イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第20話『相棒』感想

海だ! 魚だ!! 生臭い政治的綱引きだ!!!
地球に降り立ってバカンスってわけにもいかない、泥まみれ少年少女サバイバルアニメ、今週は選択肢の前の少年たち。
やっぱり一筋ではいかないムジナだったジジイに追い込まれ、ドカンとでっかく張りに行きたいオルガと、兄の死という重たすぎる現実を背負って戸惑うビスケ。
鉄華団を地球まで引っ張ってきた2つの頭が衝突しつつ、お互いの大切さを大人に教えられる回でした。

今回の主役はやはり鉄火団のお父さんオルガと、鉄火団のお母さんビスケット。
危うい博打に勝ち続けてきたカリスマ……を演じる少年と、帰る場所も守るものも持っているとたっぷり描写されてきた参謀では、そら決断も食い違うわという回でした。
火星に残してきた家族であったり、ミカの視線に急かされるオルガを『(……この人アカンわ……)』と呆然と見ていた描写であったり、痛みを込めて描いたサバラン兄さんであったり、過去の描写が全部積み重なってこのすれ違いに納得できるのは、非常に幸せなことだ。

ビスケが弱気になっている最大の原因は兄さんの自殺ですが、これが革命の乙女クーデリア≒鉄火団の栄光と背中合わせな所に、底意地の悪さが感じられます。
コロニーが獲得した自治の裏では、クーデリアになりそこねたサバラン兄さんの屍が無残に吊り下がり(足下が液体で濡れてるのが、本当にえげつない)、今後クーデリアが積み重ねていくだろう勝利には、常に犠牲がつきまとうことを連想させる、上手い作りです。
鉄華団にとってはサバランはあくまで他人で、死んでもそんなにダメージがないところも残忍でいい。
その犠牲に『家族』であるはずのビスケットがついていけず、離反を考えてしまうところも含めて、実はオルガ通りすぎてクーデリアにまで届く展開な気がする。

オルガのミカからの期待に応えるべく、新しい景色を求めて博打に出たい気持ちもまた、これまでの描写の上に乗っかったものです。
しかしその博打で死人が出る可能性は、ビスケが指摘したとおりいつでも現実になる。
あの時決定的な離別をしたとしても、ビスケットにとってサバラン兄さんは鉄華団同様(もしくはそれ以上の)『家族』であり、その死の痛手をもう一度体験することを考えると、なかなか頷けない賭けなのでしょう。
しかしオルガは守ってやりたい家族がいるでなし、体の中で渦を巻くのはミカに良いところ見せるのと、鉄華団をもり立てるのと、自分の信じた筋を通し一角の存在になる野心なのです。
サバラン兄さんの死が表面化させたのは、ビスケットが前に進む理由である大事なものと同時に、オルガが前に進まなければいけない空虚さでもあるんだろうなぁ。

そんな感じですれ違った二人ですが、ビスケには雪之丞さん、オルガにはステープルトンさんという大人がそれぞれしっかり付いて、気持ちを受け止める仕事をしていました。
蒔苗のジジイでイヤーな大人を見せつけた上で、子供の気持ちを受け止め道を示してくれるいい大人の姿も見せるバランス感覚は、オルフェンズっぽくて良いなと思います。
彼らと対話することで少年たちは、失うことの恐怖の裏にある明日への希望、お互いがお互いを補い合ってここまでやってきた掛け替えのなさを思い出せる。
すれ違いがこれまでの描写に乗っかった真正のものだとしたら、ここで確認されている気持ちもまた本当のことでして、2つの本当をどうすり合わせるか、大人たちはその材料を巧く用意してくれたといえます。
何かと迷いがちで、気持ちに押し流されがちな年頃の少年たちにとって、行為う存在がいるってのはありがたいことなのでしょう。

その上で、悩んでいる時間を与えず、面白愉快機動部隊のカルタの襲撃というイベントを起こし、アクションの中で感情を高め、取りまとめていく作りに仕上げたのは、場がダレなくて素晴らしいといえます。
材料を用意し大切なモノを思い出さえる時間はしっかり与え、今後の展開をだいたい予感させているところも、過不足がなくてグッド。
なんか次回予告でMSに乗っかってたけど、兄の悲惨な自死に続いてビスケまで失われるってことはないと思うので、巧く乗り切ってほしいものです……いやマジで、俺のビスケ死んじゃうとか耐えらんないマジ。


二人の舵取り役がぶつかる中、他のメンバーは比較的ほのぼの魚とか食ってた。
元々メシの描写で状況や感情のリアリティを確保するのが上手いアニメなんですが、今回の魚への対応は火星の貧民層・富裕層の差、テイワズで比較的文明的な暮らしをしていた女達との差が分かりやすく伝わってきて、かつコミカルで暖かくてとても良かったです。
マリーはほんと、『愛されなかった子供』の描写が執拗かつ強烈だなぁ……(脚本に作家の人生史を、勝手に見取る下衆の手本)
パット見魚料理がちょっと異質な感じに受け取れるように絵を仕上げているところとかも、火星の少年たちの拒否反応に巧く共感できるよう工夫されてて、巧いなぁと思いました。

これまで話の軸になっていたミカがコメディアンの仕事を担当し、比較的目立たない一に引いていたのも、局面が変わったことを示していて面白かったです。
やっと地球に降り、さあ希望に向けて前進! と意気込むクーデリアに、蒔苗のジジイが苦い水をぶっかけたのと、対照的な描写だったなぁ。
しかしそこで凹むのではなく、鉄華団が尻込みした魚をモリモリと頭から食うバイタリティは頼もしい……ほんと、フミタンの死でお嬢は全く変わってしまった。

受けた依頼を一応果たし、商売としては付き合う道理がない鉄華団のモチベーションをしっかり確認するお嬢は、凄くいい仕事をしていると思います。
表面的な理由が終わってもなおしがみつくからこそ、お嬢と鉄華団の繋がりは『家族』なのだろうし、それを確認するためにも、視聴者の頭に浮かんだ『?』を解消する上でも、『』もう仕事終わったし帰れ!』は良いトス上げだ。
TRPGでも、『もう仕事は終わったんだ、カネは払ってやるから消えな』ッて言われると、スムーズに『いいや、この事件は俺の事件だ』って出てくるもんなぁ……(メディアの違いを理解せず、すぐ自分の方に引き寄せるマン)

蒔苗のジジイは好々爺然とした表情と実務家の顔を巧く麦人さんが切り替えて演技して、一筋ではいかないオーラをだしていました。
バリストン親分にしてもノブリスにしても、オルフェンズ世界のオッサンやジジイは理想では全く動かんなぁ……。
そうすることで青臭い理想に人生を賭ける若人たちが輝く部分もあるし、彼らがいることで単純な夢物語で終わらない苦味が出ている部分もあるので、良い配役だ。
しかし別の経済圏の利益になるようお嬢と鉄華団を使いこなしている辺り、優秀な売国奴やな蒔苗。

そんなオセアニアサイドと対立するギャラルホルンだけど、ガエリオさんの潔癖症の理由が少し見えたり、アインくんがメカアインくんに改造されるかどうかの瀬戸際だったり、ギャラル式部がリベンジに来たりした。
サイボーグ技術が忌避されてる理由がギャラルホルンのプロパガンダで、それを告発するのが既存の価値観から自由な養子のマクギリスってのは、皮肉が効いてて良い。
ここで清濁併せ呑むニューガエリオに変身するのか、はたまた潔癖なままでいるのか、気になる所です。
アインくんがどんな改造人間に仕上がるかも気になるけどね……なんだよ阿頼耶識の真の姿って……。


というわけで、地球にたどり着いても旅は終わらず、さらなる波紋と絆が広がるお話でした。
世界全てがクーデリアを取り囲んできたことで、何故少年たちは鉄華団であり、クーデリアを『家族』としているのか、問いなおす状況がいい塩梅に整ってきました。
意地を張って己の証を建てようとする白髪の狼と、2つの『家族』の間で思い悩む知恵者は何を選びとるのか。
楽しみであります。
そして俺のビスケマジ死なないで……マジ……。