イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

コンクリートレボルティオ ~超人幻想~ THE LAST SONG:第14話『十一月の超人達』感想

もう一つの歴史を辿った昭和を舞台に、正義と英雄にまつわるオペラを組み上げていくアニメーション、堂々の帰還。
一期までは爾郎が超人課を離れる『ゼロ・アワー』を中間点に『過去編』と『未来編』を行き来していたのですが、今回は時間軸的には両方『未来編』
爾郎の中の正義が破綻した後の焼け野原を、矛盾する正義の装置として暴走し続ける柴警部=/≠鋼鉄探偵ライトとともに走っていく、なんとも悩ましいエピソードでした。
二十歳になってグラマラスな体を手に入れた輝子も、女の本性をむき出しにする鬼笑美も置いてけぼりにしてヒロイン力をギュンギュンあげる柴警部の存在感が半端なかったですね。


今回は柴警部の話であると同時にS遊星人=白田晃のお話でして、山寺宏一を合成に使った1話限りのゲスト、鷲巣雄星は『アンドロイド刑事=柴警部のシャドウ』であると同時に『正義の宇宙人=白田晃のシャドウ』でもあります。
話の真ん中に座っているのは爾郎も戦い続け、結果超人課を離れることになった『正義』のありかたであり、刑事にして超人でもあり、機械でもある柴警部の複雑さ、悪の身体を用いて善をなす白田の複雑さは、常にシンプルな行動理念を持つ鷲巣と対比されています。
柴警部に背後から撃たれ解体されてしまう鷲巣の姿は、シンプルさがそのまま強さにつながらない神化世界の面倒くささを教えているようでもあります。

このお話における『正義』の複雑さは一期からずっと真ん中に居座る大きな問題であり、柴警部は機械で処理するにはあまりに難しい矛盾に悩み、現実認識が破綻しはじめる。
結果、非常にシンプルに『法=正義』という方程式を信じる鷲巣に『悩まなくてよかった過去の自分』を見て取り、ぶっ殺して頭を開いて良心回路を埋め込みます。
自分の影であり過去でありイノセンスでもある鷲巣と、対話するのではなく暴力で抵抗力を奪い、強引に欲しいものを手に入れて終わるお話の救いの無さは、非常にこのアニメらしいといえばらしい。
過去と和解し、バランスの取れた『正義』を見つけられる存在など誰も居ないからこそ、爾郎は超人課を飛び出してテロリストとなり、超人課は人民を抑圧する権力の暴力装置に組み込まれ、柴警部は鋼鉄探偵ライトとなる。

第3話でも描かれていたように、今の柴警部は脳髄まで機械化されたいわば過去の柴警部のコピーであり、鉄と骨の中間地点で悩み続ける危うい存在です。
『心は神聖なもので、価値観は身体の侵食を受けない』とするナイーブな心身二元論はここでは打ち捨てられていて、難しいことを考えると発熱してしまう電子の頭脳の限界は、そのまま柴警部の正義の限界として描写されています。
ここら辺は同じ戦後世界を描いた"魍魎の匣"ラストで京極堂が言った『機械に接続された脳が見るのは、機械の見る夢だ』という呪いを少し思い出しました。
とすれば、矛盾を解決するべく鷲巣の身体性を略奪し、自らのものとする解決法、柴警部が鋼鉄探偵へと変わった分岐点もまた、柴警部個人の選択なのか怪しくなる。
爆弾を用いて札幌オリンピックを粉砕しようとしたテロルへの意思が、かつて人間だった柴警部が望んだのか、機械の身体たる鋼鉄探偵が目指したのか、それとも暴力的に奪った鷲巣の脳髄が見た夢なのか、それを判別する手段はありません。


特定のキャラクターと共通する『何か』を有しつつ、違った理想と身体を持つ『シャドウ』を大量に配置するのはこのアニメの劇作の特徴ですが、柴警部と鷲巣がお互いの影であるように、爾郎と柴警部もよく似ていて歪んでしまった鏡像です。
生物的身体を持つ爾郎は『ゼロ・アワー』を経て、課長達上位宇宙生命の力を借りつつ、自分を疑いながら自分なりの『正義』を探す、比較的バランスの取れた生き方を選択できています。
『過去編』では暴走させるしかなかった(=それを制御可能な『暗き母』笑美の影響下にいるしかなかった)能力も、『もうエクウスいらねーな!!』っていうレベルでしっかり自分のものにしている。

これに対し、爾郎と入れ替わる形で超人課に協力することになった柴警部は、激変する日本の超人行政、『法』というこれまでの信念では掬いきれない市民活動家の増加、機械化した身体とあくまで人間的な自己認識の間で苦しみ、ついには『殺人』という形で内破してしまう。
爾郎が爾郎のままバランス良く乗り越えた『正義』と『不正義』の境界線を、柴は巧く突破できず、アイデンティティを『柴警部』と『鋼鉄探偵』という2つに分裂させて乗り切るしかなかった。
爾郎が鋼鉄探偵を憐れむのは、無論『正義を信じる人の味方で在り続ける』という爾郎の『正義』が要求するからですが、同時にこのような迷走と類似を目の当たりにし、そこに(柴警部が鷲巣に見たような!)過去の自分を見つけたからこそ、彼を守るべき存在と認識したのでしょう。

変化によってアイデンティティを揺るがせているのはもう一人の主役、グロースオーゲン=S遊星人=白田晃も同じでして、宇宙の摩訶不思議な生命やり取りの結果、彼の身体的身分は『正義のヒーロー』から『札付きの凶悪宇宙人』に変わってしまっている。
鷲巣がS遊星人という身体的アイデンティティに張り付いている『不正義』を問題視する秩序の象徴だとすると、彼を仲間に迎い入れた爾郎は身体性よりも内面の『正義』を重んじる反秩序に位置する存在です。
結果として柴警部の不意打ちにより鷲巣は強制的に黙らされ、彼の『正義』は執行不可能になってしまうわけですが、しかしそれは『身体の不正義は、その個人の不正義である』という彼の認識が誤っている、ということではない。
暴力によって生き延びることは己の正しさを証明しないが、同時に死んでしまえばそれ以上正義を語ることも出来ないというシビアな現実認識が、今回の鷲巣が見せた呆気無い『死』には見え隠れしています。

鷲巣殺人事件を引き金に柴警部は鋼鉄探偵へと変わり、『法』に則って『正義』の使い方に悩む立場から、己の暴力こそが『正義』であるとするテロリストへと変化してしまう。
ラストカットで頭に突き立っていたチップは、鋼鉄探偵の機械の身体が持つ安定した不安定さを象徴すると同時に、他者を害して手に入れた自我の不可逆性も、しっかり象徴していたように思えます。
いかに『故障』とか『修理』とか、二人の『鉄骨のひと』の身体性を機械の言語に翻訳したところで、やはりあの事件は殺人であり、錯乱の末に犯してしまった柴警部は、もはや後戻りできない所にいるのだと思います。
それでもなお爾郎とイチャコラ漫才する人間性が残っていることを喜ぶべきか、まだ柴警部だった頃に己の悩みを歌に溶かす余裕がなくなってしまったのを嘆くべきか。
難しいところですね。


男たちの物語はこんな感じで複雑に絡み合ってましたが、爾郎を追いかける二人の女の情念もまた、すごい勢いで加速していました。
星の子はすげームッチムッチになっててびっくりですが、アプローチの仕方も素敵に卑しく、恋心全開で隙だらけでした。
自分の目的のためなら、輝子を利用するのも躊躇わない爾郎の汚れっぷりが、『時間は否が応にも進んじまったなぁ……』と慨嘆させるのに十分であり、ビッグ星の子の卑しいムーブを見てると、『彼女ももうイノセントじゃねぇなぁ当然……』という気持ちにさせられる。
でも第1話で言ってたとおり『もう二十歳になって』しまった、体も心も子供ではない今の輝子、俺すげー好きだよ。

そんな輝子・ザ・ボインのライバルたる鬼笑美は相変わらずの情念の鬼っぷりであり、獣顔がこえーのなんの。
OPで露骨に左目損壊してて、ゲゲゲモチーフを隠さなくなっとるのう……。
爾郎が『ゼロ・アワー』を経て子供時代の自分と決別し、イノセンスを守るためにイノセンスを汚す大人の勇気を手に入れてしまった現在、笑美も焦ってる感じでしたね。
逆に言えば庇護されるだけだった爾郎も、笑美の苦しみや優しさをほんとうの意味で理解する準備が出来てきたということであり、この二人の関係も二期で深まりそうですねぇ。

二人が在籍する超人課も、忍者部隊が所属する国家公共保安部主導で官民問わずの弾圧体制が整備され、望むと望まざると悪魔の機械の歯車に組み込まれていました。
弓彦が正式にメンバー加入してたみたいだけど、ロボット作った警備会社は里見資本かなぁ……視察してたし。
『新宿擾乱』以降の超人規制主義の流れを操って、超人が超人を狩る体制を強化してる里見の狙いが一体何かってのは、二期で大事なポイントになりそう。
クソみたいな陰謀劇を操ってた課長が爾郎側について、しかも爾郎がまるで『正義の味方』みたいに扱ってる所とか、色々怪しげな部分がちらほら見える回でしたね。

それにしたって超人化の自演作戦がまんま第5話と同じで、全く変化も進化もしてねーなてめーら! と言いたくなる。
ただのケダモノをケダモノらしい幸せの中から引きずり出し、公共の敵として便利に使うクソエゴイズムは自分の中で凄い嫌悪感を誘うものなのだが、今回は柴警部を核としたメカ怪獣による自演だったので、まぁ良しとしてやろう。
あの可哀想なエテ公とおんなじ事を繰り返すのは、正直もう勘弁して欲しい……他の何よりガゴン関係が一番心に刺さってる辺り、俺結構変な角度からこのアニメ好きなんだな。


というわけで、様々な人の『正義』が混濁し、一人の鋼鉄人が過去の己を殺し怪物を生み出す、なんとも救いの少ないお話でした。
過去の仲間を利用し、殺人者すらも『仲間』として向かい入れる爾郎の『正義』がどのようなものなのか。
イノセンスな自分自身を暴力で否定し、曖昧な『法』を打ち捨て『暴力』を手に入れたライトが、今後どこに行き着くのか。
露骨にあさま山荘事件モチーフの内ゲバに「それでも、彼らを守りたかったんだろう?」と聞いたのは、真実を突きつけたのか、希望に縋りたいだけなのか。
男二人の今後が更に気になる、コンレボ二期最高の滑り出しでした。
いやー、やっぱコンレボ最高におもしれぇなマジ。