イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕だけがいない街:第11話『未来』感想

衝撃の展開で次回に引いた時空操作ミステリ、今回は正義の代償と英雄復活。
低体温による昏睡状態を上手く使って、これまで時間を巻き戻していた『リバイバル』を早送りに使う形で現在編に入る展開でした。
悟を置き去りにして未来に進んでしまった世界の残酷さとか、しれっと悟の側で見張っていた八代の不気味さとか、色々なものが光る最終決戦直前。
ラストの『俺の記憶は戻っているぞ』は非常にバッチリ決まっていて、思わず『(ドドドドドド……)』と荒木擬音を付けたくなる凄みに満ちていましたね。

今回はまずアバンの独白が凄く仕上がっていて、八代の持つ異常性や能力の秘密、不気味さと危うさがギュッと凝縮されていました。
犯人候補としての八代はこれまでも描写されていたわけですが、殺人犯・八代学は描写するわけに行かなかったわけで、今回短い時間ながら中身の濃いこのシーンを入れたことで、話の中身が濃厚になった印象を受けました。
兎にも角にも宮本充の演技が凄い……僕はヘッドフォンで聞いているのですが、最期耳元で囁かれた時背筋を走る衝撃は、かなり凄いモンがありました。

悟の『リバイバル』と対をなす八代の『蜘蛛の糸』のネタばらしもなかなか面白く、一種能力者バトル的な楽しみをお話に取り込むと同時に、奴の異常な周到さの説明にもなっていた。
思い返してみると蜘蛛の糸演出は前々から埋め込まれていて、あの頃から生け贄を探しまわっていたと思うとおぞましくもあり、周到な組み立てに唸る部分もあり。
悪辣で残忍で優秀な敵役がしっかり描写されていると、それを乗り越えるヒーローの偉業も輝いて見えるわけで、ずーっと大物感が続いている八代は良いラスボスやなぁ。


一方悟は寝て起きてリハビリしてた。
お母さんの静かで慎ましい日常を切り取る立ち上がりから、げっそりと痩せてしまった悟の寝姿を映すまでの静かな緊張感は、なかなか良かったです。
あのヒキがろくでもない結果を呼んでいるのは分かるけど、具体的に何が起きたかは解らないサスペンスフルな状況で、ドカンと八代の独白が来て、すっとテンポが落ち着く。
相当切り詰めた暮らしの中で、お母さんが何かを大事にし、自分を犠牲にして守っている姿が展開されることで、正義の対価がどれだけ高く付いたかとか、歴史が変わってもブレないお母さんの優しさと暖かさとか、色んなモノを感じられた。
俺この話のキャラクターみんな好きだけど、お母さんは一等尊敬できるなぁ。

目覚めてからは『子供の中に大人が入っている』これまでの状態が、『大人の中に子供が入っている』という転倒を見せる。
これを表現するのに、これまでと『発話』と『内心吐露』の担当声優を切り替える演出が非常に良く聞いていて、悟の置かれた異常な状態をうまく表現していました。
状況を視聴者に飲み込ませるだけではなく、リハビリ二倍にしたあたりから内心ナレーションがなくなっていくことで、『俺の記憶は戻っているぞ』の伏線を張っているところとかも、最高の演出だった。

雛月が赤ん坊を抱いて出てきたシーンは、その父親もまた本来死んでいたはずのヒロミだったことと合わせて、『悟……そら泣くわな……』という場面だった。
悲しい過去と自分の誇りを守るために戦ってきた悟は雛月のこと恋愛対象としては当然見ていないし、自分で語っていたように、悟への申し訳無さから生存者が時間を止めてしまうことは望んでいない。
だから、雛月が『身勝手』に自分の幸せを掴んでいる事実は、悟にとっても、彼らを見守ってきた僕にとっても胸に迫る展開だったと思う。

かつて親に虐待され、親に愛されず、親になることもなく死んでいってしまった雛月が、親になり子供を愛する。
この話が過去を書き換え悲劇に抗う物語である以上、あの雛月の幸せそうな表情こそが、八代の悪意に悟が勝利した象徴として機能しているように思えるのだ。
モノローグが発生しなくなるタイミングを考えると、おそらく悟が未来の取り戻したのは雛月の顔を見てからだと思うが、それも納得のイベントであった。
良かった……本当に良かった。


そしてまるでヒロインのような顔で悪いメディアを追い払い、怪しさ全開で悟を見守る八代改め西園。
その正体を知っている身としては『こんの野郎、何をいけしゃあしゃあと……』という怒りと、『逃げて悟マジ逃げて!!』という焦りが同居する、なかなか圧力のある登場でした。
悟の状況を丁寧に確認し、『後腐れなく殺せる』という確信を手に入れてから言葉巧みに誘導するところとか、マジ悪辣だった。
前回の演出が印象に残っているうちに、手袋&指コツコツで指紋対策を印象づけるところとか、相変わらず感情の操作がうまいアニメだ。

そして何度も言っているけど、『俺の記憶は戻っているぞ……!』の気持ちよさ。
これまで八代の計略に良いようにやられてきただけに、逆に悟が罠を貼って待ち構える展開には、相手の得意技を逆手に取る気持ちよさがあった。
同時に、この最悪の犯罪者は知略で上回らないと勝った気がしないという気持ちもあったので、キッチリ意表をついた形で反撃を乗ろす今回の引きは、控えめに言って最高だったなぁ……。

まだ車椅子に乗って、お母さんの世話になっているいる悟は弱者の代表でもあって、余裕ヅラでぶっ殺しに来る西園の舐め腐った態度に一発入れた、『虐げられたものの逆転劇』を予感させるシーンでもあった。
ここら辺のイメージ作りはリハビリシーンをちゃんとやって、歩くことにすら苦労する悟の苦境をちゃんと描写していればこそだし、同時に苦しみに苦しみぬき、頑張りに頑張りを重ねている悟に共感するシーンにもなっている。
綿密な計算の元に色んなモノをシーンに詰め込みつつ、それが多層的・複合的に既往して全体的な印象を形作る物語的奥行きが、最大限発揮された回だったと思います。


と言うわけで、悪魔の告白とヒーローの喪失、そして復活と、盛り沢山な内容でした。
昏睡状態を利用した時間ワープとか、西園の良いタイミングでの登場とか、最高に気持ちがいいヒキとか、ぐっと体温上がる意外な、しかし出されてみるとこれしかないシーンがたっぷり詰まっていて、非常に面白かったです。
記憶を取り戻し、ついに悪魔と対峙した悟ですが、果たして彼の正義はどのように報われるのか。
誰にも告げず孤独に戦ってきたヒーローがしっかり報われる終わり方を、強く期待して来週を待ちます。