イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

紅殻のパンドラ:第9話『基地強襲 -アサルト-』感想

残り話数がそんなに多くはない鋼色の青春絵巻、ついにクライマックス突入!
というわけで、クラりんが拓美ちゃんのバックアップを受けつつ、諸悪の根源に殴り込みをかける回でした。
前回デパート火災とクルツを結ぶシーンが弱かったんは、今回のアバンでじっくりやるからか……言われてみれば、舞台裏のカラクリを挟んでる隙間が無いもんな、前回のエピソード。

今回のお話はクライマックスの序章と言える感じですが、大災害も周囲の迷惑も一切顧みず、ブエルをほしいままにしようとするクルツの悪行と、ネネちゃんの望みの確認、それを受けてのクラリオンの決意に拓美ちゃんとの問答と、アクションが転がりだしための土台はしっかり固める回でした。
悪役がどんだけ悪いかちゃんと確認するのは、そいつをぶっ飛ばす最終決戦の温度を上げるし、主役周りのモチベーションの確認も同様。
ラキシス声の多脚戦車で特攻みかけて、話の温度が上る前にちゃんとやっておかないと、話が迷うポイントでもあります。

クルツはいつもの様にシリアスで洒落にならないクソエゴイストであり、非常に分かりやすい悪役なわけですが、主役サイドはそれなりに複雑。
猫の王子様と平和な日々をずっと過ごせればそれで幸せなネネちゃんの願いを叶えるためには、その日常を脅かすクルツをぶっ叩かないとダメなわけで、博愛主義者のネネではなく、機械の冷静な判断力と情に流されないシビアさを兼ね備えてるクラリオンがそこにたどり着くってのは、納得の行くところです。
ほんと忠猫クラ公やな、このアンドロイド。

福音の保護が最優先なので、危険が予測される戦闘に必要な『装備とバックアップ』には含まれない判断をクラリオンはしておるわけだけど、一緒に傷つき一緒に乗り越えていく関係を考えないのは、彼女(≒機械)の限界でもあると思う。
社会的にも自己認識的にも、クラリオンは福音の夢のための捨て石になって構わない機械存在なんだけど、当の福音はクラリオンとの関係を完全に対等なものとして認識していて、一方が一方の犠牲になるような間柄は望んでいない。
黙って死地に赴いたクラりんをネネちゃんが追いかける形になりそうだけど、人/機械の垣根を超えた超博愛主義が、クルツの怜悧な現実的エゴイズムを踏み倒す形で進むんかね。
平たく言えば『愛と友情はセナンクル島を救う』ってことなんだが、その展開は前向きなお伽話であるこのアニメには、非常にしっくり来る。
ここら辺は来週以降だけど、脂っぽいギャグやコメディで楽しませつつ、直球な成長譚が心地よいアニメなので、期待大ですね。


今回拓美ちゃんは非常に良い動きをしていて、合理的判断やウザルの利益のためではなく、ネネちゃん個人の幸せのために戦おうとするクラりんを認め、称揚する立場をしっかりこなしてました。
これは褒められるべき機械の成長であり、ネネちゃんとクラりんがずーっとイチャコラ仲良くしていた成果であり、クラリオンを『ウザルのお人形』と下に見ていた拓美ちゃんが彼女の人格的成長を見直すことで、部外者の査定が入って値段が上がってる感じが出てます。
ネネちゃんとクラりんだけで世界が閉じちゃうと危うさも増すんだけど、今回のサイバネ医療にしても、学校での試験にしても、彼女たちは世界から切れていないし、拓美ちゃんが代表する世界も彼女たちを放ってはおかない。
『ウザルのお人形』であるクラリオンに、虎の子の『装備とバックアップ』を貸し与える拓美ちゃんの姿は、適切に見守り評価し支援する、非常に『良いオトナ』でした。
……同時にブエル本体の掌握も企む『悪いオトナ』でもあるんだが、このエゴイズムは都合が良すぎる感じを上手く打ち消してて、結構好きだ。

拓美ちゃんがクラリオンに『機械的な殺人』『合理的な人間の切り捨て』を禁じていたのは、単純に道徳的なオーダーというわけではない気がする。
これは裏を返せば『ゴーストが吠えた結果としての殺人』『人間存在防衛のための闘争』を機械に要求する、機械と人間の境目が消滅していく時代の新倫理でもあるような気がするのだ。
拓美ちゃんがウザル好きすぎ人間だというのは、今回のウザル(の残したメッセージ)とのやり取りみてれば一発で分るが、先進的篤志家でありテロリストでもあった彼女のヴィジョンを、拓美ちゃんも共有しているのだろう。
機械が自分の意志で悪を殺傷できる未来を拓美ちゃんも睨んでいるわけだが、同時に超博愛主義者である福音くんの価値観を大事にし、クラリオンの合理主義がそれと道を同じく出来るよう、釘を差すことも忘れない。
ここら辺、楽しくなりそうならテロリズムまで含めてなんでもありなウザルとは、一線を画するバランスの良い(もしくは常識的な)判断だ。

拓美ちゃんはこのフツーっぽさ故にウザルを超えられないのだが、しかし同時にそのバランスの良さが福音くんとクラリオンを健全に導き、より良い方向性を与えてもいる。
人類を超越した二つの可能性が、しかし非常に健全な意味で『普通』に育っていくことがこの物語の基本ラインであることを考えると、拓美ちゃんに後の事を託したウザルの目は確かだったといえる。
人間中心主義的ヒューマニズムに溺れることなく(それはクルツの仕事だ)、急進的テクノロジー革命主義に暴走するでもなく、電脳や義体が一般的でない世界で認められる範囲を拡大していく現実主義が、拓美ちゃんを巨大グループの中心として安定させてるポイントなんだろうなぁ。
まー極端な立場はウザルとクルツがやるので、拓美ちゃんは大いなる凡人で居続けて欲しいものだ。

アクションシーンはクラりん無双あり、ベクターキャノン(もしくはバスター砲)発射シーケンスあり、米帝特殊部隊を噛ませにしたシオノカミを噛ませにしたクルツのロボット(義体?)ありと、非常に攻殻力高い絵面だった。
ウザルと別れて以来、福音くんは直接的戦闘から離れていたので、実はこういう戦闘用ギミックってあんまなかったからね、久しぶりに見るとやっぱ心躍るわ。
光学迷彩クラリオンが重量感知で場所を出していたので、ただの光学迷彩ではないだろう)は使うわ、対物ライフルが効かないシオノカミの装甲をバターのように切り裂くわ、謎のロボットはマジ強すぎるわけだが、クラりんどうするのかな……ピンチになった猫の王子様を、無敵の電脳姫が押取り刀で助けに来て二人で大勝利……それだ!(結局ネネクラキテればそれで良いマン)


そんなわけで、冷徹な機械から一歩踏み出したクラりんが、彼女を認めた拓美ちゃんのバックアップで悪の巣窟に特攻みかけるお話でした。
ネネちゃんを守るためにネネちゃんを遠ざけたクラりんだけど、この話は正統派ガール・ミーツ・ガールなので、そいつぁ多分悪手。
置いて行かれたことに気づいたネネちゃんがどういう経緯で合流するかも含めて、クライマックス非常に楽しみです。(魂で惹かれ合う二人が合流するのは、当然の前提マン)