イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダムUC RE0096:第3話『それはガンダムと呼ばれた』感想

第1話アバン以来のご無沙汰ぶりでした! 早起きキッズのみんな待たせたね!! みんな大好きガンダムの登場だよ!!! っていう回。
大人たちの思惑が罪もない犠牲者をどんどんと生む中、主人公バナージ君は純粋な思いで突っ走り、カーディアスおじさんはその眩しさにキュン死。
赤く変形する怪しげなガンダムをもらったバナージくんと、連邦に保護されたオードリーの未来はどっちだ! って感じの話でした。
MS戦闘シーンは相変わらずかっこいいが、同時に巻き込まれた人たちのエグい死に様をちゃんと写していて、視聴者が格好良さで溺死できない作りなのは良いと思うな。

今回は主人公が父と死別し、『神にも悪魔にもなれる力』を託されるという大きな回なんですが、実は負けず劣らず印象に残った人がいます。
シェルターに生徒を避難させた後ジュッて蒸発しちゃった先生の姿が、どうしてもまぶたに焼き付いて消えない。
それは多分、バナージが今回問うた『人間の死に方』と『大人のあり方』に、彼が無言で一つの答えを出しているからだと思う。

つまんない歴史の授業をして、生徒に馬鹿にされていた先生は、己を犠牲にして為すべきことを為し、死体すら残らない殺され方でお話から消える。
一方『大人』達はみな連邦だのジオンだの『箱』だの人類の革新だのを振りかざし、下らなくも大切な日常を謳歌していた民草を虐殺する。
その裏側にあるのは(おそらく)ビスト財団存続という利権であり、『大義』それ自体をアイデンティティへと変えてしまった自分を守るための、エゴイスティックな自我防衛戦だ。

ジンネマンが顔の見えるバナージを、『子供はいい』と言いながらテロリズムの対象外としても。
マリーダさんがコロニーにダメージがないよう、サーベルとビットによる戦闘を選んだとしても。
そんな個人レベルの配慮は全て横において、コロニーには大穴が開いて、これまでガンダムシリーズの中で何度も繰り返された『人間がしちゃいけない死に方』が発生してるし、バナージの友人たちも蒸発してしまった。
『俺には覚悟も大義もない』と言い切るバナージは一見無責任だが、その『大義』と『覚悟』が身勝手な大量殺戮の看板に使われている状況を見るだに、彼の純粋さは微かな救いとして描かれている。
それは多分、ものも言わず、取るに足らない人数を助けて死んでいった先生が証明した『良い大人』に繋がるものであり、同時にそれほどの義人がビームで蒸発してしまう状況への抗議でもあるのだ。

『人間は人間らしく死ぬべきだ』
『大人は大義や覚悟に酔っ払わず、人間が本当にするべきことを為すべきだ』
ともすれば心に響かない綺麗事で終わるバナージの主張に視聴者が頷くためには、一つにはあまりにも不自由な『大人』たちの状況を描き、もう一つにはバナージ本人を応援できるように話を組み立てる必要がある。
バナージは感情の赴くままに行動しているが、それは惚れた女に必要とされるためであり、『人間がしちゃいけない死に方』に追い込まれた友人たちの無念を背負ってのものでもある。
オードリーに惚れ込んだのも、彼女が藤村声の可愛いヒロインだというだけではなく、
むっつりした表情の奥に熱い感情を隠していた彼は、自分ではない誰かのために、そして硬直した『大義』ではなくもっと柔らかな真実のために行動できる、勇気と優しさを兼ね備えた男なのだ。


このアニメはガンダムであり、当然誤った『大義』の発露はMSという暴力装置を用いて行われる。
これに対抗しうる力が、赤く変形する異形のガンダムユニコーンである。
大意は伝わるんだけど、抽象的な言葉ばっかり選ぶので細かい所は全然わかんねーカーディアスおじさんの形見として託されたそれは、『NT-D』なるスーパーモードが搭載されているわ、どうやら『箱』にまつわる特別機体らしいわ、謎が多い。
連邦のリゼル相手に無双してたマリーダさんを、実戦経験のないバナージが押せる辺り、『ガンダム』を関するに相応しい超機体っぽいが……とーさんもうちょい説明してから死んでよ!!
あとフラッシュバックしてた子供バナージの拷問強化シーンは、一体何なんだよ!!
♪わからないことだらけ ポケットに地図なんて持ってな~い♪(混乱のあまりサンライズ繋がりで流れ始めるこれサム)

失礼、取り乱しました。
ユニコーンが赤くなり、金色双角のいわゆる『ガンダム顔』を明らかにした時の周囲の反応は、メタ視線まで組み込んだなかなか面白いものだった。
無印のTV放送から35年、『ガンダム』は1アニメシリーズを超えた文化アイコンであり、『ガンダム顔』には特別で複雑な意味が、既に篭ってしまっている。
作中時間で一年戦争から16年、ジオニズムがアクティブな政治潮流ではなく、多大な犠牲を産んだ敗者の哲学に変わってしまったUC世界においても、その威光は健在であり、只の暴力装置を超えた『何か』を背負わされている描写は、作中のキャラクターのものであると同時に、視聴者のものでもあるのだ。

こうして鳴り物入りで登場したユニコーンガンダムが、選ばれた乗り手たるバナージを、どこに導いていくのか。
それが今後の物語を牽引する強力なエンジンであるのは、何となく感じ取れる。
ビスト財団肝いりで極秘開発されていた様子といい、生体認証により唯一のパイロットとして登録される様子といい、初代ガンダムがそうであったように、ユニコーンには数多の暴力装置から選び取られた、特別な意味が込められている。
それが何であるかは、『箱』を巡る武装勢力との戦いの中で、バナージと僕ら視聴者が見つけていく(もしくは6年前に既に視た)ものなのだろう。


現状勢力の動き方をまとめてみると
・『箱』を公開し何らかの変化をもたらそうとしたカーディアス(死亡)
・カーディアスを殺したビスト存続派+その利権にくっついてきた連邦特殊部隊
・シャアのなりそこないみたいのがトップの『袖付き』
・『箱』が生み出す戦争を止めたいオードリー
・そんなオードリーに惚れつつ、カーディアスおじさんからユニコーンを貰ったバナージ
・そんな二人を保護した連邦(ロンド・ベル?)
・巻き込まれてバンバン死んだコロニーの人たち
という感じか。

カーディアスを殺したおじさんが一体誰で、カーディアスとはどういう関係だったのかは一切説明されなかったが、ビスト系列の人間だとはわかるし、となれば利害対立が武力衝突に過激化したのだろうとも推測できる。
バナージは連邦に保護されたけど、ビスト存続派が連邦と繋がっている以上、色々厄介なことになりそうだなぁ……。
なんとなれば、カーディアスおじさん直伝の首コキャコンバットで戦うしかないな、バナージくん……おじさんはあの白兵戦技術、どこで手に入れたんだろうか。

『袖付き』もやる気満々で『悪い大人』してたけど、偉そうに指示出してたシャアっぽい人は一体何なのか。
主役MSも顔を見せ、お話に落ち着きが少し出たとはいえ、やっぱわからないことだらけだな。
オードーリーという玉を連邦に取られた状況では動きにくいし、ジンネマンさんもリベンジに燃えてるしで、こっちもちょっかいを出してくるのだろう。
こうして纏めてみると、ホントややこしい状況だな……真っ直ぐが取り柄のバナージ君は、巧く動けんのかねぇ。

そんなわけで、色んな人を不幸にしつつ、主人公が強力な力を託され旅立つお話でした。
戸松声の幼馴染を置いていくことで、巧く日常との離別を表現したなぁ……とか思ったんだけど、保護された先で合流するよね多分。
クソみたいな『大義』を振りかざして他人を不幸にする『悪い大人』の中で、バナージは何にぶつかり、何を守るのか。
来週以降もとても楽しみです。