イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第9話『休暇の過ごし方』感想

戦いは終わった……だが新しい戦いが俺たちを待っている!! とはならない、スローペースなファンタジー・ライフ・アニメの九話目。
マナトの死に一つの決着をつけたハルヒロの休日をゆっくり追いかけつつ、確実に縮まったメリイとの心の距離をスケッチする、穏やかな回でした。
サイリン鉱山という新たな冒険の舞台も顔を出し、次なる展開にじっくり繋げる、このアニメらしい合間の回だったと思います。

今回はも~とにかくメリイさんでして、アンニュイな空気を漂わせたバルコニーの姿だとか、トラウマに逃げ出しつつも戦う意志を見せる背中だとか、色んな感情が切り取られていました。
出会った頃のつっけんどんな態度とは大違いですが、それはマナトの死を受け人間的に成長したハルヒロが、一歩ずつ距離を詰めていった結果見えるようになった、彼女の素顔なのでしょう。
非常にじっくりと展開したハルヒロの成長描写の成果たる、デレ期のメリイさんの描写も非常にじっくりしたものでして、家庭も結果もとにかくゆっくり回す、このアニメらしいご褒美でした。

ハルヒロを頼りにしつつも、やはり一度刻まれてしまった傷というのは完全に癒えないわけで、義勇兵宿舎で楽しくやってた時代の屈託のない笑顔は、メリイには戻ってこない。
んだけど、そこに溺れて心を閉ざしていた時代から踏み出し、新しい仲間に頼る強さを見せるという、より良い変化も肯定的に描かれていました。
トラウマだからこそ、新しく手に入れた可能性を信じて立ち向かいたいという、小さな心の変化と繋がり。
やっぱこのアニメのゆったりとした足取りは、そこに至るまでの家庭を省略一切無しで描くことを可能にしていて、だからこそ今回メリイが見せた戸惑いも弱さも、そこから抜けだそうとするあがきも、共感を持って応援したくなる。
今回のメリイの描写は、このアニメの強みを活かしたいい描き方だったと思います。


他のメンバーもゆったりと描かれていましたが、寄る辺なく時間を潰していた以前の休日とはまた違って、スキルアップに励むためにオーバーハングを的確に登るものあり、食事と彫像という『作る』行為に励むものありで、奇妙な充実感のある描写でした。
どこにも行けなかった駄目人間達が、ゴブリンをぶっ殺しまくったり、仲間が死んだりして、少しだけ何処かに行けるようになった証拠をちゃんと描く筆の細やかさは、自分たちが切り取っているものをよく理解した筆致やね。
そういう心安らぐ描写の合間に、「獲物が変わるときぶんもかわるなぁ~」というユメの発言をするっと流しこむ手管、俺好きよ。
……『獲物』か……すっかり『殺し』に慣れてきたなぁ、彼らも……。

ハルヒコは朝であったメリイさんと日が暮れるまで一緒にいたり、飛び出したメリイさんを追いかけたり、能登声のセクシー教官とプロレスしたり、忙しい日々。
ここ三話ぐらい、メリイのヒロインポイント荒稼ぎがマジ尋常じゃないことになってて、見ていて楽しいすな。
能登声教官とのグラップリング訓練は分かりやすいサービスシーンだったが、地味に面倒くさそうな組手であり、石浜さんはここ担当かなぁとか思ったりもする。

どちらにしても、新しい技術を収め、油断を切り捨てて新天地に挑む元ダメ人間たちの姿は、やはり頼もしい。
普段の服装にしても、キャリアアップの描写にしても、声高に彼らの変化を叫ぶのではなく、映像を楽しんでいるうちにしっかり伝わる演出で見せてくれるのは、とても良いよね。
今のメリイの立ち位置にしても、酒場での食事は横に並んで一緒にするけど、ハルヒコを抱きしめるほどではないというふうに、描写の中にしっかり埋め込んでるもんなぁ。

そんなわけで、このアニメの強みであるさり気なさと、小さいけれど着実な変化をしっかり捉え、前に進むエピソードでした。
世界に転送されたばかりの時の不安、パーティーが軌道に乗り始めた時の危うさ、マナトが死んだ直後の呆然。
過去に描写されたのとはまた違う色が、休日の光景の中に滲んでいて、彼らと彼らを取り巻く人生の変化を楽しむことが出来ました。
義勇兵の暮らしは『殺し』と同義語なので、新天地たる鉱山も楽勝とは行かないでしょうが、そんな暮らしの中で彼らは何を掴むのか。
新展開を、楽しく待ちたいと思います。