イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕だけがいない街:第12話『宝物』感想

時空を孤独に駆けまわるヒーローが、遂に身勝手な正義に他人を巻き込んでの最終決戦!
アツすぎるヒキから八代との決着、人生を取り戻した悟たちのエピローグと、詩情と満足感のただよう最終回となりました。
雛月がヒロインレースから穏やかに降りたと思ったら、ものすごい勢いで西園がヒロイン力をぶち上げて、最後の打席でアイリが逆転満塁サヨナラホームランブチかます展開の上げ下げも好きよ。

前回終わった時点では『殺人者』西園学に勝利して終わんのかなーと思ってましたが、蓋を開けてみると結構長い時間を使い、『先生』八代学との関係を繋ぎ直し、最後の殺人を果たさせて人間として八代を救う展開になりました。
悟が自分で言ってたけど、父親不在の家庭で育ち、『リバイバル』能力者として孤立無援の戦いを繰り広げてきた悟にとって、八代は父であり仲間でもあり、敵であり殺人者でもあった存在。
そんな複雑な相手に自分という存在がどこまで食い込んだのか、的確に把握していたからこそ最後の勝負に出た感じはします。

悟は西園を憎みつつ八代のことが好きで、その両方に勝つために仲間を動員して儀式的殺人を果たさせたのだと思います。
連続殺人という非人間的な所業が可能なのは、八代が『いい先生』の仮面を被りつつ誰にも共感しない、蜘蛛のように凍りついた感情を持っているからです。
しかし、そこに一筋の情というか、特別な存在に執着する矛盾があることを、15年間昏睡しつつも殺されていない悟の存在自身が証明している。
これまで殺してきた、蜘蛛の糸が見える数多の存在とは全く別の、共感対象としての自分自身が、連続殺人犯・西園学と教師・八代学、両方の中にいること。
それがおそらく、悟の勝算だったのでしょう。

自分が誰かに気持を寄せ、共感を持つ『普通の人間』だと認識してしまえば、八代はもはや殺人鬼ではいられない。
というか、15年間まるで父親のように甲斐甲斐しく悟の側にいた事実、特別な誰かを求める強い気持ち自身が、ゆっくりと期待の連続殺人犯を壊していたわけです。
悟が自分の命を天秤に乗せて確認したのは、その事実にほかならない。
それは『連続殺人犯』に勝つという意味以外にも、父親として教師として、八代を信じ愛した自分自身を勝手に信じたいという、エゴイズムの発露だった気もします。

はたして悟の読みは完璧にあたっていて、八代はまるで愛にも似た感情を悟に抱いていて、これまで自分自身を規定していた『殺人』という行為が悟に適応される瞬間を、黙ってみていられない。
落ちようとする車椅子を必死に抑えた時、『連続殺人犯』としての西園はやはり破綻していて、(それが幻影にすぎないとしても)悟が取り戻したかった『教師』としての八代が現実化している。
ここら辺はかつて悟も取り憑かれかけた『赤い目』がすっと色を無くしていく描写や、自分自身もまたこれまで殺してきた犠牲者と同じ『蜘蛛の糸』に引き寄せられた存在だと認識する描写から、感じ取ることが出来ます。
情感のこもった台詞を上手く使いつつも、言葉で説明しない暗喩などでも状況を豊かに説明する使い分けは、最後までこのアニメの強力な武器だったと思います。


悟はこうして『敵』であり『連続殺人犯』であり『父親』であり『先生』でもあった西園=八代を救済/に勝利するわけですが、彼の正義は八代一人のものではない。
『僕だけがいな』くなることで救済されたみんなのために、何度も繰り返してきた生き死にそれ自体のためにも、悟はちゃんと生き延びなければいけないわけです。
『お前は他人に踏み込んでいない』と言われることで始まり、『リバイバル』という異能力によって孤立していたヒーローの物語が、最終局面に及んで自発的に『俺に踏み込んでくれ』と頼む方向に舵を切ったのは、八代を救いつつ自分自身も救う、身勝手で無茶な望みを果たすためです。
最高のハッピーエンドをつかむためには、けして一人の力で足らないし、周りの連中も身勝手な正義に巻き込まれることを望んでいる。
そういう形でしか人は繋がれないし、そういう形でつながった人たちは、とても大きなことを成し遂げることが出来る。
最後のどんでん返しとして用意されていた救命具には、そういうメッセージが強く詰まっていました。

正義と信頼はけして無視のものではなくて、とても身勝手な側面がある。
正義と信頼について描き続けてきたこの話で大事な意味を持つ認識を、悟に与えたアイリと、時を行き来する長い旅の果てにもう一度出会う終わり方は、非常に良かったです。
やっぱ時間操作モノは、時を弄り倒した結果縁も所縁もなくなった大事な人と、運命を乗り越えて出会い直すラストシーンがジーンと来るなぁ……。
アイリは雛月ほど出番は多くなかったですが、ヒーローとしての悟に凄く大事なものを教えたし、体も張りまくってたし、ラストを任せられる良いヒロインだったなぁ。

ラストシーンのセッティングも、印象的だった高架下を再利用しつつ、主題歌『RE:RE』の歌詞なども綺麗に引用して、運命が収束するために必要な叙情性を、しっかり醸しだしてました。
ここら辺は、時間と運命をお話の真ん中据えたゆえの豊かさだよなぁ……繰り返すことに、目立て機以上の意味合いが太くあるというか。
かつて高架下にいた時は薄暗い空が、全てを解決した今明るく輝いているところとか、キャラの状況や心情を画面に込めるのが巧いこのアニメらしい、良い絵作りでしたね。

これまでとんでもない苦労と痛みを背負い込み、人知れず戦い続けた英雄に報いるように、立派な成功を果たした悟の姿も、とても良かった。
雛月が二回繰り返した『僕だけがいない街』の作文と響きあうモノローグもあって、お話のテーマを綺麗に回収するエピローグだったと思います。
孤独なヒーローが長い戦いの中で学んだ『踏み込む勇気』が、漫画という場所で成功をおさめる主因になってるところとか、戦士の休息って感じがしてほんとに良かったです。


というわけで、悟の長い戦いは非常に倫理的な勝利を収め、大事な人を守り切って終わりました。
いやー、本当に良かった。
俺は悟のことがとても好きなので、彼が勝ったことも、報われたことも、本当に嬉しい。

アニメーションとしてみると、毎回強烈な引きを用意して興味を繋いでくれるサスペンスの出来、緊張都市間両方を切れ味鋭く演出してくれるサイコホラーとしての仕上がりが、とても鮮烈でした。
悲惨な部分だけを色濃く描くのではなく、悟のモチベーションに直結する温かい部分を、しっかりと気持ちよく描いてくれていたのが、作品に前のめりになれる大きな足場になりました。
小学五年生の小さな世界の穏やかさや温かみ、お母さんが見守ってくれる生活のかけがえなさ、家族が持っている心やすまる感じなどが、台詞を使わずに絵で浮かび上がってくる、良い演出だったなぁ。

キャラとしては雛月の圧倒的ヒロイン力がまず目立ち、『この子はなんとしても助けなアカーン!!』という悟の気持ちと、視聴者の心が見事にシンクロするナイスヒロインでした。
児童虐待というシビアな設定を弄ぶことなく、一少女の辛さや寂しさ、それを受け止める他人のかけがえなさ含めてしっかり描いていたのが、本当に良かった。
ここら辺は先程述べた『家』の温かみがキャラクターと相乗効果を出しているところでして、悟のお母さんとじゃれ合い、気持ちを預けるシーンが本当に心安らぐシーンとして機能していた。
時間が経過し雛月が母になる展開も含めて、『家族』の残忍さと暖かさを両方大事にして話の真ん中に据えたのは、凄く良かったです。

その一翼を担うお母さんの飄々として頼もしく、温かみのあるキャラクターも良かった。
悪魔的な狡知で悟を追い詰め、その実複雑な感情を秘めた八代も、宮本さんの好演もあって存在感がありました。
何よりも、誰にも褒められない孤独な戦いを走りきり、誰かのために傷つき戦った悟自身が、とても好きになれるキャラクターだった。
テーマの扱いや見せ方の工夫と、魅力的なキャラクターが噛みあった、とても幸せなアニメだったと思います。

魅力的なキャラクターたちが正義の為に人知れず戦う物語を、緊張感と幸福感を維持したまま、毎週楽しく見せてくれるアニメでした。
『信頼』の身勝手さや『家族』の危うさ、『正義』の孤独など、光のそばにある影にも気を配ってくれて、その上で真っ直ぐな倫理観をしっかり信じ、骨太に語る姿勢に信頼を置くことが出来ました。
本当に楽しく、スリリングで、良く出来たアニメでした。
大好きなアニメです、どうもありがとう。