イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ルパン三世:第24話『世界解剖(後編)』感想

さらばイタリア、さらばダ・ヴィンチ、さらば愛しき女!!
四度目のリブートをさっそうと駆け抜けたルパン2015、遂に最終回であります。
ダ・ヴィンチおじさんとの決着はAパートで早めに、しかし情のある終わり方でしっかりつけて、残りはレベッカという少女とイタリアという国に、じっくりとサヨナラを言うお話でした。
美麗な背景を使いこなして詩情を高めつつ、ルパンと分かれていく寂しさをちゃんとレベッカが担当してくれるという、このアニメに相応しい豊かな終わり方でした。

前半はダ・ヴィンチおじさんとのイマジナリーバトルですが、2015らしくあんまりハードなアクションはなし。
代わりに油絵背景の中を右往左往する、ちょっとサイケデリックな絵が楽しめ、なかなか良かった。
ダ・ヴィンチおじさんは断罪するというより理解するタイプの敵なので、銃や拳で直接対峙するより、夢とも現実とも付かない絵画チェイスは、柔らかい感じの戦いでしっくり来ましたね。
絵画バトルだけだとちょっとふんわりし過ぎなんだけど、『ルパンがイタリア全員の夢に入って、全ての局面でダヴィンチを上回る』というスケールの大きさが伴い、実際の昏睡事件も解決することで、ちゃんと終わった感じが出たね。

結局ダ・ヴィンチおじさんはあまり殺しもせず、イタリア全土に夢を見せただけで自滅してしまう終わり方でしたが、これはこれでよかったと思います。
殺人鬼でも陰謀家でもなく、芸術家のコピーとして生まれるべきではない時代に生まれてきた男が、全てを掛けてイタリアをペテンにかけ、死んでいく。
スタイルとロマンを大事にしてきた2015のラスボスに相応しい動機と行動であり、僕はやっぱダ・ヴィンチおじさん好きやなぁ。

自分のスタイルを持っているおじさんをルパンが敬い、彼のモチベーションだった『自分がフェイクだと思いたくない』『消えたくない』という思いを、ルパンがちゃんと背負う展開も爽やかで好きだ。
『俺は泥棒なので、イタリア全員の夢を盗む!!』という解決方法も、アバンの問答と合わせてルパンらしくてグッド。
思い返せば、価値のあるものをちゃんと認めて自分なりの答えを返すというルパンのスタイルは、2015でずっと貫かれていた部分であり、主人公がこういう部分で高貴だったのは、シリーズ全体を楽しむ大事な足場だった気がします。


結構大きな事件だったんですが、比較的穏やかかつコンパクトに解決をして、力点を置くのは物語の始末。
ここら辺は脇目も振らないレベッカ重点であり、彼女の淡いあこがれや決意を非常に丁寧に切り取った、綺麗なシーンになっていました。
嘘と偽りで始まった結婚の象徴である婚約指輪を記憶の鍵に使ったところといい、ルパンを縛り付ける婚姻届を破り捨てる結末といい、第1話のインパクト、『ミセス・ルパン』というレベッカの立場を上手く使った最終話だったなぁ。

自分はレベッカロッセリーニというキャラクターが相当に好きなんですが、それは彼女がキュートで一生懸命な女性であると同時に、視聴者の投影対象として上手く機能していたからです。
歴史を積み重ねもはや一種のアイコンと化したルパンに憧れ、彼に近づこうと努力し、彼を利用するうちに心惹かれていく『世界一のルパンファン』としての彼女の気持ちは、ルパンが好きでこのアニメ見ている僕の気持ちに、凄く近かったと思います。
だからルパンから受け取ったものを大事に、名残惜しく抱きしめつつも、自分とルパンのために優しく手放していく手続きを丁寧にやってくれた今回の最終話、凄く良かった。
レベッカを通してルパンと丁寧にお別れしてくれることで、このアニメをもう来週は見れなくなってしまう僕らの気持ちも、凄く柔らかく落ち着いていく。
作中の別れと、作品自体との別れが静かにリンクしていくこの展開は、非常に豊かだった2015シリーズの良さを思い返しつつ閉じる事が出来て、本当に有りがたかった。

何よりも良いのは、僕らの代表であるレベッカを受け止めるルパンが、非常に優しく紳士的な、僕らがこうあって欲しいと願うルパンそのものであること。
ダ・ヴィンチおじさんの受け止め方もそうなんですが、筋の通った一つの生き方を尊重することで、作中誰よりもスタイルを持っているルパン自体の価値が上がり、凄く格好良く見えるわけです。
レベッカとルパンが向かい合うシーンは非常に時間を使って描かれますが、無言の中で変化する表情が、そのシーンがかっこいいだけではなく、名残惜しさや寂しさなども含めてとても人間らしい、温かいシーンだと教えてくれます。
2015にはスクリューの効いた展開だとか、過去作へのリスペクトだとか、ルパンというアイコンへの理解だとか、目鼻立ちのくっきりした盛り上がりだとか、良いところが山程ありますが、実はこのシーンに代表される優しさへの視点、感情の表現が豊かだったことが、最強の武器だったのではないか。
そう思わされる、豊かな別れでした。

人と別れた後は舞台と別れる番で、荷物をまとめたルパン一味はイタリアという国から幻のように消える。
思い返してみるとこのアニメ、美術に助けられたアニメでして、ルパンの足と目を借りてイタリアを疑似体験するような、気持ちのいい異国感がありました。
カーテンコールで役者が勢揃いするように、今回切り取られたイタリアの諸風景を見ると、改めて綺麗なアニメだったなぁと感慨が深くなります。
日伊合同製作というスタイルが、非常に良い方向に働いた部分だと思いますし、人格のあるキャラクターのように、もしくはそれ以上に仕事をしてくれた『イタリア』という役者に敬意を払ってじっくり映すラストの展開も、焦りがなくて良い。
そして、電車に乗ったのか乗らないかもわからないままフッと去っていく終わり方も、まさに僕らが『ルパン三世』に望む軽やかさをたっぷり宿していて、良い終わり方だったなぁ。


と言うわけで、ルパン2015が終わりました。
見せかけの派手さに逃げるのではなく、あくまで『ルパン三世』というキャラクターの骨格の強さを信じ、オーソドックスなドラマを展開したシリーズでした。
『予告ではAだと思ってたのに、気づけばBだった』というひねりを必ず入れてくれる、サービスの効いた脚本、人情話に恋話、アクション巨編にゆるふわ日常と、バリエーションの多い展開も良かった。
過去作へのリスペクトを忘れず、かと言って思い出の『昔は良かったルパン』に縛られるでもなく、一つのお話をしっかり作り上げ、視聴者に届けることに誇りを持っていると確かに信頼できる、上質のエンターテインメント。
良いアニメであり、良いルパンだったなぁホント……なんていうかな、品があるアニメだった。

本筋を引き受けるシリーズゲストも面白い連中で、特にレベッカは可愛くて賢くて健気で、心から好きになれるキャラクターでした。
泥棒らしく欺瞞から始まった関係がだんだん深まり、いつしか本物の気持ちになっていくというレベッカのドラマが、ともすれば軸が分散しちゃいかねないオムニバス形式をしっかりまとめていて、視聴者が縋る足場になっていたのが良かったです。
単純に、自分に憧れる小娘を時にあしらい時に本気で助けるルパンを見ているのが、最高に楽しかったというのもあるけどね。

制作スケジュールの余裕もあってか、作画方面でも安定した動きを見せ、時にはかなり冒険した演出などもいれてくれて、見ていて飽きないアニメでした。
ルパン三世』という重たすぎるキャラクターをしっかり解体し、何が大事だ何が面白いのか、何をすれば自分たちの好きな、そして視聴者が見たい『ルパン三世』を届けることが出来るのか、良く考え実行してくれた、素晴らしいリブートだと思います。
オムニバスという形式が持っている豊かさをフルに発揮したという意味合いも含めて、まさに新時代の『ルパン三世』でした。
とても面白かったです、ありがとうございました。

 

・番外/ベストエピソード三選
○第1話『ルパン三世の結婚』
メインエピソードとして、お話の期待感を担当する出だしとして、シリーズ全体のテイストを伝える話として、非常に完成度が高いお話。
ここでレベッカのキャラを鮮烈に感じさせ、『ミス・ルパン』という立場を印象づけることで、彼女の変化のドラマが明確になったという意味でも、全体の要だと思う。
ルパンっぽさと今っぽさを見事に融合させ、新世代の活劇に仕上げたアクションシーンの作画も非常にグッド。

○第13話『ルパン三世の最期』
キャラクター個別エピソードの仕上がりの良さは2015の美点の一つだが、その中からとっつぁんとルパンのキャイキャイ劇場を。
とにかくルパンが好き過ぎて頭がおかしいとっつぁんが愛おしく、お互いを信頼し敬愛すればこそ追いかけ合う二人の関係がよく見える、クリアでスマートなお話だった。
2015のとっつぁんは安易なギャグキャラに堕さない、切れ味鋭いライバルであり理解者として、筋の通った扱いを受けていたと思う。

○第20話『もう一度、君の歌声』
人情系の話はどれも仕上がりが良いが、『車が出てくるのにカー・チェイスしない』『車が出てくるのに部屋から出るまでのお話』という、2015らしい気の利いたひねり方でこの一本をチョイス。
老夫婦のジワっと染みる絆の描き方も良いし、歌が持つ叙情性を最大限に引き出した音の使い方も最高。
2015は全体的に話の切れ味いいけど、人情話は本当にどれも傑作だったなぁ……。