。
このライトでウキウキな感じが偵察を怠り、ゴブリンスナイパーの奇襲を許すはめになるわけですが、どん底のどん底時代が長かったので、浮かれるのも判る作りになっているのが面白いですね。
『ハグレものを囲んで殺す』という弱者の戦術で勝ちを積み重ねてきたPTですが、遺跡で派手に暴れすぎた結果ゴブリンの警戒を招き、役割分担とタクティカルな動きに長けた『ゴブリン側のPT』にキッチリ詰められる辺りは、残忍な因果応報を感じる。

最初のゴブリン殺し(未遂)で見せていた生っぽさがやっぱりこのお話の『殺し』の味であり、英雄的無双でスカッと『殺す』ってのは、少なくともこのPTには無理な話なわけです。
『殺すか殺されるなんだ!』という真実を第1話で告げていたのが当のマナトだって所に、ドライな因果応報を強く感じますね。
パンツで悩む主人公達と同じように笑い酒を呑むゴブリンをぶっ殺してんだから、同じようにぶっ殺されることもあるよね? ってのは道理ですし、そういう対称性をちゃんと描いてきたアニメでもあるので、今回のマナトの死は(少なくともメタ的な観客視線では)納得がいきます。
まぁさんざんこの状況のための整理はしてきたからな……。

襲撃時と蘇生処置のパニックは即ち、『殺し』には慣れ始めてても『殺され』には慣れていないPTの現実を巧く見せつけていて、安心した所にぶっかける冷水として良いヒステリーでした。
PTメンバーがそれぞれ『殺され』に個別のリアクションを返しているのはなかなか面白い見せ方で、現実を否定するものあり、怒るものあり。
ショック状態になるやつもいれば、比較的冷静に受け入れるやつもいると、イヤな意味で個性が見えた。
まるで遺言のように、全てが上手く言っていた時代の終わりにマナトが残した個別評価が、この『死への個性』と対照している所とか、ホント性格悪くて素晴らしい。


マナトは死に臨んでもパニックになることなく、しかしどうにも手のうちようがなく死んでいった立派なリーダーでした。
リーダーでヒーラーでアタッカーで、ともかくPTの要を全て奪われた主人公達の『どうすりゃ良いんだろう……』という呆然とした空気が、死に焦り悲しむ背景にじわっと滲んでいたのは、このアニメらしい生々しさだった。
死に方のあっけなさ、救命治療のドタバタ加減も、『持ってない』ダメ人間集団らしさが出てて、統一された演出指針を感じることが出来ました。
『崩すなら、致命的になるところを一番最初に崩せ』ってのが劇作の基本だと思いますが、キッチリ急所を抜いてったなぁ……今後どうすんのかなぁ、新キャラ投入かなぁ。

PT外のキャラといえば、第1話から出番のなかった『持ってる』連中代表のレンジくんが一瞬顔を見せ、ポンコツPTとは比べ物にならない立派な鎧を着こなしていたのも、素晴らしい性格の悪さでした。
『持っている』レンジPTは要領よく『殺し』『殺され』の稼業を渡ってトントン登っているけど、『持ってない』主人公PTはちょっと油断したら要がぶっ殺され、明日も知れないどん底に再び叩き落される。
この話がハルヒロを語り部として選んでいる以上、基本的には『持ってない』奴らの話で、そうそう巧く転がってはくれないという事実を、ショッキングな事件で再確認する話だったのでしょう。

毎回挟まれるお歌はエモくて結構なんですが、マナトの死は叙情的なイベントであると同時に生臭い現実でもあるわけで、ちょっと歌い上げすぎた気もします。
キラキラと灰を撒き散らかした後はリーダーを失ったPTをどうにか建てなおし、仲間の死のショックをケアし、再び『殺し』の日々に帰っていく活力の源を探さないといけない。
このアニメは隣り合わせの灰と青春が常に襲いかかってくる話だと思うし、そのシビアな切り取り方が持っている魅力は十分伝わってくるので、お歌演出の吹き上がり方はちょっと気になるところですね。
差し込み方としては”Aチャンネル”思い出すんだけど、あっちはゆるふわ可愛い系日常コメディだしなぁ……人が死んだりゴブリン殺したりしなけりゃ、ある意味こっちもそうなんだが……。


というわけで、死人が出て否応なく話が動く回でした。
ある意味こういう事態が予想される世界であり、こうなるよというサインもしっかり出ていたのですが、予定調和にならず作品の肌触りをしっかり感じさせる、良いエピソードに仕上げたと思います。
仲間が死んでも腹は減るし、パンツは汚れる。
イベントが空から降ってくるゲームじゃねぇこの世界で、どこにも行けないPTはどこに彷徨っていくのか。
楽しみでもあり、『楽しい』と言ってはいけないようなシビアな生臭さもあり、でもそれが楽しくもあり。
やっぱ面白いアニメだな、これ。