イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~:第5話『エレファンツ・ブレス』感想

青春とミステリが入り交じる日常の謎アニメ、今回は近代アメリカ史と美術史の知識が問われる後輩登場編。
やっぱこのアニメの日常の謎は常に『血縁へのわだかまり』と結びついていました、今回は少女と祖母と記憶喪失の祖父が織りなす、象にまつわるミステリーでありました。
『残忍な真実に辿り着いた場合、誰かを傷つけてまで公開するべきか』というテーマに切り込んだり、後輩が顔を出したことで人間関係に別のアスペクトが生まれたり、いつもどおりで気持ちいい部分と、新しいことやって楽しい部分がいいバランスだったと思います。
お話しのスタンスに馴染んできたこのぐらいの話数で、こういうスクリューがかかった物語を楽しめるってことは、このアニメの見せ方と自分の子のみ、結構相性いいんだろうな。

今回のミステリは『お前は押井守の小説か。"Avalon 灰色の貴婦人"もしくは"獣たちの夜 BLOOD THE LAST VAMPIRE"か』と言いたくなるような、引用の系譜で織り上げたタピストリーのようなネタでした。
1970年台のアメリカ社会史とマイノリティ、ベトナム戦争期の軍事知識、近代美術と文学あたりの知識が鍵になる、推理力というよりは博覧強記が必要な、トリビアルな展開。
このアニメ、地味に各話ごとに謎解きに必要な能力をスイッチして、飽きない工夫をしてくれてるところが好きよ。

ハルタは人情ないように見えて案外暖かいやつだってのが最近分かってきたわけですが、今回のジジイの真実は高校二年生が抱え込むには重たすぎて、より人間味が増した気もする。
あそこで言わない選択を取れる辺り、痛みを伴う真実より優しい嘘を選ぶタイプの探偵なんだなハルタ……このアニメ、ミステリとしての正しさより青春重点(何しろタイトルにも入ってるし)だと思うので、そのハンパさは好ましい。
前回姉という強者に対峙させ、今回人生のままならなさと格闘させたことで、非常に良い形でハルタの未熟さ・未完成さが表現されて、彼が青春物語が必要とし、必要とされるキャラクターなのだと納得できる展開で素晴らしい。
そして絵をパッと見ただけで最適解にたどり着く先生は、どれだけ強キャラ力を積み上げるのだろうか……これを切り崩してドラマを作るだろう、個別エピソードが今から楽しみ。


理性担当のハルタに対し、情担当のチカちゃんは今日も今日とて友だちと仲良く暮らし、後輩には優しくし、素敵なレディであった。
あの子が元気で優しい姿を見せてくれると、とても良い気分になれるので、成島さんと合わせて良いキャラクターだなぁとつくづく思います。
後輩ちゃんを抱きしめた時の柔らかい優しさの表現とか、アバンの成島さんとの合奏とか、今回はチカちゃんの懐の広さが良く出ていたように思う。
真相に辿り着いて悩むハルタにも、ちゃんと助け舟出してたしなぁ。
この包容力は怜悧な探偵であるハルタは出せない(出しちゃいけない)部分なので、この役割分担がしっかり出来ていること、そして特定の役割に拘泥しすぎず巧く領分を犯すシーンが有ることは、ストーリーとドラマが停滞しない大事な要素だと思うね。

今回も謎の被害者は身内に感情的しこりを持ち、それをハルタとチカが解きほぐす展開だった。
色んな年齢と関係の感情的腫瘍をミステリと癒着させて、これを主役が切開することでドラマの通りが良くなるっていう基本構図は、青春という季節とあいまって風通しが良く、このアニメの好きなところだ。
こういうベーシックな気持ちよさは何回体験してもいいものなので、基本構図に据えたのは巧いし好き。
先述したように、細かい所はしっかり捻ってバリエーション出してくれてるしさ。

ミステリ的腫瘍を取り除かれた患者の予後が丁寧に描写されることで、『ハルタが謎を解いてくれて、とても良かったな』という気持ちになれるのは、このアニメの良い所だ。
成島さんが最高の成功例だが、後輩ちゃんは今後部活で顔を合わせることも多いだろうから、まーたチカちゃんとキャイキャイして俺が嬉しい気持ちになるのだろう。
控えめに言って素晴らしい、最高である。
吹奏楽関係の描写が弱いのは残念(チカのフルート修行とか、掘り下げると面白そうなネタだった)だが、この作品においてブラスバンドはあくまで遠景というか、青春を収めるフレームなのだということも、五話続くと見えてくる。
焦点を青春とミステリにキッチリ合わせた結果なので、大きい不満はないというか、そっちの切れ味鋭くてありがとうございますというか。
色々狙ってどれも外すより、真ん中にきっちりメインを据えてやりきってもらうほうが、当然ながら満足度は高いわな。


というわけで、少し苦くて、でも希望が残る読後感の良いお話でした。
ニヒリズムに陥らずに、前向きな方向にお話を前進させて終わる所は、このアニメのとても良い所やね。
かくして素早く一年が過ぎてまだまだハルチカの青春は続くわけですが、二年生になった彼らがどういう変化を迎え、何が変わらないのか。
まだまだ見守っていたい気持ちにされる、良いアニメだと思います。