イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

少年メイド:第1話『働かざるもの食うべからず』感想

"ヤマノススメ"(もしくは"ワルキューレロマンツァ")の山本裕介エイトビットコンビがお送りする、おさんどん少年(開始五秒で天涯孤独)とエキセントリックな叔父が主演の擬似家族コメディ。
『あの天性のフェティシストに美ショタと変態を与えたら、一体どうなっちまうんだ……ッ!!』と部屋の隅でガタガタブルブル震えてましたが、蓋を開けてみると不器用ながらお互い寄り添おうとする男二人のお話として、しっかりハートフルにまとまってました。
流石や……所々に濃厚な性癖が染み付いて見えるが、まぁそれも味っていうか、エグい性欲の味を感じるからこそ独特のテイストに仕上がってるっていうか。
どっちにしろ、明るく朗らかで少し変態的な、僕のとても好きな第一話でした。

『家事が得意な美少年が、変態趣味の叔父に引き取らえる』というフレームからは濃厚な少年性愛の臭いを感じるわけですが、蓋を開けてみるとハートウォーミング重点でして。
ジャンルとしては"東京ゴッドファーザーズ"とか"フルーツバスケット"といった、癖の強い他人がだんだん家族になっていく過程が面白い『トンチキ人間寄り合い所帯』アニメなんじゃないかと感じました。
まーブリムと半ズボンの組み合わせからも分かるように、作者の性癖は隠さないどころかガンガンアクセル踏んでいくがな!
それもまた良し! である。

いろいろと良いところのあるアニメなんですが、何よりもまず主人公・千尋くんが健気で可愛い。
母と帰るべき家を失った孤独に苛まれつつ、どうにか前向きに生きようと気合を入れ続け、家事に頑張る姿は無条件で応援したくなります。
自分の寂しさを認められず、ツンツンした態度を崩さない頑是無さも、年を考えるとむしろ完璧になりすぎずに愛おしいというか。
何も持たない少年に唯一残された『家事』という武器がお話の真ん中にあるのも、彼の頑張りを強調する舞台として機能していて、とても良い。
やっぱ『自分に出来る限りで必死にやってるけど、どうしても半歩幸せに届かない』バランスが、共感できるヒロインには必要やな。

『美ショタに半ズボンメイド服着せてぇぇえええ!!』という欲望に素直に話は展開しますが、お話のもう一つの軸である『他人が家族になっていく話』を損なわないよう、丁寧にエクスキューズを用意しているところも良い。
一見庇護を餌に大人の欲望を少年に押し付けているようなんだけど、千尋くんが『働かざるもの食うべからず』という母の教えを自分の気質にしてしまっていて、無条件の援助を受け取らない子供だというのは、作中何度も強調されるところです。
円おじさんが『守ってほしかったら……分かるね』という取引の形式を出してきたのも、自分の真心を上手く受け取って守られないギクシャクした関係を踏まえて、それでも千尋くんを手元においておきたかったからつうのが、結構あるわけです。
いやあのオッサン、言い訳のしようもない少年愛性欲者だけどさ……妄想こそを愛して実行に移さないタイプなのが、救いといえば救いなのか。

千尋くんは健気に頑張る、愛せるタイプの主人公なわけで、そこに付け入って大人の都合のいいよう使い潰す展開は、あんま見たくない。
そういう意味では、彼が提供できる家事労働を『彼が楽しいからやっている』という自発的行動としてみせたのも、なかなか上手いところです。
まぁ子供だから無条件に愛されていいんだけど、なにか対価を用意しないと他人に愛されるのに納得出来ない性格のようだし、視聴者も『労働と庇護の取引』というロジックが幸福を引っ張ってくる展開のほうが、偽善的気持ち悪さを感じないというか。


円おじさんは基本ヘンタイの駄目人間、時々シャキッとかっこいい所見せる系の主人公。
彼一人だと『天涯孤独になった甥っ子に、メイド服着せて家事させてる』という状況のインモラルさとパワー・ポリティクスっぷりだけが浮き彫りになるわけだけど、ここで篠崎さんというクッションを挟んでいるのがとても上手い。
常識人で論理家、状況をまとめてくれるけど変態としての面白みがない彼は、円おじさんに足らない部分をしっかり補い、ともすれば閉塞しがちな状況に常識の風を取り込んでくれる、大事な窓です。
冷静で普通の第三者を間に挟むことで、物語の都合の良さが加速し過ぎないよう手綱を握るのは、この変態的物語がギリギリ普遍的な所にとどまる、大事な部分だと思います。

基本的にこの話の家庭内政治は円おじさんが『上』で千尋くんが『下』という、経済的・年齢的・社会的パワーを反映した構図に収まるんだけど、『家事』という千尋くんの得意分野ではそれが逆転する様子を、コメディとして楽しく納めていたのも良かった。
ここら辺は円おじさんが基本駄目人間であることが上手く作用している所で、生活態度にあいた穴を千尋くんが埋めるパワーを持っていることで、一方的な支配/被支配の関係が破綻する気持ちよさ、状況変化が生み出す笑いが自然と生まれています。
『美ショタに半ズボンメイド服着せてぇぇえええ!!』というプライマルな欲望は大事にしつつ、こういう所で細かくケアをして、巧く平等さ(を装う態度)を物語に取り込んでいるのは、なかなか気持ちが良いところです。

このお話しはあくまで女装ではなく『男の子が女性性を含んだ可愛い服を着ている』ことに超拘る、フェティッシュな変態のお話です。
しかし同時に『他人が家族になっていく話』という一般的で普遍的な要素もはらんでいて、そのバランス取りは結構難しいと思う。
暖かで柔らかい色彩を活かし、絵から受けるイメージを上手く操作することで『この話はハートがウォーミングする、いい塩梅の絆の物語ですよー』というサインを的確に出していたのは、そのバランス取りに強く寄与していたと思います。
春の暖かな日差し、微睡む猫、緩やかな気温と新しい出会いの予感。
『この話はいいところに着地するッ!!』というムードが上手く醸造されていて、かなり非常識なことが起きているのにどこか安心する、良い釣り合いでお話が進んでいたように感じました。
やっぱ絵と色と動きが持つ印象を把握し、必要な所に必要な映像を置けるアニメは強いやね。

あと、『クソ変態の見知らぬ叔父とひとつ屋根の下』つーシチュエーションの、居心地の悪さをしっかり描いていたのも良かった。
それは感じて当然の情動なのでちゃんと絵にして物語に組み込んでくれると納得感が強まるし、これを乗り越えていくことで千尋くんの『他人と家族になる』物語は進んでいくんだろうし。
ハードルをしっかり描けばこそ、それを乗り越えた時の満足感というのは生まれるわけで、一気に変態的状況を認めるのではなく、その異物性も強調しつつじわっと滑りだしたのは、とても良いと思います。


と言うわけで、自分の欲望に素直になることで作品に熱を生み出し、同時に心温まる擬似家族の物語としても、丁寧にしっかりと踏み出している、とても良い第一話でした。
やっぱ主人公が可愛くて健気だと、お話にするっと入り込めるなぁ……円おじさんの変態性と優しさ、篠崎さんのクールな常識人っぷりも良くて、メインの座組がキマってる感じですね。
今後もハートウォーミングな面白さと、クッソド変態なこだわりがラッシュをかけてくる、『良い話なんだけど変態』『フェティッシュまみれなのに見てて気持ち良い』という、独特のバランスを維持してくれたら最高です。
いやー、このアニメ面白いよマジ!!