イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

NORN9 ノルン+ノネット:第5話『微睡む森』感想

謎と面倒くささが交錯する乙女式能力ミステリー、今回は"ごめんね素直じゃなくって、夢のなかなら言える"系の真相大暴露大会。
夢使いの一月さんが能力を駆使し、関係者全員(除く晴彦さん)を面倒くさい制約抜きで共通幻想の中に放り込む回でした。
童話類型を巧く使うことで今どき乙女の積極性が目立ったり、夢や民話が持つ『抽象化された真実性』を活かしてキャラクターの秘密が一気にオープンになったり、実はめちゃくちゃ話しが進んでもいる。
賑やかでファンサービス的な話としても楽しくて、この話数で行為う話が出てくると、シリーズ全体を信頼できて良いですね。

夢や童話というものは、抽象化され単純化されているからこそ余計な覆いを外し、真実に近づけるパワーを持っています。
今回のお話は『夢のなかで童話を再演する』という形式を取ることで、両方の根源的なパワーを活かし、キャラクターの本心であるとか、秘めている過去だとかを無理なく引き出すことに成功していました。
抽象化がもたらす真実へのアプローチは乙女ゲーというジャンル、創作という活動そのものが宿している強力なパワーでもありますので、夢と童話の力を使いこなした今回は、すなわちこのアニメがお話を語る姿勢が、結構しっかりしたものだと証明しているように思うわけです。

元々美術が良いアニメなんですが、童話の世界に迷い込み、夢を渡る不思議なエピソードに相応しい、雰囲気のある背景が活きていました。
絵画の中をさまようような独特なタッチの美術は、今回キャラクターが置かれている世界が通常のルールに支配されない、特別な力を持っていることをしっかり下支えしています。
雰囲気というのは醸しだすのにとても労力を必要し、かつ『すっげー頑張りました! どや!!』という顔をすると逃げていくこともある、なかなか扱いの難しい要素なのですが、ストーリーやシーンに必要な空気を出すこのアニメの努力は、とても成功していると思います。

夢という免罪符を手に入れ、今回は色んな秘密がオープンになりました。
元々謎だらけの状態からいきなり始まり、それが表になっていくことがお話を進めていくエンジンになるという、謎解き物語やミステリの構図を持っているこのアニメ。
しかし秘密を握りこみ過ぎるとストーリーやドラマの進行に支障をきたしたり、キャラクターへの感情移入のタイミングを逃したりします。
夢使いの設定を巧く利用し、非常に特殊な空間にキャラを放り込むことでスムーズに秘密を開示しつつ、童話を再演するコメディ的楽しさを入れこんで、説明臭さを消す。
ファンサービスの裏側に、一挙両得のテクニカルな劇作技術が垣間見え、なかなか面白かったです。


そんな感じで丁寧に作られた舞台で、どんどん明かされる秘密と感情。
『感情のうねりは、基本女の子と攻略対象で仕切りを作って流す』という基本ルールに従い、今回も桃・黒・青のノルンごとにドラマが展開していました。
キャラの間に『攻略対象』という間仕切りを用意して、必要以上に場が混乱しないようにしつつ、細かい交流は確保する作り方は、登場人物が多いこのお話を混乱させず運ぶ良い手筋だと思います。

桃ノルンことこはるちゃんは恋愛レースのゴールにいの一番で突入して、クッソ面倒くさい毒りんごボーイをガッツリ齧りに行きました。
駆が周囲に張り巡らしている心理的障壁を飛び越え、一気に胸元に入る感情の動きが、『崖を飛び越える』という分かりやすいアクションになっているのは、好みの表現だ。
危うさとか痛みとか含めて、こはるは駆くんの手を取ることを覚悟したということであり、遠矢さんと千里はご愁傷様である……まぁルートの目、これまでの描写から見てもほぼなかったからな。
駆くんの自己評価の低さというか、己の闇への怯えが内通者だからなのか、はたまた生まれによるトラウマなのかはいまいち判別しかねるが、そこら辺は内通者カードが表替えってから見えるところかな。


青ノルンこと七海ちゃんもほぼ暁人さんとマンツーマン状態で、お互い憎からずというかラブラブな本心が良く見える展開。
ひっそりと七海の能力が記憶操作だということが分かったり、それが原因で『殺されても良い』と思えるような後悔を背負ったり、ニンジャであったりという、秘匿情報が色々開示されていました。
やっぱ七海ちゃんは表情には出ないけど感情の振幅が大きい子でして、表面と中身の落差ってオーソドックスだけどやっぱ良く効く。
メイン攻略対象が分かりやすいツンデレなのもあって、三人の中では一番分かりやすい振れ幅が話の中にあるキャラだと思います。

なんか大事な誰かの記憶をぶっ飛ばされ、暁人は七海を憎むようになったが、そもそも幼馴染でラブラブだったという……大勝利確定設定やな暁人くん!!
暁人くんはケモミミ生やすわ料理はうまいわ分かりやすいツンデレだわ首絞め病み要素も持っているわ、過積載気味ながら火力の高いキャラだと今回思いましたね。ズルい。
『己の憎悪と殺意が具現化し、それを明確に否定する』という展開は夢の持っている深層心理へのアクセス能力を活かしたシーンで、分かりやすくて好きです。
シャドウ暁人が水に変わってたけど、『水使いが誰か』はまだ公開されてない情報だからなぁ
……今回の交流が『水使い』の影響にあるのか、はたまた夢のなかでは素直になった結果なのかは、これが確定しないとどうとも言い切れない感じだ。


そして超めんどくさいことになったのが、黒ノルンこと深琴ちゃん。
まず一月さんが夢使いの能力を使ったのが、深琴の本当の気持を探るため≒自分が選ばれなくても、深琴が本当に好きな人と手を取らせるためってのが、最高に面倒くさい。
お前自己犠牲系トス上げ年上見守り系大臣かよ……俺の好みのタイプだ。

負け犬かと思われていた朔夜くんは、未来視の能力で己の死を把握し、その条件が『誰かを好きになる』ことだったので、好き合っていても結ばれてはいけないという悲恋要素を持っていたことが判明。
イケる! この要素を伸ばしまくり、愛ゆえに運命と因果すら捻じ曲げる展開に入れば、『人のよい幼馴染みは、負けのブランド』という間違った定形をぶっ壊せる!!
実際の話、死の運命が二人を分かつ恋ってのは温度高いし、朔夜の能力が明らかになったと思ったら『んじゃあどうやって運命を乗り越えるのか(はたまた、乗り越えられず悲恋で終わるのか)』というミステリが生まれてくる燃費の良さは、メイン級で全然イケるパワーを感じました。

そして深琴が一月さんに抱かれてる姿を見せつけられ、大ショックな朔夜くん。
一瞬『すわ、バス停シャワー的展開か!!』と身構えたけど、まぁ軽く"SHOW ME"流れるくらいですんだわ。(ジュエルペットサンシャイン好きマン)
夢は認識が支配する空間なので、虚飾を剥ぎとって素直になれる利点と、事実より願望が優先してしまう危うさが同居しているわけですが、前者で都合のいい方向に話を回すだけではなく、後者をしっかり拾ってきた目配せは好きですね。
すんごい勢いで深琴×朔夜周りの話が廻ってきましたけども、夏彦さんはノルンに居住してない蚊帳の外勢だからなぁ……今回加速したドラマに、どういう角度からぶっこんでくるのか、今から楽しみ。


本筋を手際よく進めるだけではなく、幻想的な空間でトンチキな役を押し付けられるコメディ要素や、色んな衣装と役柄でお色直しを楽しむファンサービスもしっかりしていて、息抜きエピソードとしても機能しているのが良かったですね。
童話(正確に言うと、現代に入って原点から再構築された商品的童話)は『女は王子様に抱えれるトロフィーで、黙って悲劇に翻弄されているもの』という抑圧的役割を女性に押し付ける傾向がありますが、童話の枠をぶっ壊してガンガン前に出る女の子たちの姿を見ていると、ここら辺の類型から一歩はみ出す乙女ゲーの傾向を感じます。
ここら辺は童話再構築の最前線にいるディズニーが、"リトル・マーメイド"あたりから徐々に変化させ、"魔法にかけられて"でジョン・ラセターが明確に舵を切らせた方向性と、結構重なっている気もしますが、まぁ分析できるほど乙女ゲーちゃんとやってねぇからな俺……勉強せんと。

夢という特異な空間を利用し、いろんな事がスムーズに明らかになる、面白いエピソードでした。
『今回明らかになった本心はあくまで夢のなかであり、ここで示されたラインで話は進んでいくんだけど、夢を現実にするためにはワンクッション必要』という加減も含めて、このタイミングでやることが相応しい、良い整理回であり方向性提示だったと思います。
とりあえずこはると七海は本命がど真ん中に来てルート確定って感じだけど、深琴は読み切れんなぁ……収束するお話ばっかだと物語の勢いがなくなるわけで、1ルートくらいは拗れるお話があって良いのか。

今回見せた甘い夢を現実にするためには、乗り越えなきゃいけないハードルがたくさんあります……夏彦さん出てねぇし。
朔夜と深琴の間にある不吉な預言も、どうにか変えていかなきゃならんでしょう。
ただ状況を整理するだけではなく、乗り越えるべきハードルもちゃんと明示していたのが、整理回としてよく出来ている証拠だと思います。
これを突破する過程が合ってこそ、お話は盛り上がるわけで。

そんな流れを受けての来週は、不思議な飛行機械のビームで、ルノーFT17っぽい戦車が蒸発してた。
なんでコメディ夢演劇回の直後に戦争やねん……読めねぇ……このアニメまじ読めぇね。
『世界』によって支配されている外の世界を掘り下げる回なのかなぁとか思います(日本陸軍ルノーFTを輸入するのは1919年)が、さてはてどうなることやら。
楽しみですね。