イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第7話『ゴブリンスレイヤーと呼ばれて』感想

ダメ人間たちのじんわりファンタジー人生絵巻、今週はツンツン僧侶を攻略しよう・後編。
メリイのトラウマを知ったものの、即座に全部うまく行くほど人生うまく泳げないボンクラが、しかしじっくりと距離を詰め、足場を作るお話でした。
ここでスムーズにメリイと仲良くなるのではなく、ランタのウザさと鬱屈に立ち止まる歩調ってのは、非常にこのアニメらしくて面白かったですね。

ランタは吉野さんの好演もあって、いい塩梅にうっぜーエゴイストに仕上がっておるのですが、そんな彼にもプライドはあるし、正論も言う。
自分たちと同じように仲間を失ったメリイへの共感は大事なんだけど、ではメリイは自分たちに共感しないのかというランタの言には、一理以上の正当性があるわけです。
自分を大事にしてくれない相手を尊ぶのは難しいというランタの言葉は、元々綺麗事で義勇兵人生を飾っていないこのアニメにおいて、視聴者にもうなずける。

頷けるんだけどやっぱランタはマジウザくて、自分勝手で、素直に受け取るには苦すぎる意見でもあって。
そういう『どうとも言えない感じ』を大事にしてきたから、このアニメは独特のゆったりした歩調で進んできたわけだし、その歩調自体が両面性を切り取る大事なメディアでもある。
だからまぁ、メリイの過去と現在に対する意見の『どうとも言えない感じ』はこのアニメが七話まで続いてきた結果手に入れた、このアニメにしか出来ない良いシーンだったと思います。

メリイへの反感だけではなく、ウザい自分自身を認めてくれない周囲への反発や鬱屈もにじませたのは、ただウザいだけではない生々しさが良く見える描写でした。
周りのことをなんにも考えず自分勝手一本槍で生きているように見えるランタも、当然繊細で脆い自我ってのは抱えてるし、パーティーの仲間への暖かな感情ってのは持っている。
しかし感情の全てがウザく自分勝手に出力されてしまう因果を持っている以上、それは素直には伝わらないし、出てきたものが他人を傷つけてギクシャクもする。
だからランタへの扱いは自業自得ではあるんだけど、そういうふうにスッキリ割り切れない『どうとも言えない感じ』をこのアニメはしっかり捉えていて、苦笑いしつつ『まぁ、メリイだけじゃなくお前も変われよ……』と、困った友人にするように思わず語りかけてしまうわけです。

リーダーとして前向きに成長しているように見えるハルヒロが、無意識かつ無邪気に持っている、ランタを下に見る視線。
何気ない仕草の中に現れる優越意識もやっぱ細かく切り取られていて、例えばメリイに『PTの中で一番の男は誰よ?』という冗談が不発に終わった後の、ハルヒロの言葉はなかなか酷い。
人間として成長途中にあるはずの主人公が持っている脇の甘さ、頑張りつつもダメ人間は根本的にダメなのだという容赦のない視線がちゃんとあるのは、このアニメらしくていいなと思います。


そういうダメな連中が、しかしダメなりになんとか前に進んでいこうと願い、実際に小さな成果を掴んでいくポジティブなところも、このアニメらしい魅力です。
今回で言えば、ハヤシさんの告解を折り返し点にして、ジワジワとメリイとの距離を縮め最終的には同じ飯を食うところまで行く、地道な変化にちゃんとたどり着くところですね。
これはメリイの変化であると同時に、マナト亡き後否応なくリーダーに座ったハルヒロの変化であり、彼に率いられるパーティー全体の変化でもあります。
相手に求めるランタの態度ではなく、まず歩み寄り胸襟を開いていくやりかたをためしてみるという勇気。
前々回、マリイと上手く行かないパーティーや、マナトの死を巧く処理できないぎこちなさを丁寧に追いかけたことが、今回の小さなカタルシスを大きく感じさせる足場になってるのは、うまい構成ですね。

一見動きの少ない小さな感情の襞を丁寧にかき分け、悲しみや不器用さをじわりと追いかけた結果、今回見せた小さな気持ちの変化が、見た目よりも遥かに大きく感じられる。
このアニメはあえて物語の歩幅を小さく、時にはでんぐり返りをしながら異世界と、そこに呼び込まれ戸惑う青年たちを、苛立たしいほどゆっくりと描いてきました。
今回で言えば、メリイが声をかけられた後の小走りだとか、メシを一緒に食うという小さな変化の喜ばしい見せ方だとか、そういうマニアックでフェティッシュなイベントの切り取り方は、第1話からずっと緩んでいない。(これは中村監督が脚本から音響まで、製作のかなりの部分を背負ってるのが大きいと思います)
今回マリイとの関係の変化に感じた楽しさの独特さは、表現の独創性と深く関わっている気がしますね。

人間関係の足場をしっかり固めた結果、ゴブリン殺し稼業も(出来る連中に揶揄されつつ)順調に進み、スキルが増えたり装備が変わったり。
兜の値段を巡るやり取りは、人生にもこの世界にも慣れていない時カッパがれていた過去を巧く土台に使って、彼らが手に入れた強かさを巧く表現していました。
マナトが死ぬ直前に感じた『何かいい感じ』と同じことが起こっているのですが、土台をしっかり固めたためか、あの時漂っていた危うい感じは薄れています。
お歌の演出が久々に挟まっていたけど、ナレーションを混ぜて情感だけで画面を構成しないようにしたことで、重たすぎるシーンにはなっていなかったと思います。


かくして実力をつけた六人ですが、マナトの死という悲しい過去を乗り越える意味でも、お話になんかスカッとするランドマークを刻む意味でも、ゴブリンパーティーとの対決に入っていくのでしょうか。
リーダーを演じつつも不安定なハルヒコの心理は、何かあるとマナトの死靈と会話するところにも現れているわけですが、目に見える形でケジメをつけることで、少しは安定するんですかね。
今回高めたリベンジの気配をどう使ってくるのか、素直に大勝利なのか、はたまたここで二歩下がるのか、素直に読ませてくれないところも、このアニメの面白いところであります。
風通しが良くなったマリイとの関係が本物の強度を持っているのか試す意味でも、決戦が楽しみですね。