イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

無彩限のファントムワールド:総評

KAエスマ文庫から四作目のアニメ化作品となった、京アニ2016一作目。
全体的にバランスの良い作品でして、"境界の彼方"ほどお話の軸が消滅しているわけで無し、"甘城ブリリアントパーク"のように大きな目標が色々邪魔をするでもなし、ハンディなストーリー展開とヤダ味のないキャラクターがゆったり非日常を暮らす、雰囲気の良いアニメでした。
阿頼耶識関係とか、世界がきな臭くなる要素は幾らでもあるんだけど、晴彦周辺のゆるーい学園生活をとにかく重視し、あくまで個人的な心の問題を少しずつほぐして行く、緩やかなお話が心地よかったです。

第1話を見た段階では『また京アニが無理にエロいことしようとしてるー』という感じでして、悪い意味で即物的スケベになりきれない創作集団と相性悪そうな、脂っこいサービスに不安がありました。(なので感想を控えていたら、各タイミングを逸した)
京アニのスケベ根性は性器よりも風景に秘められたキャラクターの心情であるとか、長い黒髪に宿る湿り気だとか、物語的フェティッシュに走る傾向があるわけで、作画が如何に良くともストレートなスケベはどっかで無理が出る。
そう思っていたわけですが、早いタイミングでエロ一本槍の勝負はとっとと止めて、部員と打ち解けていく小さな歩み寄りとか、部員が抱え込んでいる家族の問題とか、イイハナシ系の展開に舵を切りました。

果たして京アニ得意の美麗な美術や、繊細な情景描写と噛み合った小さな変化の物語はとても丁寧に感情を表現できていて、非常に僕好みの仕上がりになってくれて嬉しかったです。
『孤独な少年たちが寄り添い、小さな心理的問題を乗り越えていく』というオーソドックスな青春物語はやはり京アニの細やかで美麗な表現力との相性が良く、ファントムという異常が日常化した世界をスパイスに使いつつも、オーソドックスな悩みをみんなで乗り越えていく姿には、素直な共感を寄せれました。
『イイハナシ』という軸がしっかりしていたので、第8話みたいなおバカスケベ話もスパイスとしてピリッと刺さるし、直線勝負でエロスをぶっこむ肌色アニメとはまた違う、京アニフェティシズムが女体方向にドライブした肉感表現をありがたく頂くことも出来ました。
俺はやっぱ、『お色気』程度の肌色で十分だなぁ基本。


全体的に気楽な話で、おそらくは人を殺したり害したりする邪悪な連中もいるんでしょうが、主人公たちが出会うファントムは基本『いいやつ』でして。
深層心理と直結した怪物であるファントムをゲストとして使いこなすことで、思春期の悩みを掘り下げていくオーソドックスなストーリーに、良い捻りが加わっていたように思います。
歪な家族の肖像を取り上げた第4話や第11.12.13話、小学生の小さな決意を主題にした第6話、認識が重要になる第8話などは、ファントムを使うことでうまーくキャラクターの抱えている内的問題が顕在化し、お話がわかりやすく、盛り上がりのあるものになっていた。
逆に心的存在であるファントムが日常の中でどういう立場を手に入れ、人間と付き合っていくかというアプローチでも前向きな話が展開され、劇的空間と日常的空間の境界を高速で行ったり来たりする第9話や、甲斐甲斐しく物語を進行させていたルルに最大限報いる第10話など、身の丈にあったシリアスさを、楽しく演じていた気がします。

ファントムが『部活』によって対処され、能力を持っていることが当然になってしまった『異常』な世界の日常性は、京アニの繊細な表現力で巧く形になっていて、僕は強く『ヘンテコな世界だけど、面白そうだな』と思えました。
能力と異常が支配する世界に構えて入っていくのではなく、学生の気楽なメンタルを維持して、楽しく明るくテーマパークのように『異常な日常』を疑似体験できる魅力があったのは、とても良かったです。
僕は『トンチキな能力を持った異形たちが、その個性を思う存分発揮しつつ、静かにお互いを尊重しながら仲良く暮らす話』が大大好物でして、ファントムだから無条件に斬りかかるという暴力性が薄い、だらーっと平和的なこの世界が、とても好きでした。
エニグマを倒しお話が一つの終わりに行き着いても、別にファントムによって変化した『異常』な世界自体は『日常』として続くというのは、その『異常な日常』に愛着を抱いた視聴者としては、嬉しい終わり方だったね。

映像表現としては京アニのエフェクト技術本領発揮といった所で、すさまじい技術を惜しげも無く使って、すごい映像をたっぷり楽しませてもらいました。
ここら辺は制作集団のスケベ根性にも繋がるところなんですが、京アニのバトル描写はあまりに綺麗すぎて、泥臭い殺し合いの気配を遠ざけてしまうという贅沢な悩みを持っているわけですが、気楽でポップな能力バトルだった今作とは、そういう意味でも相性が良かったと思います。
例えば第7話や第12話みたいに、ホラーでゴシックなな雰囲気を出すところではしっかり出せていたしね。


癖の少ない、でも身の丈の範囲で一生懸命で、ギャーギャー賑やかながら仲間を大事にしているキャラクターたちも、なかなか好きになれる気の良い連中でした。
主人公・晴彦のスケベ具合が非常にちょうど良くて、女の子にたっぷり囲まれた状況に少しドギマギしつつも、自分の性欲よりも仲間とともに過ごす時間のケアと、ファントムによって引き起こされる少し困った状況を優先してくれる真面目な姿勢が、とても良かった。
そんな晴彦を視聴者が世界を体験するための透明な窓で終わらせるのではなく、最終三話を全て晴彦の掘り下げに回し、母に捨てられた寂しさや苦しさといった苦い感情をしっかり拾いに行く構成も、キャラを大事にしていてよかったですね。

アニメオリジナルのキャラクターであるルルも、元気に跳ねまわって場を明るくしたり、愚者として質問を投げることで世界観説明のチャンスを作ったり、まさかのメインヒロインとしてラストエピソードで大きな仕事をしたり、獅子奮迅の大活躍でした。
彼女にもしっかり一話を割り振り、『人間に協力的なファントム』が感じる望みだとか、疎外感だとか、仲間を思う気持ちだとかを甘酸っぱく描いてくれて、非常に有りがたかった。
個別エピソードがどれも安定して良い話であり、必要なだけスクリューが効いてありきたりという感じではなかったのは、このアニメのストロングポイントだったと思うなぁ。
……舞先輩だけが個別回貰ってない気もするが、第11話で晴明と一気に距離を詰めたからイーブン……なのか?

毎回アバンの枕で展開する晴彦のトリビア披露は最初、いかにもな知識人Disを感じてあんまり好きになれなかったのですが、各話のテーマをコンパクトに披露しつつ、知識で弱い自我を保護している晴明のキャラ表現でもあると受け取れるようになると、素直に見れるようになりました。
ああいう形で自分を守るしかなかったほど、家族の離別に傷つけられた晴彦がかなり高度な社会性を維持できたのは、そもそもの性格が良かったのか、はたまたルルというアニムスが彼を救っていたのか、どっちなんだろうねと。
晴彦がベラベラ本で得た知識を喋る事自体が、単なるキャラの個性で笑いを取るコメディの一手ではなく、最終エピソードで軸になる孤独と『本』への愛着に繋がっていくのは、なかなかリッチな構成だったと思う。

京都アニメーションが苦手とする『俗な感じ』をどう扱うのか、お手並み拝見という気持ちで見始めたアニメでしたが、自分たちの武器をストーリー構成・世界設定と巧くすりあわせて、巧妙に気持ちの良い物語に仕立てあげた、上質なシリーズだったと思います。
人外含めて明るい部活の空気だとか、晴彦の清潔な主人公っぷりだとか、トンチキなファントムワールドそれ自体の描き方だとか、様々な要素が個人的な好みにズパッとハマり、まるで『俺のために誂えてくれたんじゃ……』と思えるような、楽しいアニメになってくれました。
どう足掻いたって『お行儀良く』なってしまう制作集団としての業を巧く乗りこなし、毎日楽しいエンターテインメントとして仕上げてくれた、凄く好きになれるアニメでした。
とても素敵でした、どうもありがとうございました。