イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

NORN9 ノルン+ノネット:第6話『動き始めた歯車』感想

閉ざされた理想郷が浮遊するセカイ系ミステリ、折り返しの第六話は恋と戦争。
アバンでじっくり時間を使い、前回の恋愛夢爆弾が与えたダメージを描写しつつも、内通者が活動を開始し、ノルンの外側では『世界』に敵対する存在が胎動を始める。
このアニメの強みである『能力モノ、ミステリ、乙女ゲーをバランス良く扱うセンス』が迸り、物語の歯車が噛み合って加速するお話でした。

複数主人公と複合ジャンルを横断しながら進む複雑なこのお話、一話の中で色んな事が起こります。
しかし『ヤバイ状況で、イケてるメンズと、キャイキャイして胸キュン』という乙女の心臓鷲掴みポイントを絶対外さず、毎回ちゃんと描写して話の核に据えているのが強いところです。
今回もまず前回の夢舞台が引き起こした変化を各ヒロインごとに描写し、恋愛方面の整理を図っていました。

毒りんごをがっぷり齧りに行った肉食系草食女子こはるは、完全に駆くんルート確定という感じです。
クッソ面倒くさい自己評価低男である駆くんはファザコンまで併発していたため、ライナスの毛布である耳飾りがなくなり、能力的インポに陥る。
しかしこはるが時にはグイグイ、時にはシャイに緩急つけた攻略をぶちかまし、『まぁ親父いなくても、この子いれば良いや』と心に整理を付け、ようやく面倒くささに少し整理をつける……と思ってたら、ロンが余計なことをしたせいで少し拗れそうだ。
これまでポジティブに描かれていたこはるの無垢さを、トラブルのタネに使う話運びは素直に上手くて、良い立体感だなと感心する。

『相手は確定しているのに、外野から波風が起きてもどかしい』というのはおそらくこはるルート特有のモヤモヤポイントで、各主人公ごとにモヤっぷりが違うのは複数主人公を活かしていて面白いところだ。
深琴の場合は『夏彦さんと朔夜、どっちが勝つの! もしくは夢繰り一月が横合いからかっさらうの!?』という『WHO』のモヤモヤで、七海の場合は『好きなのにあの人とは敵同士!! どうすれば気持ちが伝わるの!?』という『HOW』のモヤモヤというか。
追いかけるものが違えばその途中の恋愛模様もまた変化するわけで、三者三様の恋愛マラソンにそれぞれ別の障害を用意し、恋愛描写を立体的にしているのは技巧的かつ有効だと思う。

七海に関しては夢爆弾が凄く巧く効いて、素直になれないピリ辛ボーイだった暁人さんが超音速で突っ込んできた。
やっぱアレだな、古典的男ツンデレが自分の気持に素直になり、未来を描くために目覚めた心がコネクトダッシュする瞬間は、いつでも最高だな。(※コネクトダッシュ:まどマギOP"コネクト"のサビで、まどかが覚悟を決めて不器用に走る一連の流れ、およびそこに象徴されている物語性を他のお話に適応するときの形容語。『日常、略奪、不安、決意』という物語の基本類型が90秒に圧縮されたあのOPは、歌詞と映像のシンクロ含めてやはり傑作だと思う)
真実の気持ちを確かめ合った二人にもはや障害はない気がするが、不器用な甘々カップル初心旅を見せてもらってもいいし、ガンガン武力を叩きつけてくる外界を障害にして盛り上げてもいい。
青ノルン組はオーソドックスで素直なキャラ造形が有利に働いていて、お話がどう転んでも楽しめそうなところが良いね。

一方七面倒くさい恋愛担当の黒ノルン組だが、『好きな人のために死ぬ』という朔夜の予言がデカい障害になっていて、他の二人のようになかなか素直にはなれない。
おまけに深琴の結界能力がノルンの核すぎて、敵対勢力の最優先排除対象になっているのも逆風。
そろそろ夏彦さんと接触すると思っていたのだが、むしろ朔夜ガン推しな展開であり、『姫のために、傷を受けても守り通す』という美味しいシチュエーションを貰っておった。
いいぞ……このまま勝て!! 夏彦さんきらいじゃないけど!!(『幼馴染は負け犬』という恋のドグサを排除したいマン)

ロンの暗躍もあって、朔夜の未来視能力が視聴者だけではなく、キャラクターたちにもオープンになった。
あの会議での深琴の朔夜ガードっぷりは正しく黒髪ロングに求められる清廉潔白な優しさに満ちていて、オッサン見ててほっこりなったが、それはさておき『未来視』『過去視』は扱いを間違えば状況が破綻する、能力ミステリの天敵である。
能力を完璧に制御させず、都合のいい情報だけを細切れで見せることで、推理の破綻を避けつつうまく状況を転がしているのは、良い手綱さばきだ。
深琴の救助に繋がったことで、朔夜の未来視が自分の死を約束する『マイナスの能力』というだけではなく、『プラスの能力』という両義性を持っていると示せたのも、なかなか良かったな。


そんな深琴が窓口になりそうな、ノルンの外側も今回かなり描写されていました。
夏彦さんと鬼畜そうなメガネが色々喋ってましたが、情報量が多くて混乱するレベルだ。
箇条書きにすると

・夏彦さんはリセット否定派&戦争否定派
・メガネはリセット否定派&戦争推進派
・『世界』はリセット肯定&戦争否定派

となっていて、夏彦さん一派とメガネ一派『世界』に敵対しつつもそれぞれ違う立場と。
『世界』は『リセット』なる地球規模の行動(破滅?)をちらつかせつつ、全地球的に戦争や武力を抑圧し、おそらくは『争いのない平和な世界』という本来の歴史とは違う時間を捏造しているのだろう。
スーパーテクノロジーを有する『世界』は抑圧的に人間の本性を押さえ込んでいるけど、メガネの言うように完璧ではなくて、随所に火種がくすぶっている(もしくはメガネが燃やしてる)状況なのだね。
……乙女ゲーの舞台みたいなオモシロお船に、イケメンと美少女拉致ってる場合じゃなくね?
(世界を揺るがす疑問)

ノルンに集められた少年少女と、集めた『世界』の活動がどう絡むのか……いまいち読みきれんけど、『リセット』に関係してんのかなぁ。
ここら辺はおそらく大ネタなので、カードが表になったらお話がまとまる合図だと思うけども。
あとあの意味ありげに微笑む青いネーチャンな……黙ってないで核心を言え核心を!(我慢できないマン)
メガネと夏彦さんが代表する『外側』の視点は、ノルンの『内側』で恋に夢中なボーイズ&ガールズに世界が委ねられちゃう風通しの悪さをぶっ壊す、非常に大事なポイントだと思うので、今後もチマチマ描写を入れて欲しいところだ。


内通者の方も大量のヒントが出て、ロンでほぼ確定です。
何かと不和を拡大する言動、ツーマンセルのはずなのにソロでウロウロする自由っぷり、正宗さんの過去視、襲撃時のアリバイなどなど、まぁ真っ黒だ。
『世界』によって戦争が抑圧されている中で、内通者≒敵対者は『銃』という暴力のアイコンを持っているあたりが、細かい描写でしたね。
主人公達は『能力』というナチュラルな兵器を内包している存在なわけで、『銃』という外部化された暴力を握ってるから敵ってのは、ビジュアル的に分かりやすい。
女を殴ったり戦艦を爆発させたり、悪いことしかしない『武器』の描写と、食べ物が育ったりおもしろ淫夢が見れたり人を守ったり、プラスの側面もあるよう描写されている『能力』の対比も含めて、印象の系譜づくりに関してこのアニメ、結構細かいし成功していると思う。

『誰が内通者か』という秘密がオープンになるタイミングで、正宗さんはやる気のない地方公務員みたいな『世界』との連絡で忙しいという描写、一月さんは夢舞台を準備してボーイズ&ガールズを素直にさせる人情の描写を挟むことで、年上の容疑者たちの疑念をちゃんと晴らす展開にしてあるのは、ミステリ捌きとして巧いと思う。
ここで疑念が貼れないと、『では何故、ロンは内通しているのか』っていう『WHY』の段階に視聴者の興味がシフトできんしね。
……正宗さんは事務連絡に忙しくてロンの跋扈を許してるし、一月さんは朔夜にNTR疑惑を発生させてるしで、人情があまりプラスに働いていないのは面白い。

内通者といえば、うっかりスタッフロールを一時停止した結果、あのメガネが『結賀史狼』であり声がハマケンであること、つまり駆くんがコンプレックスを抱いている父親であろうことと、第1話でこはるにチョカイかけてた『旅人さん』でもあることが見えてしまった。
兼役かもしれんのだけど、ヒロインであるこはるがノルンに乗る切っ掛けを作り、孤独という彼女の根幹を癒やした人物が、攻略対象と同じ苗字ってのは、物語展開的に美味しすぎる一致でしょう。
しかもメガネはノルンと敵対する立場にいるわけで、ロンという『見えている内通者』の奥に駆という『見えない内通者』を隠して、こはるにガツンと一発入れる展開があるかも……ないかも……って感じだ。
こう見ると今回駆のファザコンがこれでもかと強調されていたのも、比較的スムーズに毒りんごの毒が抜けて二人がラブラブになったのも、今後の布石ってことかなぁ。


そんなわけで、恋に陰謀に戦争にと、色々忙しいのるんのるんびよりでした。
『感情面でのモヤモヤは早めに確定を出しつつ、これまで隠してきたた世界の謎が徐々に明らかになって、それが恋の障害にもなる』っていう全体の流れは、ストレスとカタルシスのバランスがとても良くて、見ててワクワク出来ますな。
ミステリとしてのヒントの出し方もなかなか的確で、裏を予測する楽しみがちゃんとあるのは、複数ジャンルを欲張りに盛り込んだ甲斐があって、非常にグッド。
この後も色んな恋が転がり、世界の謎が明らかになり、隠していたキャラクターの気持ちが分かってくると思います。
その答え合わせだけではなく、少年少女のピュアラブにちゃんとドキドキできる所が、こ之亜に目の一番好きなところだ。
そういうのが確認できる、良いエピソードでした。