イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョーカー・ゲーム:第2話『ジョーカー・ゲーム(後編)』感想

煮詰まった戦中政治事情をスパイたちが泳ぐさまを、IGのイカす作画と川井憲次のゴキゲンな音楽でお送りするアニメ、今週は第1エピソード後編。
前回さんざん性格の悪いイケメンたちにイジられた佐久間さんが、ハラキリピンチから覚醒し、スパイのやり口を盗みとって運命に一発カマす逆転物語でした。
前編の暗いムードでたっぷり抑圧しておいて、暗号の隠し場所の意外な真相、そこからさらに踏み込んで窮地を好機に変える既知の楽しさと、開放感のあるお話でした。
アクションシーン一回もない会話と陰謀のドラマなんだけど、絵作りがすげー良くて、見ててダレないのはやっぱスゲーな。

前回は『これがイケてるスパイスタイルだ! そしてこれが、それを理解できない陸軍の愚か者だっ!!』って感じで、道化役を担当させられていた佐久間さん。
しかし考えてみれば陸軍生え抜きの超エリートであり、顕になったシックスパックを見ても分かるように、資質はあるわけです。
土壇場で『神聖にして侵すべからず』権力の中枢という死角に気づき、生け贄の立場から主導権を握り直す流れにも、気持ちよさと説得力がある。
まぁ性格悪いイケメンにさんざん嬲られて、全然良い目なかったわけで、同情票もたっぷり集まってたしね。
道化役にしっかりプライドを取り戻させて、美味しくて気持ち良い役をちゃんとやらせてくれるアニメは、好きだし良いと思う。

そこから武藤大佐の狙いに気づき、証拠と状況を整えて意趣返しをするさまは、情報のピースがパチリパチリとはまっていく快楽もあって、非常にテンポが良かった。
『建前の情報に流されず、自分の利益と使命を達成する』っつー、散々馬鹿にしてきたスパイのやり方を学び取って逆転するドラマも、前回とのつながりを感じて見事でした。
ここら辺はさんざん佐久間さんの石部金吉っぷりを強調しておいたからこそ生まれるカタルシスで、今回アバンで『立派な鰯の頭』が生まれる様をわざわざ挿入したのも、あまりに頑なすぎる佐久間さんの現状確認って意味が大きいんだろうね。
同時に『御真影』を印象づけて、後の暗号隠しゲーム解答編をすっきり見せる意味合いもあるのだろう。
やっぱ構成上手いなぁこのアニメ。


構成という意味では、前編後編通して考えるとこのエピソードは『青年将校佐久間が、旧弊で意固地な自分を投げ捨て、スパイという新しい知恵に触れつつ自分を捨てない』成長物語として受け取ることが出来ます。
一見スパイのカッコ良さだけで走り切るように見えますが、やっぱり物語に実感を宿らせるのは人間の生き様なわけで、その両方を大事に丁寧につくり上げる姿勢が、今回のお話にはあった。
雨と灰色に彩られた前編は突破しなければいけない閉塞した現状を強調し、スパイたちの嫌味な有能さも、それを佐久間さんが学んで成長するための前フリだったわけです。
ハラキリ回避というターニングポイントを超えた後は、桜を印象的に使いつつ、スパイのやり方で自分をはめた武藤大佐に意趣返しをし、結城中佐の秘密も冷静に暴き、あくまで陸軍という『自分らしさ』を保ったまま自分を手に入れる。

この成長をより印象的に見せるべく、『桜』と『太陽』が巧く使われていたのは面白いところです。
光を抑圧して陰鬱な空気を出していた前編と、様々なタブーと固定意識を取り払い、よりストレートに現実を見据える『目』を手に入れた後半の、明るい色彩との対比。
成長を祝福するように咲き乱れる桜は同時に陸軍の象徴でもあり、結城中佐の勧誘を蹴って『桜』の下に踏みとどまる佐久間さんの方へ、同士である陸軍兵達が行軍をしてくる。
上の意向に踊らされる捨て駒でも、苛烈に人間を使い捨てるスパイの世界とも決別した佐久間さんの『目』に映るのは、前後編通して描写されたかった『太陽』。
構図もバッチリ決まっていて、シーンの意図がよく塗り込められた見事な絵だったと思います。

結城中佐との決別シーンにおいて『桜の庇護下/それ以外』という境界線は印象的に使われてましたが、これは武藤大佐をやり込め、部屋から去るシーンでもそうです。
嫌味なスパイたちに鍛え上げられた青年は、もはや形骸化し権益保存に汲々とする腐った陸軍と同じ目線ではいられないので、敷居を乗り越えて部屋を後にする。
その時足がアップになるのは、成長を果たした青年が過去の自分と決別する物語的意味合いを、巧く強調する演出です。
その後ヒキの構図で荒れ狂う武藤大佐をガラス越しに捉えるのも、佐久間さんが手に入れた冷静な視点を巧くヴィジュアル化しており、映像作品の楽しさを強く感じました。

この『映像に意図を込める技術の高さ』こそが、ジョーカーゲームの強さかなぁと思います。
世界設定やキャラクターの配置からして、あまり派手なことは出来ないし、淡々と人生を映すことでスパイの無常さは浮き彫りになり、わざわざこの時代設定・人物設定を選びとった理由も強調される。
味の濃い見せ場を用意できない中で、場面場面の圧力と緊張感がしっかり高まり、視聴者の目線をぐっと引き付けるパワーがあるのは、とても良いことだと思います。
ここら辺は実力派を揃えた声優陣と、それに対するディレクションも大きな助けでしょう。


と言うわけで、ジョーカー・ゲーム最初のエピソードが終わりました。
正直な話前編だけでは『はいはい、嫌味なイケメンがスパイスゲーって持ち上げられて、実直な人が道化役になる話ね』と受け取りかねないんですが、その嫌味をむしろ活かして、一人の青年将校の成長物語として爽やかにまとめたのは、非常に見事でした。
こういうスクリューがしっかり機能するためには、映像が視聴者にどんな印象をあたえるのか、的確に把握し操作する腕前が絶対必要になるわけで、それを証明する意味でもいいお話だったと思います。

こうして佐久間さんの話は終わったわけですが、来週からはDボーイズから一人ずつ選んで主人公を担当してもらう感じか。
Dボーイズたちを爬虫類的な見分けの付かなさで描いていたのは、顔の見える佐久間さんに感情移入させると同時に、今後主人公として生き様を掘り下げられるだろう彼らの、白紙の状態を視聴者に覚えさせるためだったのかなぁ。
個人個人の物語を背負うことで、ぬめっとした白面にどういう表情が刻まれていくのかが、凄く楽しみですね。

短編連作であえて主人公を置かない形にしたのは、戦中という時代、D機関という組織、スパイゲームというジャンルそれ自体を主人公とする、なかなか面白い作りを可能にもしています。
そして、人格を持たないそれらに存在感と説得力を持たせるためには、絵としての緻密さと、非人間的なものに人間性を宿らせる演出の妙味が必要になる。
それがこのアニメに可能かどうか、しっかり証明する仕事は、雰囲気満載の第1エピソード、しっかり果たしたと思います。

来週はナチ統治下のフランスに舞台を移し、記憶喪失をネタに使ったお話が展開される模様。
トリッキーな知恵比べの楽しさと、今回佐久間さんを主役に据えて描き切った人間の面白さ、両方を楽しめるお話だと良いなぁ。
うむ、ジョーカー・ゲーム、凄く面白いし、凄く良いアニメだぞ!